47.初衣ねえのお世話です!
「ごめんね、いっ君」
ベッドで横になりながら、申し訳なさそうにそう呟いた初衣ねえ。
ここは、陽碧学園学生寮ヴィーナス。
初衣ねえの部屋。
俺は初衣ねえの部屋のキッチンで、お粥を作っている最中だった。
「いつも助けてくれてたんだし、こういう時ぐらい頼ってくれ」
「ほ、本当は外に遊びに行きたかったのに……」
「海なんかに飛び込むから、風邪ひくんだろう? 熱は引いてるんだから、明日のためにしっかり治そう」
「うん」
いつもよりも弱気だな。
結局初衣ねえは風邪を引き、振替休日一日目は熱で寝込んでいた。
火之浦先輩と一日目を過ごした理由も、それが理由。
今日の朝、熱が引いたと連絡が来たのでやってきた。
「たまごがゆでいいだろ?」
「いっ君が作ってくれたものなら、なんでもいいよ」
「ほいほい、と」
「いっ君のご飯か~。懐かしいな」
「あれ、作ったことあったっけ?」
「一緒に作ったじゃん。いっ君のお父さんとお母さんがいない時にさ」
「そういえば、そんなこと、あったね。小学生の時だよね」
「そうそう。ハンバーグ。作ったよ」
「ちゃんと作れたんだっけ?」
「んーん。焼くときに崩れちゃってさ。いっ君、ぼろ泣き」
「それは絶対嘘」
「ほんとだって~」
初衣ねえがスマホの写真フォルダから昔の写真を漁り始めた。
キッチンとベッドは少し距離があるから、昔話をしながら初衣ねえが見せてくる写真はハッキリとは見えなかった。
俺がぼろ泣きしている写真はなかったようだ。
ただそれ以外にも恥ずかしくなってしまう写真が多数初衣ねえのスマホに保存されている。
「ああ、これもこれも。懐かしい~」
「ほら、スマホは片づけて。お粥できたから」
「ありがと!」
「ベッドの上で食べるの?」
「身体は動くから、ちゃんと椅子に座って食べるよ~」
初衣ねえの部屋には、ちゃんとしたテーブルと椅子がある。
ご丁寧に来客用も含めて、しっかり四つ椅子が準備してある。
俺はゆごめんね、いっ君」
ベッドで横になりながら、申し訳なさそうにそう呟いた初衣ねえ。
ここは、陽碧学園学生寮ヴィーナス。
初衣ねえの部屋。
俺は初衣ねえの部屋のキッチンで、お粥を作っている最中だった。
「いつも助けてくれてたんだし、こういう時ぐらい頼ってくれ」
「ほ、本当は外に遊びに行きたかったのに……」
「海なんかに飛び込むから、風邪ひくんだろう? 熱は引いてるんだから、明日のためにしっかり治そう」
「うん」
いつもよりも弱気だな。
結局初衣ねえは風邪を引き、振替休日一日目は熱で寝込んでいた。
火之浦先輩と一日目を過ごした理由も、それが理由。
今日の朝、熱が引いたと連絡が来たのでやってきた。
「たまごがゆでいいだろ?」
「いっ君が作ってくれたものなら、なんでもいいよ」
「ほいほい、と」
「いっ君のご飯か~。懐かしいな」
「あれ、作ったことあったっけ?」
「一緒に作ったじゃん。いっ君のお父さんとお母さんがいない時にさ」
「そういえば、そんなこと、あったね。小学生の時だよね」
「そうそう。ハンバーグ。作ったよ」
「ちゃんと作れたんだっけ?」
「んーん。焼くときに崩れちゃってさ。いっ君、ぼろ泣き」
「それは絶対嘘」
「ほんとだって~」
初衣ねえがスマホの写真フォルダから昔の写真を漁り始めた。
キッチンとベッドは少し距離があるから、昔話をしながら初衣ねえが見せてくる写真はハッキリとは見えなかった。
俺がぼろ泣きしている写真はなかったようだ。
ただそれ以外にも恥ずかしくなってしまう写真が多数初衣ねえのスマホに保存されている。
「ああ、これもこれも。懐かしい~」
「ほら、スマホは片づけて。お粥できたから」
「ありがと!」
