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我々青春同好会は、全力で青春を謳歌することを誓います!  作者: こりおん
我々青春同好会は、全力で体育祭で勝ちを狙うことを誓います!

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43.勝ちを狙います!

「優勝で~す!」


 新樹先輩が、優勝トロフィーを高らかに掲げていた。。


「手真っ赤ですね……」

「流石に三日も新樹の球を受けるのはな」

「いい経験でしたね~」

「二度としたくない」


 楽しそうに野球の試合のことを話す新樹先輩。

 真っ赤な手を冷やしながら、冷や汗ダラダラな武見先輩。

 黄組、運動神経ツートップがそれぞれ別の表情を見せていた。


「黄組の点数獲得率高いなあ」


 どこの競技でも、上位には必ず黄組の存在がいる。

 やはり組分けのランダム性に疑いがある。


「ふふん! やっぱり陽乃女お姉ちゃんは最強なんだよ!」


 同じ黄組というだけの土浦がどこか誇らしげなのがむかつく。


「というか、この組み合わせは珍しいな、御形」

「ああ、それはそうですね」


 新樹先輩達の野球観戦に来ていたのは、俺と土浦のみ。

 火之浦先輩や水無瀬先輩は、それぞれの組の作戦指揮でいない。

 他の生徒会や委員長もそれぞれの仕事に従事している。

 

「体育祭まであの二人がいなくなることもあったんで、俺はもう珍しくはないですね」

「火之浦の世話をしているのはよく見るが、新樹の世話もしているのは凄いと思う。一人でさえ、俺でも手を焼く。新樹は特にな」

「い、いえ。別に世話はしてないですよ……」

「お世話されてま~す!」


 新樹先輩が俺の肩に手を回す。

 思いのほか、力強かった。

 近づいてきた新樹先輩に対して、武見先輩は数歩後ろに下がった。


「新樹先輩、風紀委員長に怖がられてますよ」

「私に手も足も出ませんから~」

「どんな技術も力で捻じ伏せてくるんだから。危険だぞそいつは」

「褒められました~」

「恐れてんだよ。その一年生も、世話してんのか?」


 武見先輩が指さす先には、土浦がいた。


「何度か会ったことあるけど、こうして正面から話したことはない」

「萌揺ちゃんは人見知りなので~。風紀委員長の圧に誰よりも恐れているんですよ」

「うッ!」

「……面と向かって、怖がられるのは傷つくな」

「ち、違います!」

 

 恐らく唐突に話題の中心になったことに驚いただけの土浦。

 新樹先輩の揶揄いで、武見先輩が悪戯に傷ついてしまった。


「まあ、恐れられるのは風紀委員の宿命だからな。仕方ない」

「いや、全然怖がってないですよ」

「む、そうか? それはいいが、頼むから最終日に面倒事を起こすなよ」

「俺は保証できないですよ、それ」

「御形がしっかり手綱を握るんだよ」


 俺の肩を叩いて、武見先輩はここから立ち去った。


「新樹先輩、嘘はダメですよ、嘘は」

「面白かったですね~」


 ニコニコ笑ってる。 

 悪魔だ、この人。


「土浦も武見先輩ぐらいには慣れておけよ。何回か会ってるじゃん」

「うるさいな! あんま喋らないんだから、仕方ないじゃん!」

「その迫力のまま、話せばいいだろ?」

「はあ! 別に御形みたいに、武見先輩のこと嫌いじゃないもん!」

「いや、どさくさに紛れて俺のことを嫌いって言ったな!」

「は~い、お二人とも離れてくださ~い」

「「 ぐえッ! 」」


 俺と土浦の首根っこを掴んで、強制的に身体を離された。

 

「ごほッ、ど、どうしますか?」

「そうですね~。とりあえず二人と合流しますか」

「忙しそうですけど」

「呼んだら、きっと来てくれますよ~。萌揺ちゃん連絡お願いしますね」

「うん!」


 というわけで、青春同好会集合だ。


「美琴お姉ちゃんも凍里お姉ちゃんもそっちに向かうって」

「だそうですよ~」

「じゃあ、どこかで座って待ちましょう」


 ベンチに三人座って、青春同好会全員集合を待つ。


「そういえば」

「……なによ!」

「土浦って、そういうデジタル関係強いよな」

「褒めたって、あんたのこと好きにならないわよ!」

「萌揺ちゃんはずっとパソコンとかスマホで遊んでたらしいですよ~」

「新樹先輩は昔の土浦のことを知らないんですよね?」


 新樹先輩は去年青春同好会が作られる時に、二人と知り合ったと聞く。

 陽碧学園以前は交流はなかったはずだ。


「萌揺ちゃんのことは、二人からよく話を聞きましたよ~」

「ね、ねえ。それって、どんなことを聞いたの?」

「ふふふ~。それはもう萌揺ちゃんの可愛いところとか~」

「ちょ、御形には何も話さないで!」

「分かってますよ~」


 土浦が勇敢に新樹先輩の口を押えようとしている。

 顔を真っ赤にしているし、昔の話をされるのが相当恥ずかしいのだ。

 

