75.新樹先輩の野球観戦です! ①
全員で陽碧市の野球場へと移動。
結局、新樹先輩の登場演出に関しては先輩達で実行するらしい。
土浦は技術部のガラクタを使うことを怖がっているため除外。
俺はその付き添いで除外ということになった。
「人いるなあ」
陽碧学園の生徒はもちろん、
その保護者、教師、陽碧市市民、旅行者など。
陽碧学園の名物行事を楽しみに多くの人がやってきている。
「なんでこんな人気なんですか?」
「まあ、色々と有名だから。他の学校に比べて、露出は多いし」
「広報委員のおかげということですか?」
「影響はあると思う」
水無瀬先輩が指さす方を見る。
広報委員の腕章を付けた生徒達が野球場の様子をカメラで収めていた。
「陽碧学園、スポーツ推薦もあるし」
「意外とスポーツも強いわね! 前取材が来たのをみたわ!」
「プロ野球選手も陽碧学園出身の人も多いよ」
「へー、知らなかったです」
「入学前から有名だったと思うんだけど、なんで知らないの?」
「いや、初衣ねえぐらいでしか陽碧学園のことについて知れなかったから」
「シスコンね」
「伊久留って、シスコンなのね!」
「一人っ子ですし、初衣ねえとは別に血の繋がりもないです!」
「ま、御形の性癖なんてどうでもいいけど」
「……流してくれたのはありがたいです」
「いっ君はシスコンよ!」
「もう!!!」
タイミングよく、初衣ねえが現れた。
最悪のタイミングで。
生徒会や委員長一行を引き連れて、俺達がいた席へとやってくる。
「初衣ねえも応援?」
「ええ。武見君がでるから、一応ね」
「初衣ちゃんは別に作戦指揮してるわけじゃないから、居ても居なくてもいいものね」
「るる、うるさい!」
「こ、広報委員の仕事の確認もありますので、え、えと、ついでの応援です」
「うおい、萌揺! よく今日部屋から出られたな!」
「や、やめてお姉ちゃん!」
「こんにちは、御形君」
「こんにちは、大導寺先輩。岡本先輩が見当たりませんね?」
「ああ、岡本君は体調不良でダウンしてます」
「風邪ですか?」
「いえ、働きすぎて体調不良です」
「そ、そうですか……」
「そちらも、青春同好会のお三方が見られませんが?」
「え?」
生徒会一同と挨拶を交わしていた時。
なぜか、火之浦先輩と水無瀬先輩がいなくなっていた。
「土浦、二人は?」
「し、知らないってぇ!」
土浦は姉から揉みくちゃにされていた。
「い、いい機会だし、生徒会と一緒に行動しよ!」
「いや、新樹先輩の応援しないといけないし」
「一緒に武見君の応援すればいいじゃん!」
「お、同じ組なんだから同じことだろ!」
「会長、生徒の目もあるので体裁は守ってくださいね」
「ぐえ!」
大導寺先輩に初衣ねえは首根っこを掴まえられた。
その間に、姉から解放された土浦と周りを見渡して先輩二人を探す。
「いないな」
「お、お姉ちゃんどこ~」
そもそも観戦席に沢山の観客がいるため、見つけることは困難だった。
一応先輩二人の服装は覚えているけれど、あまり参考にはならない。
「なんでこんなやつと一緒に……生徒会の人達もいるし」
「もうすぐ試合だし、準備しに行ったんだろうけど。そんなに嫌なら、土浦も先輩達に協力すればよかったじゃん?」
「嫌だ! なんで危険物を使わないといけないのよ!」
「相当トラウマになってるな」
「うぅ……結局どん詰まりなんだ」
土浦は探すのを諦めて、頭を抱えて縮こまってしまった。
俺は諦めずに数分見回してみるが、やはり見つからない。
ここから離れて探しに行くのもいいけど、土浦は放っておけない。
人も多いし、迷子になるのも面倒だから。
そんなこんなしている内に、野球の試合が始まった。
各ベンチに、同じ色のビブスを付けた生徒がいる。
「武見くーん、頑張れー!」
ベンチの方の武見先輩、初衣ねえの声に気付いたみたいだ。
そして、隣にいる俺の姿を見るなり、手を振って俺を呼んでくる。
「おい、御形。ちょっといいか!」
「なんですか?」
武見先輩の声が聞こえるようにフェンスに近寄った。
「今日はあいつらはいないのか?」
「火之浦先輩達ですか? どっか行っちゃいましたよ」
「ということは、新樹もいないのか?」
「ええ、そっちに行っていると思ってたんですけど」
「それがこっちにいないんだ。本当にどこにいるか知らないのか?」
「急にいなくなったんで……」
「ったく。あいつ以外のピッチャーなんていないのに」
武見先輩は凄く焦っている。
生徒会一同も何かを察したのか、俺の周りに集まり始めた。