「ベッドの上で食べるの?」
「身体は動くから、ちゃんと椅子に座って食べるよ~」
初衣ねえの部屋には、ちゃんとしたテーブルと椅子がある。
ご丁寧に来客用も含めて、しっかり四つ椅子が準備してある。
俺は座椅子とそれに合わせたテーブルしかない。
しかも、自分のだけ。
お粥をテーブルの上に置き、その対面側に座る。
「ん」
が、初衣ねえはお粥を俺の隣の方へと移して、俺の隣に座った。
「今日は、いっ君が看病してくれるんでしょ?」
「熱は引いたんでしょ?」
「ん~。でも、まだ身体がだるいんだよね~」
「はあ……」
「だ・か・ら、あ~~ん」
初衣ねえは目をつぶって、口を大きく広げた。
「マジかよ」
「ね~、早く~」
「…………」
「あ、熱いから、ちゃんと冷ましてね」
「……はいはい」
スプーンでお粥を掬い、湯気が収まるぐらいに自分の息を吹きかける。
初衣ねえは変わらず目を瞑ったまま。
初衣ねえの口に、お粥を運んだ。
「はふっ、はふっ。お、美味しいい!」
「それは良かったよ。後は一人で……」
「全部!!」
「……分かりました」
「んふふ~。久しぶりの幸せだ~」
女子の口にご飯を運ぶなんて、まるでカップルのように思える。
だから、恥ずかしい。
初衣ねえも、とてもいいリアクションをしてくれる。
さっきまでの表情とは一変。
心底幸せそうな笑顔を見せてくる。
自分の作ったお粥を美味しい美味しいと食べてくれる。
自分の料理を食べさせるなんて。
初衣ねえとは長い付き合いだけど、初めての経験だった。
「次は夕ご飯とかお願いしようかな~」
「そこまでレパートリーないぞ」
「お粥作れるのに?」
「これは調べて作ったんだ」
「じゃあ、調べて作ってよー」
「失敗したら、恥ずかしいだろ」
「たとえ黒焦げでも、いっ君が作ってくれたものなら何でも食べるよ!」
「それで体調崩されたら困るからね」
「んぐっ!」
最後の一口で、初衣ねえの口を閉じさせた。
初衣ねえが口をもぐもぐさせている間に、空いた食器を片付ける。
「んー、私がやるよー」
「初衣ねえは食べ終わったら、すぐベッドで休めって。なんか飲み物いる?」
「ありがとー。お茶が欲しいな~」
食器を洗い終えたら、コップにお茶を入れて初衣ねえのもとへ。
初衣ねえは俺の言った通りに、ベッドの方に移動していた。
初衣ねえは上半身だけ起こして、コップを受け取った。
「……ずっといっ君ここにいてよ」
「無理だろ」
「ずっと家事してるだけでいいからあ~」
「初衣ねえのメイドにはならんって」
「私がちゃんと養ってあげるから~」
「ヒモもダメ」
体調不良で、心が弱っているんだろうか。
「してあげる」とか「させてあげる」みたいな感じだけど。
「してほしい」とかはあまり聞かない。
基本初衣ねえは自分の力で何とかできる力を持っている。
だから俺と何かしたいときは、その準備は初衣ねえが全てやった上で誘ってくる。
陽碧学園の入学の件も、受験勉強はしっかり自分で教えることで成し遂げた。
「ほら、寝なって。疲れてるんだよ」
「ん~、もっといっ君と話す~」
「明日また話せるだろ」
「……いっ君はどうせ青春同好会の方に行っちゃうんでしょ?」
「それは、そうだけどさ」
「だから、今この時間も大切にしたい」
そんなこと言われたらなあ。
自分で言っておいて、大事なことを忘れていた。
高校入学前だったら、いつも隣に初衣ねえがいたけど。
今の俺には青春同好会もいる。
「別に俺は初衣ねえと……」
「大丈夫だよ。知ってる」
「……だから、今俺が一緒にいるのは」
「それも知ってる。だから、大丈夫だって!」
「でも、夕方には帰るからな。夜はしっかり寝ること」
