48.生徒会補佐達です!
新章スタートです。
この世界の猛暑はどうなってるんだろうか。
「あと半分ね!」
「遅いわね! 私はもう半分は過ぎているわ!」
体育祭が終わり、振替休日も過ぎた。
今日から普段通りの日常が始まる。
今は放課後。
ここは反省室。
振替休日直後の登校日。
その放課後は体育祭で反省室行きが確定した人達がここに集う。
「ここ、間違えてるわ!」
「なんで二年生が三年生の問題を……ほんとじゃん!!」
「ペナルティよ! そのまま十回回って犬の鳴きまねが見たいわ!」
「しないからね!」
ただし、流石は陽碧学園の生徒達。
全国規模で広報される体育祭という大きな学校行事で、反省室行きを命じられる生徒はほとんどいない。
皆体育祭に熱中していた。
だからこそ、大きな問題はほとんど起きなかった。
そう、ほとんど。
「うし。今回ばかりは逃がさねーぞ」
放課後。
俺と火之浦先輩は即座に風紀委員に確保された。
「今日は早いわね!」
「今回ばかりは逃げられては困るしな」
「で、今回はどういう理由ですか?」
「体育祭最後にお前ら騒動を起こしただろ、あれだよ」
「楽しかったやつね!」
火之浦先輩と初衣ねえの大暴走。
広報委員に取られた映像と共にプチバズり。
陽碧学園生徒会と噂の青春同好会。
公の場での激突。
町や川、そして海にまで及ぶ戦場。
高まる観衆の熱。
カメラ越しに伝わる熱狂。
二人の騒動をダイジェスト版でまとめたは歴代最高視聴率だ。
とまあ、こういえば聞こえはいいけど。
危険なことをしていたことは事実。
それが青春同好会だけならず、生徒会長まで関わっている。
今回そんな騒動を引き起こした張本人二人が反省室対象となっている。
「ぐす……なんでよお」
武見先輩の後ろ。
頑丈そうな縄を持った大導寺先輩。
その縄の先には半泣きの初衣ねえがいた。
両手を縄で結ばれ、まるで囚人のように連れてこられている。
「さて、じゃあ反省室に行こうか」
「ちょっと待ってください」
「ん?」
「俺関係ないですよね?」
「お前、この二人の保護者だろ?」
「え、俺が保護者前提での話なんですか?」
「二人が終わるまで、後ろの方で待機しといてくれ」
「…………」
武見先輩は何事もないかのように歩き始めた。
「申し訳ありません、御形君。会長がどうしてもと、泣きわめいて聞かないので」
「は、はあ、そうですか……」
大導寺先輩から説明を受ける。
初衣ねえの方を見ると、初衣ねえも俺の方に顔を向けていた。
『ありがとう』と口パクで言っている。
「……はあ」
「すみません。どうぞよろしくお願いします」
これも生徒会としてのケジメですから。
と、大導寺先輩が付け加えた。
まあ、生徒会長が危険なことを繰り返したのは事実だしな。
これで許されたなら、他の生徒も同じようなことをしても許されてしまうことになる。
生徒会長という立場も関係ない。
いや、むしろ生徒会長だからこそ。
「さ、行きましょ、伊久留!」
「他のメンバーには……」
水無瀬先輩達のことを思い出し、火之浦先輩にどうするか聞こうとした。
その途中で、スマホにメッセージが届く。
『私達はササッと逃げました』
「逃げてる……」
他のメンバーはすでに退避を完了しているようだった。
「ああ、他の三人は捕まらなかったそうだ。二人を優先している内に逃げた」
「確かに授業が終わったのに、凍里たちはやってこなかったわ!」
「メッセージも届きました」
「あいつらはそこまで議題には上がってない。逃げられても多少問題ないよ」
「代表二人が反省室に入れば、問題ありませんから」
「私、生徒会長と同じってことね!」
「……言葉をそのまま受け止めるなら、そうなりますが」
反省室行き、火之浦先輩と初衣ねえ。
同行、大導寺先輩と武見先輩。
監視役、俺。
計五人が反省室へと向かっていく。
その光景を、陽碧学園の生徒達全員が注目している。
テレビで犯罪者がパトカーで連行される場面を思い出す。
「まるでテレビのワンシーンね!」
「……この状況でも変わらんな、お前は」
「い、今にして罪悪感が」
「会長、今後はしっかりとお願いしますね」
「で、でも、いっ君と、えへへ~」
きっと初衣ねえは昨日のことを思い出している。
結局陽が落ちるまで初衣ねえは寝たままで、俺は初衣ねえに抱き着かれたまま数時間そのまま過ごしていた。
それを思い出すだけで、初衣ねえの顔は今まで見たことがないぐらい蕩けている。
それぐらい、嬉しかったということだろう。
俺は姿勢を崩せなくて、身体がバキバキなんだけど。
「会長、しっかりしてください」
「い、痛い、掩ちゃん!」
副会長が、会長の背中を思い切り叩く。
生徒の一部が、その光景に沸いていた。
「あと少しよ!」
「ま、負けないから!」
という流れで、俺達三人は反省室にいる。
反省室に入って、十数分。
学年内成績トップクラスの二人は、やはり課題を解くスピードが速い。
これなら、あともう少しで終わるだろう。
「ん?」
そんな中、反省室の扉がノックされる。
武見先輩か、大導寺先輩?