とりあえず運営や委員会の関係者に話を聞くこととなった。
「球場担当の保健委員に聞いてみるわ」
「こ、広報委員にカメラの確認をお願いしてみます~」
「先生方や運営のボランティアチームにも連絡しましょう」
「もう、本当に青春同好会は迷惑かけるわね!」
初衣ねえの言葉はごもっともだ。
俺も土浦と何かしらした方がいいのだろうか。
『さあ、陽碧学園体育祭、今年も始まりました! こちら陽碧市の野球場では、もちろん野球の試合が行われます! 最初の試合を飾るのは、黄組と緑組の対決です!』
野球の試合開始前のアナウンスが球場に流れた。
武見先輩、あと新樹先輩、が率いる黄色チームがベンチから球場に出てくる。
その中に、新樹先輩の姿はない。
「そういえば、土浦も同じ組だろ? 応援しとけよ」
後ろでまだ縮こまっている土浦に話しかける。
「……うん」
元気のない返事だな。
『さあ、試合開始前に軽く両組の説明をしたいと、思うん、ですけど……』
さっきまで元気な実況をしていたアナウンス。
なぜか歯切れの悪いアナウンスへと変わっていった。
『え、ちょ、これ本当にやるんですか!?』
スピーカーの奥から、あまりにも私情のこもった声が聞こえてきた。
『い、一旦運営か生徒会の人に連絡を……と、とりあえず放送を切りましょう!』
何やら事件の臭いがするな。
そして、嫌な臭いもする。
三人の顔がチラつくなあ。
「ねえ、いっ君! あいつら本当にどこ行ったの!?」
「し、知らないって! 本当に急に消えたんだ!」
「会長。どうやら放送室に『登場シーンは任せて』と青春同好会からの手紙が届いたらしく」
「本当になんなのよあいつら!!!」
生徒会一行は大騒ぎ。
観客全員も大騒ぎ。
あんな放送があったんだからしょうがない。
俺は思う。
多分ここから逃げたほうがいい。
またあの先輩達が何かやらかすつもりだ。
――ボシュン!!!
球場の各地から、何かが放たれる音が聞こえた。
しかも、一発だけじゃない。
いろんな場所から、十数発の何かが打ち上げられていた。
「なんだなんだあ!」
「何か打ち上げられてるわ!」
観客皆が空を見上げている。
俺も、土浦も、初衣ねえも、生徒会や委員長達も。
全員が唖然としている間。
空へと打ち上げられたものが球場の中央へと直撃する。
「爆発だあああ!!!」
球場のマウンドを覆い隠すほどの煙が空高くまで舞い上がった。
その煙は沢山の色で彩られたカラフルなもの。
爆発の瞬間に会場全体から溢れた悲鳴は徐々に消えていく。
そして、野球場全体に沈黙が流れる。
数秒後。
その沈黙を切り裂くほどの大音量の音楽が野球場を響かせた。
人気ボクシング映画のテーマソングだったはず。
「…………」
初衣ねえは完全に声を失っている。
頭を抱えて、遠い目をしていた。
逆に土浦は目を輝かせながら、マウンドのカラフルな煙に注目している。
「ん?」
全員が目の前の異常な光景に注目する中で、俺はとあることに気付いた。
大音量の音楽に隠れて聞こえる。
ヘリコプターが飛んでいる時のプロペラ音だ。
空を見ると、ヘリコプターが空まで昇った煙の塔に入っていった。
もうヘリコプターの姿は見えない。
「なんだあれ! サプライズか!」
「て、テレビ局!?」
観客達は気づいていない。
みんな、野球場のマウンドに注目していた。
『黄組最強のスター選手。豪速直球の爆炎ストレート、新樹陽乃女!』
どこかで聞いたことのある声。
名乗りが終わった瞬間に、もう一度爆発音。
その爆発が、高く昇った煙を全て吹き飛ばす。
新樹先輩が、すでにマウンドに立っている。
観客全員大歓声。
新樹先輩のド派手な登場に、観客全員大歓喜だ。
「なあ、今の放送って火之浦先輩?」
「多分、美琴お姉ちゃん、かな?」
『あ、い、今戻ってこれたのですが、何があったのでしょうか。』
あまりの盛り上がりに、再登場した実況者も戸惑っていた。
「どう!」
振り返ると、自信満々で楽しそうな火之浦先輩がいた。
「結構自信作。直前に考えた割には素晴らしい出来」
「やっぱり凍里よ! さっすが凍里よ!」
この登場の仕方を考えたのは本当に直前の話。
それを実行まで持っていき、しかも観客は大歓声。
素晴らしい出来なのだろう。
正直、俺も凄いことだと感心している。
でもね。
「あんたら、本当に何やってんのよ!!」
隣の初衣ねえは、生徒会長として滅茶苦茶怒っていた。
即座に、その場で説教開始。
ま、こうなるよね。
当たり前。




