8.青春同好会とは何者だ!
「さて」
陽碧学園入学初日の全日程が終了し、俺は今学生寮のとある一室にいた。
寮の名前は、『サターン』。
俺が所属する学生寮『マーズ』とは違う寮だ。
「ようこそ、青春同好会秘密基地へ」
ただの寮の一室なんだけどな。
なんてツッコミはやめておこう。
青春同好会のリーダーっぽい口調の女子生徒。
腕を組み、胸を張り、物理的に上から目線で話しかけてくる。
俺は両手をタオルで縛られて、正座させられていた。
「あのー」
「質問を受け付けましょう!」
受け付けるんだな、この流れで。
「帰して」
「いや!」
「……はい」
速攻大きな声でダメだと言われちゃいました。
「とりあえず名前だけでも教えてくれませんかね……」
部屋の中にいるのは、俺以外に4人。
内3人はさっき俺を拉致してきた奴ら。
そして、仲間と思われる奴がもう一人。
「名前!? 私は、火之浦美琴よ! よろしく!」
「あ、はい、ども」
なんというか。
ハイテンションをぎゅっと固めたみたいな感じの人だ。
とりあえず明るい、的な?
短髪でボーイッシュな見た目が、よりそのイメージを強くする。
見とれてしまうほどには美少女。
でも、彼女の性格をすると少し躊躇してしまう。
なんか一緒にいると疲れそう、そんな感じ。
「ほらリーダー、うるさいから。前もそれで注意されたばっかりじゃん」
その隣、他のメンバーより一回り小柄な人。
その声色に抑揚はほとんどなく、ただ淡々としている感じの人。
冷静かつ冷徹、冷たい雰囲気。
火之浦先輩が「参謀」なんて言っていたけど。
きっと、というか絶対この人が担当なんだろう。
「水無瀬凍里。よろしく」
水無瀬凍里先輩か。
……ん、水無瀬?
「もしかして妹居ます?」
「守秘」
「……へえ」
だんまりだった。
同じクラスに水無瀬涼乜という女子生徒がいたから。
もしかしてと思ったのだが。
陽碧学園は全国各地から生徒がやってくる。
同じ苗字という偶然ももちろんあるだろう。
雰囲気も違うし。
水無瀬涼乜の方は、もう少し荒々しい感じ。
「私は新樹陽乃女で~す」
部屋のソファで漫画を読む女子生徒。
今この部屋にいる中で、明らかに頭一つ抜き出た美貌の持ち主だった。
モデルでもしているのだろうっか。
スラっと綺麗なスレンダーの身体と、長く美しい髪。
ソファでくつろいでいるだけなのに。
なんかその、妙に色っぽいな。
「……変態」
と、俺の視界を遮るように最後の四人目が前に立ちふさがった。
震えた。
そう、震えたのだ。
他の三人よりも遥かに大きな山が二つも!!!
「……名前は?」
「あんたに、絶対、教えないんだから!!!」
火之浦先輩よりも大きな声だった。
明らかな敵意。
絶対俺のことが嫌いだってわかる。
「彼女は土浦萌揺。生徒会の土浦葉揺先輩の妹さんですよ~」
「ちょ、陽乃女お姉ちゃん! 全部話すのやめて!」
新樹先輩が説明してくれた。
「それに、御形君とは同級生なんですよ~」
「へ?」
「だから、全部言わないでって~」
「そういえば、伊久留はどのクラスなの?」
「え、あ、ああ、Bですけど」
いきなり下の名前で呼び捨てかぁ~。
ドキッとしちゃうな。
「じゃあ、萌揺と同じクラスね! 都合がいいじゃない!」
「だからだから!!」
「都合……?」
「それより、萌揺。どうして寝間着姿なの? 今日はちゃんと学校に行ったの?」
「凍里お姉ちゃん……」
「それ、今日行ってないでしょ?」
「う……」
「入学式ぐらいでないとダメ」
「うぅ……」
「萌揺ちゃんは、しょうがない女の子ですね~」
「うわああ、陽乃女お姉ちゃーーん!!!」
「お~、よしよし~」
「リーダーが半ば無理やり受験させたんだから、萌揺をしっかりリードしないと」
「萌揺、あんたはできる子なんだから頑張りなさい!!!」
「み、美琴お姉ちゃん……」
「あの~都合がいいってどういう」
「ほら、リーダー。そろそろ解放しないと不味いし」
水無瀬先輩が、ちょいちょいと俺を指出した。
「あ、そうだった忘れてた!」
「……そのいい加減さだけは治してほしいんだけど」
「御形伊久留!」
「はい……?」
ビシッと、俺を指差してきた。
「青春とは、今この一瞬のために全力を尽くすこと!
青春とは、仲間達と共に最高に楽しい瞬間を分かち合うこと!」
一言一言のたびに、火之浦先輩がこちらに近づいてくる。
先輩の顔が、徐々に、ゆっくり。
先輩の整った明るい笑顔。
俺の目と鼻の先まで近づいて。
「私は、このメンバーで、今だけしかない青春を全力で謳歌したいの!
この部活はそのためにあるのよ!」
「……非公式だから、同好会なんだけどね」
「火之浦先輩は部活と言ってますが……」
「言わせておいて」
「ねえ、伊久留!!!」
バシン、と勢いよく俺の両頬に火之浦先輩の手が添えられる。
「ようこそ、青春同好会へ! これから一緒に、全力で青春を謳歌しましょう!!」
おめでと~、と新樹先輩が拍手。
土浦萌揺は、俺に聞こえるぐらいの舌打ち。
水無瀬先輩は火之浦先輩の言動に呆れていた。
俺はというと、火之浦先輩の言葉に理解が追い付かず。
ただ両頬をぎゅっとされたまま火之浦先輩を見続けた。
「どういうことですか?」
「そういうことよ!!」
「ん、んんん?」
「諦めた方がいい」
火之浦先輩の裏表のない純粋な笑み。
俺はすぐに言い返すことはできなかった。
絶対に入りません。
ただそれだけを言えば、済む話だろ?
でも、言えない。
今この瞬間、俺は少しワクワクしていたからだ。
「さあ、伊久留が入って初めての作戦会議ね!」
俺の青春同好会としての生活が、今ここから始まった。
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こういう機能があることを知らなかったです!!
ちなみに。
陽碧学園の学生寮は、
『マーズ』『サターン』『ジュピター』『マーキュリー』『ヴィーナス』
の五つです。
よく会議をしている老人たちではありません。
学生寮に住んでみたいという願望をお持ちの方。
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