9.青春同好会、新人(仮)!
「さあ、明日何をする!?」
パチパチ。
まとまりのない拍手が送られる。
俺は未だに腕を縛られている。
だから拍手はしていない。
「いや、まず解放してくれ」
自由に動けないのは辛いのだ。
「ダメ。解放したら逃げるでしょ?」
「そうかもだけど、でも、逃げないから、ほら!」
「確証がないからダメ」
「くそ……」
逃げないと言ったのは、本心だ。
頭の片隅でチラつく。
新樹先輩が非常階段の扉を蹴とばした記憶。
暴力を振るうような先輩には見えないが。
火之浦先輩の一言。
それでもし扉を蹴とばす力が俺の方にむいたら?
それが怖くて怖くて。
本当に逃げないから、いい加減取ってほしい。
腕のタオル。
「いいわ、凍里。取ってあげなさい」
「いいの、リーダー?」
「どうせ逃げないわよ、伊久留は」
「それはどういう根拠?」
「私が認めてあげたんだから、逃げるわけないじゃない!」
「……はあ」
ため息をついて、水無瀬先輩はササッと俺を解放してくれた。
やっと一息。
「いいんですか?」
「リーダーが言ってるから」
「それで俺が逃げたら?」
「その時はその時考える。それが私の役目だから」
「かっけーすね」
「陽乃女に蹴りを入れてもらう」
もう絶対逃げません。
ここに誓います!
「さあ、伊久留も解放したことだし、会議を再開しましょうか!」
「わ~い!」
「伊久留が入って、初めての会議だから緊張するわね!」
「いや入ってない」
「それじゃ、まずは今日の反省からかしら?」
「だから入ってないって……」
青春同好会の雰囲気に流されそうになるが。
俺は別に青春同好会に入るとは言っていない。
ただ生徒会室にいたところを拘束・拉致された。
そして、この青春同好会の秘密基地とやらに連れてこられた。
それだけなのだ。
「いい加減諦めて」
「ですがね、えと、水無瀬先輩? 僕は他に部活とか色々見て入部を決めたいというかですね」
「え~、意外と楽しいんですよ~」
「それは個人の感想というかなんというか……」
初衣ねえの言うことは、なんだかんだ従った方がいい。
これは俺の経験則からくるものだ。
初衣ねえの言う通りに勉強を続けたら、 陽碧学園に入学できたように。
『青春同好会に関わるな』と言われたなら。
そうした方がいいに決まってるんだ。
「あら、伊久留は青春同好会に入りたくないの?」
「そうです」
「でも大丈夫。私がきっと楽しませてあげるからッ!!」
「…………」
「ね、リーダーの性格がわかったでしょ?」
まるで暴走機関車だな、この人は!
「諦めな、って言ってんじゃん」
「うぅ、生徒会室で初衣ねえを待ってただけなのに……」
「生徒会と関わっていたら、いつかは巻き込まれていたと思うけど」
「水無瀬先輩、それはどういうことなんですか?」
「生徒会に目をつけられているし、私達も生徒会を対象としたことをやってるし」
「そうよ! 生徒会は私達青春同好会の敵なの!」
「……ちなみに、なぜ?」
「私たちの邪魔するんだもん!!」
そりゃそうよ。
青春同好会が学園生活を乱してるんだもん。
どこに生徒会室にチョークの粉爆弾を投げ入れる奴らがいるんだよ。
非常階段の扉も蹴とばすし。
聞いたことないぞ。
「生徒会は敵というのは、青春同好会の共通認識だから」
一番気にしてなさそう水無瀬先輩がいち早くそんなことを言った。
「私はどうでもいいんですけどね~。その方が楽しそうですし」
「お、お姉ちゃん達がそういうならそうする!」
どうやら生徒会に対して思うところがあるのは、
火之浦先輩と水無瀬先輩のようだった。
「結局高級コーヒー豆手に入らなかったし!」
「予想以上に早く気付かれたのが原因だね」
「萌揺ちゃんがしでかしちゃったんですね~」
「ち、違うもん! 私はちゃんとしてたもん! 多分入学式の件で対策されてたんだよ!」
「同じ手段を使うのはダメってことだね」
「今後その手段を使うのは、よしましょう!」
「コーヒー豆は今回は諦めよう」
「そもそも、コーヒー飲める人いましたっけ~?」
「「「 ………… 」」」
いないんかいッ!!!