だが、反省室は基本風紀委員以外は自由に開錠できない。
だから、風紀委員でない人の可能性が高い。
俺は今回特例として、反省室を開錠できるパスカードを持っている。
「はいはい、と」
パスカードを使って、反省室を開ける。
ドアをノックした誰かは扉を開こうとしない。
仕方がないから、俺が開ける。
「来たわね……」
「来ましたわ……」
目の前には二人の少女。
ドアをノックした犯人は、この二人で間違いない。
この時間にここにいるということは、陽碧学園の生徒なんだろうけど。
それにしては、おかしい。
だって、目の前の二人。
着ている服が、学園指定の制服ではないからだ。
「貴様が噂の御形伊久留だな!」
「貴方様がわたくし達生徒会へ盾突く不届き者ですわね」
「へ、はあ?」
一人はどこかの軍隊を想起させる服をしている。
片目を眼帯で隠し、杖のような棒状のものを地面に突き立てていた。
もう一人は、まるでお姫様のようなフリフリな服、いわゆるゴスロリというやつか?
長く綺麗な髪を持ち、腕の中には熊の人形を抱えている。
「あの、誰ですか?」
「黙れ! 誰が貴様の言動を許可した!」
「汚らわしい。神聖なる生徒会を汚す者は骨の髄まで断罪するべきです」
「…………」
二人の身長は水無瀬先輩ぐらいか。
でも、なぜ女子二人からそこまで言われないといけないんだ?
申し訳ないけど、俺にそんなことで喜んでしまうような癖はないんだが。
「あら? どうしたの?」
「なんか聞き覚えのある声が……」
俺達の騒ぎに気付いて、二人が扉の方へと近づいてきた。
「あ!」
目の前の二人に気付いて、初衣ねえは真っ先に声を上げる。
「柚丹ちゃん! 千遊ちゃん! ようやく帰ってきたんだ!」
「おお、我らが先導者!」
「お久しゅうございます……」
「あ、いいタイミングだし、いっ君にも紹介しとくね!」
初衣ねえは二人の間に入って。
「こっちが猪飼柚丹ちゃんで、こっちが猪飼千遊ちゃんです!」
「……ふん!」
「…………」
冷ややかな視線がちょっと痛い。
軍服の方が、猪飼柚丹。
ゴスロリの方が、猪飼千遊。
「未来の陽碧学園を担う、生徒会補佐の二人だよ!」
昨日話していた生徒会補佐の二人が、この子達か。
「ちなみに、二年生ね!」
「ん? じゃあ、火之浦先輩知ってるんですか?」
「全然知らない! 誰!」
「き、貴様とは何度か顔合わせをしただろ!!」
「そうだったかしら?」
「生徒会補佐はあまり表に出ないからなあ。多分私達の後ろにいた、かも?」
「本当に貴様は不愉快だ!!」
軍服を着ているからか、なんかちょっとそれっぽい口調だな。
「双子、ですか? 先輩達は」
「ふん、下賤な言葉しか発せぬその口を閉じなさい」
「双子だよ~。放課後はいつもこの格好だから、分からないよね~」
「せ、先導者!?」
「や、やめてください。この者達に情報を分け与えるなんて」
んー。
やっぱこれ、あれだよな。
「かっこいいわ!」
火之浦先輩は目をらんらんと光らせている。
きっと、この二人は中二病というやつなんだろうな。
高校二年生だけど。
「つい最近まで海外に留学してたからね。帰ったのは、昨日?」
「そ、そうだ! 昨日帰ってきたんだぞ」
「そうですわ! そ、それで、大導寺様は……」
「ずっと探していたんだけど、見つかることができなかったのだ!」
「あー」
そういえば、生徒会補佐の人は大導寺先輩を尊敬してるんだっけ。
生徒会長を目の前にしているのに。
二人の興味は大導寺先輩か。
「じゃあ」
と、突然火之浦先輩が一歩前にやってきて。
「これから、私のライバルになるってことね!!」
唐突のライバル宣言をぶちかました。




