第二章「フランクリンの雷」
雷の正体を突き止めた男がいた。
ベンジャミン・フランクリン。
雷が天の裁きではなく、電気であることを証明した彼の実験は、世界を変えた。
そして今、乃木希典は一人の男を調べていた。
それは、かつて戦場で雷のように戦った男――桐野利秋。
彼の正体を知ることで、雷の武士道の本質を見極めようとしていた。
西南戦争の後、桐野は戦死したと報じられていた。だが、乃木はその報道を疑った。
なぜなら、戦場で見た桐野の動き――あれほどの男が、そう簡単に死ぬはずがない。
乃木は情報を集めた。
戦場での戦いぶり、交友関係、彼の素性。
そしてある日、一枚の古い写真を手に入れた。
左手の指先に、小さな傷がある。
それは、高瀬の戦いの時に乃木が見た傷と同じものだった。
戦場での記憶が鮮明に蘇る。
雷のように戦い、雷のように撤退した男――桐野利秋。
「……生きているのか?」
乃木の胸に、一つの確信が芽生えた。
フランクリンが雷の秘密を解き明かしたように、乃木もまた桐野の武士道の真実を知る必要がある。
彼は、さらなる調査を始めることを決意する。
だが、この時の乃木はまだ知らなかった。
自分が「雷」に出会う日が、すぐそこまで迫っていることを――。