「次は生徒会室にあるお菓子にしましょう!」
「それより料理同好会のお菓子をもらいに行きたい」
「あ、私料理してみたいです~」
「それはありね!」
わんやわんや、何をしたいかの案出しが行われている。
俺と土浦は、そんな三人から取り残される。
「話しかけてこないで!!!」
「まだ何もいってねぇ!!!」
土浦、俺のこと嫌ってやがる。
今日土浦姉の方に会ったけど。
姉妹なのにここまで雰囲気が違うものなんだ。
姉の方はフレンドリーな雰囲気。
妹の方は誰も寄せ付けない、まるで狂犬みたいだ。
そして、姉は生徒会で、妹は青春同好会と。
「同じクラスなんだろ? これからよろしくな」
「ふん!!」
「……一応挨拶はしたからな」
挨拶してなかったから、なんて言葉は聞きたくないし。
「美琴お姉ちゃんがあなたのことを認めても、私はあんたを認めないから」
「へいへい」
「なによその態度、むかつく!!!」
「ほら、喧嘩はダメですよ~」
グイッと、新樹先輩に肩を引き寄せられる俺と土浦。
肩を握る力が、女子は思えないぐらい強いんですけど!?
「さあ、次は新人二人の番よ!」
「へ?」
新樹先輩から押さえつけられた俺と土浦の前に立つ火之浦先輩。
「二人の番とは?」
「二人がやりたいこと! なんでもいいわよ!」
「はいはいはいはい!!!」
土浦が手をあげながら大声を出す。
「はい、萌揺!」
「御形抜きで旅行!!!!」
「長期休みじゃないから、却下」
水無瀬先輩から即却下が入る。
「じゃあ、遊園地!」
「それは春休みに行ったじゃないですか~」
次は、新樹先輩が乗り気じゃない。
「お腹すいたからご飯!」
「まだ夕食の時間じゃないわね」
火之浦先輩が腕時計を確認する。
時刻はまだ15時を過ぎたあたり。
「お姉ちゃん達、却下多すぎじゃない!?」
土浦が一言。
やりたいこと、楽しいと思ったことをやる。
そんなことを数分前に言っていたような気もするが。
「青春同好会としては、満場一致で決めたいのよね!」
意外と民主主義なのね。
「じゃあ、私は絶対反対するから、この男の意見は聞いちゃダメなんだよ!」
「それはそれ、これはこれじゃない?」
「ねえ、言ってること全然違うって!!」
火之浦先輩と土浦の言い合いが始まった。
「気分屋だから、うちのリーダー」
「振り回されるのが楽しいんですよ~」
水無瀬先輩と新樹先輩の談。
「お姉ちゃん、もっと私の話を聞いてほしいの!」
「もう。そろそろ萌揺も我儘をやめなさい」
「どの口が言ってんだか」
「ほら。伊久留もなんかないの!?」
「えぇ……」
そんな突然振られても困るな。
青春同好会に入ると言ってないんだし。
目の前の、俺を見る火之浦先輩の顔。
『期待の新人(仮)が一体どんな面白い提案をしてくれるんだろう』
そんな火之浦先輩の声が聞こえてくる。
それぐらい期待に満ち満ちた表情をしている。
だが、俺は青春同好会の活動を後押しするような意見を言わない。
というか、火之浦先輩を満足させられる意見をだせるのかどうかも微妙だし。
とりあえず、ここは無難な答えを言うのが正解か。
「帰りたい」
という至極真っ当な意見、自分の中の本音を言ってみた。
「それはそうだね」
「分かりますよ~、その気持ち」
「私の方がよっぽどまともじゃない!」
酷い意見に、土浦は激怒していた。
「いや、俺の方がまともだから! いきなり拉致された奴なら100パーセント同じ答え返すから!」
「いいわね! 伊久留の意見を採用!」
「「 はい!? 」」
陽碧学園には男子寮と女子寮はありません。
階ごとに女子限定などはあります。
なので、女子の部屋に男子が入ることなどは禁止されていません。
だから、セーフです。
社会的には、セーフなんです。
ちなみに、土浦の部屋はとても甘い匂いがします。
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