「今度火之浦先輩とかに聞いてみよう」


 火之浦先輩なら、なんか教えてくれそうな気がするし。


「痛っ!」

「ぜっっったいに聞かないでよ!」


 なんか土浦にタブレットで殴られた。


「もし聞いたら、御形になんでもしていいってお姉ちゃん達に言うから!」

「つ、土浦が決めたことを先輩達が守るのか?」

「守ってくれるもん!」

「向こうから話してきた時はどうするんだ?」

「どっちでも死ね!!」

「痛い!!」


 またタブレットで殴られた。

 土浦は土浦でまた悪魔だった。


「なんか楽しそうだね」

「陽乃女、おめでとう!」

「わあ、ありがとうございます~!」


 火之浦先輩と水無瀬先輩がやってくる。

 火之浦先輩が新樹先輩に何か飲み物をあげている。

 どうやら新樹先輩が優勝したことへの贈り物みたいだ。


「見に行けなくてごめん、陽乃女」

「最終日はみんな忙しいですから仕方ないですよ~」

「今度陽乃女とも野球やってみたいわ!」

「いいですね~。色々と誘って野球やりましょ~」

「で、昼ご飯は食べ終わってるけど、どうする?」


 新樹先輩の試合は昼食の時間に行われた。

 俺と土浦も試合観戦をしながら、昼食を済ませている。

 火之浦先輩と水無瀬先輩も同様のようだ。


「私はまだお腹空いてませんので大丈夫です~」

「じゃあ、適当に歩く?」

「私は一時間ぐらい空けるって言ってあるわ!」

「私は三十分ぐらいが限界」

「出店以外にも目玉はあるんですか?」

「去年は同好会とかが自主的にイベントやってたりしてたけど」

「今年は全員が忙しそうなので、あまりないでしょうね~」

「何かしたいことあるの、美琴お姉ちゃん?」

「幻のお宝を見つけたいわ!」

「ああ」


 昨日、小夜鳴先輩から聞いた話。

 宝探しの中で、得点を一気に逆転できるものがあるって話。

 

「それ、一応私も探してる」

「そんなものがあったんですね~」

「掲示板に話はちらほら上がってるけど、まだ見つかってないみたい」

「火之浦先輩、本当にあると思ってるんですか?」


 小夜鳴先輩の表情的に、ちょっと怪しさもあると俺は思ってるんだが。


「あるに決まってるわ!」

「即答っすか」

「その方が面白いんだもん!」

「しかも、自分本位だなあ」

「まあ、私はそこまで興味はない」

「意外ですね。水無瀬先輩だったら、少しでも人員割きそうですけど」

「信憑性が低いし、まだ競技は全部終わってないし」


 そんな噂程度のものに踊らされるより、目の前の一点を優先する。

 青組の参謀様は堅実に勝ちにいくらしい。


「これを取ったら、優勝間違いなしね!」

「御形。リーダーは猪突猛進タイプだから、頑張って」

「知ってますよ! もう!」

「これは勝てる……」


 水無瀬先輩の小声を聞き逃さなかった。

 どうにかして、火之浦先輩の猪突猛進を止められないだろうか。


「やっぱりここにいた!」


 そんな悩みを他所に、また更なる悩みの種がやってきた。


「昨日振り! いっ君!」

「なんで来たの……」

「な、なんでいっ君がそんな顔をするの!?」

「御形、俺は止めたぞ」


 初衣ねえの後ろには言い訳をする武見先輩。

 武見先輩と会って、場所を聞いたんだろうか。

 昨日放課後に一緒にいた人達。

 それに加えて、カメラを携えた芽出先輩が一緒にいた。


「うおい、萌揺! 元気にしてっかー!!」

「やーめーて! お姉ちゃんやめて!」


 あと、土浦のお姉さんか。

 いつも元気だし、土浦ばっか弄りに行ってるな。

 仲良さそうだ。


「また出会ったわね! 会長!」

「火之浦美琴! 今日こそ決着の時よ!」

「あら、凍里ちゃん。今回は勝ってしまいそうだけど、大丈夫?」

「優勝以外価値はない」

「あら、ふふふ。確かにそれもそうかもね」


 現在、競技で良い成績を修め続ける黄組が優勝候補だった。

 まだ少し競技が残っているため、あくまで候補だが。

 

