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第六章「狐の嫁入り」


 ──手紙を受け取った桐野利秋は、それをじっと見つめていた。


 「僕は雨になろうと思います」


 ただ、それだけの短い文章。

 しかし、その一言に込められた意味を、彼はすぐに理解した。


 ──こいつは本当に変わったな。


 明治という時代の中で、武士道を新しく作り直そうとしている。

 かつて雷のように咆哮し、時代を斬り開こうとした者たちとは違い、乃木は雨のように静かに、しかし確実に、大地を潤そうとしている。


 桐野は、苦笑した。


 「はは……馬鹿がつくほど真面目な奴だな、まったく」


 手紙を畳み、懐にしまう。

 その仕草には、どこか満足げな色が滲んでいた。


 子供たちは相変わらず元気で、今日も彼の後ろをついて回る。


 「ねえ、谷おじさん!」


 「……だから、誰がおじさんだ」


 「乃木のお父さんからお手紙が届いたんでしょ? なんて書いてあったの?」


 「あー……」


 桐野は、どう言葉にすればいいか迷った。

 乃木の手紙はあまりに簡潔すぎて、子供に説明するには難しい。


 結局、彼はこう言った。


 「……お前らの父親は、しばらく帰ってこねぇけど、しっかりやってるってさ」


 「そっかぁ」


 子供たちは素直に頷き、また元気に遊び回る。


 桐野は、ぼんやりと空を見上げた。

 蒼天が広がっている。


 しかし、その青空から、ぽつぽつと雨粒が落ちてきた。


 ──天気雨。


 俗に言う、「狐の嫁入り」だった。


 彼は思わず、くくっと笑った。


 「……青天の霹靂、ってやつか」


 この変化を、かつての武士たちはどう見るだろう。

 雷から雨へ──武士道は確かに変わった。


 だが、それが悪いことだとは思わない。

 雨が降るからこそ、大地は潤い、次の世代が育つのだ。


 そして、彼自身も──


 「さて、もうちょい居座ってやるか」


 この空が晴れるまで、もう少しだけ、この家に居候してやろう。

何で桐野=狐なのかというと。

彼は吉野郷という場所に縁があるのですが(出身地だという説もあるそうです。諸説あります)その吉野郷に狐が住むという設定の大石兵六夢物語という作品が幕末の薩摩でよく読まれていたのだそうです。そこから着想しました。

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