89.火之浦先輩との休日です! ③
「おいひ~」
「先輩、口にソース付いてますよ」
「伊久留、拭いて!」
「……はあ」
色んなものを食べ歩きしたり。
「伊久留、もうちょい右!」
「いや、絶対ここで合ってます!」
「私の方が正しい!」
「勝手に押さないでくださいよ! 俺のお金ですよ!」
ゲームセンターで色々と遊んだり。
「ほら、伊久留! この服可愛いと思わない?」
「なんですか、その鶏が服一面に印刷されている珍妙な服は」
「可愛いと思わない?」
「……すみません。思わないです」
火之浦先輩の買い物に付き合ったり。
火之浦先輩に連れまわされて、色んなことをやった。
大体が火之浦先輩が決めて、何をするかが決まる。
時々俺の意見も採用されながら。
これは楽しかった。
これはもう少しこうすれば面白いかも。
これは青春同好会でまたやろう。
色んな場所をまわりながら、その都度二人で感想を言い合った。
「陽碧市も楽しい場所が沢山ね!」
「そうですね。結構歩き回りましたけど、まだほかにも色々」
「そうね! 陽碧市って意外と広いわよね!」
「自転車とかあると便利かもしれませんね」
「青春同好会で自転車は何台も持ってるわ!」
「そういうのって自分のが欲しいじゃないですか」
「そういうもの? 青春同好会のメンバーじゃない」
そういえば、あれって誰の所有なんだろう。
もしかして、盗んだやつとかじゃないよな?
「あれは、古い自転車を貰って技術部に直してもらったの!」
どうやら、ちゃんと正規の手段で手に入れたものらしい。
「青春同好会って、結構技術部に借りありますよね?」
「そうね! いつも感謝してるわ!」
青春同好会って、厄介者扱いされているイメージがあったが。
技術部と親交がある点を見ると、意外とそうでもないのかもしれない。
技術部部長は嫌な顔してることが多いけど。
「おい」
と、そんな技術部の部長さんが前からこちらにやってくる。
「朝振りね!」
「もう夕方になろうとしてんのに、まだ元気だなお前」
「どうも」
「おう、新人。例の物持ってきてやったぞ」
技術部部長さんは作業服のポケットから、紙袋を取り出して渡してくる。
「あ、どうも」
例の物と言われても、中身が何かは分からない。
俺が朝拾った貝殻を使った何かだとは思うんだけど。
「じゃ、俺帰るわ」
「なんで俺達がここにいるってわかったんですか?」
俺は別に技術部部長と個人的に連絡をとっていたわけではない。
なのに、俺達と出会うことができた。
たまたまか?
「空からドローンでずっと追跡してたんだよ」
「え?」
「じゃ、またな」
技術部部長は大欠伸をして、陽碧学園の方角へ帰っていった。
「何を貰ったの?」
「いや、俺も何かまでは知らないです」
技術部部長から受け取った紙袋を開ける。
その中には、綺麗な貝殻のブレスレットが入っていた。
貝殻は綺麗に研磨されていて、何かを塗られているのか光沢もある。
「とても綺麗ね!」
「……凄いな、あの人」
まさしく職人技。
外で販売しても遜色ないレベルだ。
アクセサリーにそこまで興味のない俺でも、見惚れてしまった。
「これ、どうしたの?」
「朝貝殻拾ってたら、部長が持って行ってしまって……」
俺が頼んだものではない。
だから、この使用用途が全く不明だった。
「…………」
「……?」
隣で、火之浦先輩が貝殻のブレスレットを欲しそうに眺めている。
「……いりますか?」
「え、いいの!」
俺はそこまでオシャレに興味はない。
多分このブレスレットを持って帰っても、ずっと使わずそのままだと思う。
なら、欲しそうにしている人にあげるのがいい。
「やったあ! 伊久留、ありがとう!」
それに、ここまで嬉しそうにしてくれるなら、そっちの方がいいしね。
「早速つけるわ!」
俺から貝殻のブレスレットを受け取った火之浦先輩は、早速自分の右腕に取り付けた。
本当に嬉しそうに、ブレスレットを眺めている。
見ているこっちも嬉しくなるな。
「……というか」
これって、俺からのプレゼントということになるのだろうか。
いや、なるよな。
なるよなあ……。
そう考えると、ちょっと恥ずかしいな。
初衣ねえ以外に、プレゼント渡すなんて初めてだし。
「伊久留?」
ブレスレットから視線を俺に移していた火之浦先輩が、不思議そうに俺を眺めていた。
「……大事にしてくださいね」
「もちろんよ!」
「あざす」
火之浦先輩は、これについてどう思ってるんだろうか。
プレゼントとして認識しているのだろうか。
「ゆ、夕ご飯どうしますか?」
「あ、そうね! もうそんな時間ね!」
『楽しい時間はすぐ過ぎるものね!』なんて嬉しい言葉を付け加えて。
「夕ご飯は同好会の皆も呼びましょう!」
「いいんですか?」
「皆にも会いたいもの!」
「あの」
「ん、なに?」
「そのブレスレットは、皆に内緒でお願いします……」
「どうして?」
「その、恥ずかしいので……」
火之浦先輩は、俺の言葉に数秒キョトンとして、
「変な伊久留!」
そう言って、いつものように笑ってくれた。
数十分後に、青春同好会が全員揃って夕食に向かった。
ブレスレットはバックの中に隠しておいてくれた。
今日この日、俺と火之浦先輩に一つ秘密が生まれた。