「でも、恐らく優勝は無理そうね」


 水無瀬先輩と話していた小夜鳴先輩の言葉。

 どうやら水無瀬先輩も同意見らしい。

 まあ、正直俺もそう思う。

 初衣ねえを始めとした、生徒会や体育祭ボランティアの人達のせいではない。

 今回の体育祭で開催される競技で有利な人達が黄組に多く集まっているのが原因だから。

 

「もちろん狙っているわ!」

「やっぱりね!」


 ただ、この二人はそんなことお構いなしだった。


「あのお宝をゲットすれば、優勝できるし、会長にも勝てるもの!」

「考えてることは一緒ってことね」


 向き合う、青春同好会リーダーと陽碧学園生徒会長。

 

「なんで二人はそこまで本気なの?」

「ふふ、いいライバル関係じゃない?」

「まあ、今回は私への負担少ないし。会長に丸投げする」

「会長。あの閉会式の準備とかあるんですが……」

「そういえば、終わりまであとどれくらいなんですか~?」

「大体二時間ぐらいだな」


 宝探しも終盤で、ほとんど点数が残っていないだろうし。

 宝探しに行っている人からも、もう見当たらないって話も出ている。


「お姉ちゃん? 掲示板でも、決勝戦とかを見に行っている人が多いよ?」

「そりゃあ、皆疲れてるからなー。もう動きたいと思う人はいないっしょ」

「あの、お姉ちゃん。そろそろ暑いよ……」

「掩? どうするの?」

「……仕事については、私が指揮しますので」

「大変ね、副会長」


 大導寺先輩は頭を抱え、小夜鳴先輩は慰めていた。

 困った表情の大導寺先輩を他所に、問題の生徒会長は目の前の火之浦先輩に集中している状態だった。


「では、私達はここで仕事に戻ります。最後まで問題を起こさない様に」

「凍里ちゃん。また何かで勝負しましょうね」

「……ふん」

「萌揺ー。ちゃんと母さん達に連絡するんだぞ」

「お、お姉ちゃん、うるさい!」

「私には何もないんですか~」

「ない」


 初衣ねえを置いて、生徒会委員長組は元の持ち場へと戻ろうとしていた。


「なあ、初衣ねえ。そろそろ諦めて仕事に……」


 あ。

 と、俺は無意識に声が漏れた。

 初衣ねえの方へ振り向いた時、視界の中に映ったあるものに驚いたからだ。

 俺の声に気付いた火之浦先輩と初衣ねえ。

 両者同時に、俺の視線の先を視る。


「「 見つけた! 」」


 二人は同時に、力強く走り出す。

 俺の視線の先には、一本の木。

 そして、木の枝の間にキラキラと金色に輝くボールが一つ。

 この三日間、探し回った宝探しのものと同じものだ。


「私が勝つわ!!」

「いっ君は渡さないんだから!!」


 まさか昨日の小夜鳴先輩から聞いた噂話は本当だったのか?

 色々なボールを三日間見てきたけど、金色に輝くのは初めてだった。

 俺はとりあえず走り出した二人を追いかける。


「とう!」


 少しだけ先行した火之浦先輩が金色のボール目掛けてジャンプした。

 初衣ねえも遅れて、ジャンプ。

 火之浦先輩があと少しで触れそうなところで、初衣ねえと衝突。

 そのはずみで、ボールは木から零れ落ちてしまった。


「っと」


 零れ落ちたボールはちょうど武見先輩の歩く先まで転がった。

 歩いていた武見先輩の足がちょうどボールと重なって、そのまま別方向へと飛ばされてしまった。

 

「武見君の馬鹿!!!」

「……なんで俺が罵倒されたんだ?」


 武見先輩がその理由を知ることはない。

 ボールの行く先へ、二人は着地した瞬間にまた走り出す。

 本気すぎて、全然追いつけない。

 ボールはそのまま人ごみの中へと転がっていった。


「絶対に!」

「捕まえるわ!」

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