「はーい! んふふ~、いっ君にそんなこと言われるようになるなんてね」
「昔は逆のことが多かったしね」
「初衣ねえの部屋に来るのも、少なかったね」
「そう? 半々ぐらいじゃない?」
「いや、初衣ねえが俺の部屋に突撃することが多かったよ」
「うっそだ~」
昔話に花が咲く。
陽碧学園に入学して、お互い別々の道を歩むようになり。
それ以前の生活は、思い出として語られるようになった。
今と昔の違いを比べながら、二人楽しそうに笑える空間がとても心地いい。
ほんの少し、分かれ分かれの道を歩いているけど。
それはそれで、いいことだってあるんだ。
「でも、やっぱいっ君と生徒会したかったな~」
「生徒会補佐だったっけ? でも、俺生徒会役員には興味ないよ」
「どうせ私は来年いなくなるし、別にいいと思うよ」
「先のことも考えなさいよ、生徒会長」
「だって、一年生の頃から頑張ってきたんだもん。それぐらいいいじゃん?」
「生徒全員に聞かせたら、どういう反応するんだろうね」
「あ、そういえば、生徒会補佐の二人が明日からやってくるんだよね」
「へ~」
「面白い子達だから、いっ君も気に入るよー」
「どんな風に?」
「んー。火之浦美琴に性格が似てる? かも」
生徒会にもそんな人が?
「それって生徒会として働いていけるの?」
「性格は似てるけど、憧れているのは私達なんだからちゃんと働いてくれてるよ」
「へー。じゃあ、可愛いだろうね。そこまで慕ってくれてるんだから」
「……でも本当に慕ってるのは、掩ちゃんなんだね」
「初衣ねえの本性でもバレてるんじゃない?」
「いっ君、酷いよ!」
大導寺先輩の方がクールでカッコいいもんな。
しっかり補佐している姿とか。
対して、初衣ねえ。
我儘で、ある意味まっすぐに突き進む姿。
見る人には魅力的に見えるだろうけど、そうでない人もいるだろうな。
振り回されている人とか、特に可哀そうになる。
大導寺先輩とか。
「いっ君も会ったら、ちゃんと挨拶するんだよ~」
「いやなんでよ。俺関係ないだろ」
「生徒会にお世話になってるでしょお……」
「それはそうだわ」
今まで結構、というか迷惑かけまくってるからな。
挨拶ぐらいはしておかないとな。
「じゃあ、その時は初衣ねえがさ」
「んん……すう」
「寝たか」
初衣ねえの寝顔。
心地よさそうな寝息。
まるで気絶したかと思えるぐらい、スッと睡眠に入っていた。
「頃合いを見て、帰ろうかな」
部屋や食器の片付けとか。
初衣ねえを起こさない範囲でやれることはやっておいてあげよう。
明日からまた学校だ。
初衣ねえがしっかり生徒会長として働けるようにしてあげようかな。
「むう!!!」
「ぬええ!?」
初衣ねえの布団を直そうとした時に、初衣ねえが突然動き出す。
俺の腕を強く掴んで、布団の中に引きずり込んできた。
「うへへ~」
「初衣ねえ?」
「おやすみぃ」
「起きてるの?」
「……すう」
「寝相かよ」
初衣ねえは無意識に、俺を布団の中に引きずり込んだのか。
「はあ」
ガッチリホールドされて、身動きが取れない。
無理矢理起きることもできるけど、それをしたら初衣ねえを起こしてしまうだろう。
ならば俺はこのまま、ジッとする以外に選択肢はなかった。
今日一番初衣ねえとの距離が近かった。
小学校の時とかは一緒に寝るなんてことがあったけど。
中学校以降、そういう記憶はない。
「こう見ると、綺麗な顔だよな」
思わず、初衣ねえの頭を撫でてしまう。
「んふふ~」
なんとも幸せそうな表情で笑う。
「ま、いいか」
どうせ今日は初衣ねえ以外と会う予定はない。
「起きるまで待つか」
初衣ねえの寝顔を見ながら、その時を待つとしよう。
ベッドとか布団の使い分け、苦手。




