39.本腰を入れます!
お昼休憩が終わった後、小夜鳴先輩から呼び出された。
「さて、そろそろ作戦開始しましょうか」
呼び出されたのは、陽碧学園の校舎の教室。
他の作戦会議に呼ばれていたメンバーはいない。
俺と火之浦先輩、小夜鳴先輩の三人だった。
「宝探しの件だけど、一日目はそこまで隠されてはいないみたい」
「それは予想の範囲内ね!」
「最初から市内で探し回るのは、先生達からすれば面倒なことだからね」
「でも、ないわけではないんでしょ?」
「そうね。簡単に見つけることのできる場所に何個かあるみたい。まだみんな体育祭を楽しんでいる最中だから、宝探しの点数はそこまで大きく開いていないわね」
「他の競技はどんな感じなの!」
「これも僅差ね。どの競技もいい感じにバラついているわ。でも、黄色が少し先行してる」
「新樹武見先輩コンビの組か」
「学園内でも、運動能力がずば抜けて高い二人だし、しょうがないわね」
「勝てそうなの?」
「さあね。こればっかりは競技に参加している人達に頑張ってもらうしかないわ」
小夜鳴先輩のタブレットには、各組の点数が表示されていた。
多少の差はあれど、二点や三点の差ばかり。
ただ、黄色だけは他の組より大体七点ぐらい点数が上だった。
「各組の運動能力を比べても、やっぱり黄色が頭一つ抜けているわ。あの二人組を差し置いても、優秀な人達が集まっているのね」
「振り分けの段階で、平均的にしなかったんですか?」
「ある程度はね。でも、偶然そういったチームができてしまうの。ランダムって、思っている以上にランダムでないものよ。覚えておくといいわ」
「はあ」
「そういう不確定要素も考慮しながら、作戦を立てていくの。そうね、凍里ちゃんに足らない能力ね」
「水無瀬先輩、ですか?」
「そう。彼女、面白いけど、ね」
「凍里は凄いのよ!」
小夜鳴先輩から水無瀬先輩の評価を聞くのは初めてだが。
その評価に少し不満なのか、火之浦先輩は即座に否定に入った。
「小夜鳴先輩って、どうしてそこまで水無瀬先輩に構うんですか?」
「ふふ。そう見える?」
「はい。俺達が一緒にいる時に話しても、大抵水無瀬先輩に話しかけてますよね?」
「へえ、よく見てるのね。優秀だわ。流石初衣ちゃんのお気に入りね」
「そうよ、伊久留も凄いのよ!」
「いい、信頼関係ね。そうね、凍里ちゃんと出会ったのは、去年の体育祭。ちょうど美琴ちゃん達、青春同好会が結成してから最初の活動だったかしら」
去年の体育祭。
そこで青春同好会は結成された。
元々幼馴染である火之浦先輩と水無瀬先輩。
二人の行動に惹かれて、一緒に行動するようになった新樹先輩。
俺がまだ知らない、陽碧学園新入生としての三人。
「青春同好会の一件で、体育祭が一時中断しちゃったの」
「いや、何してるんですか!」
「マラソンのコースを急遽変える羽目になったのよね」
「数十人を一度に誘導するために色々試してみたの!」
「そのせいで、百人以上の人がコースを逸れて大混乱よ」
「給水所とか看板とか色々と細工したの!」
楽しそうに語っているけど、結構えげつないことをしてますね先輩。
「最初から迷惑全開ですね」
「ありがと!」
褒められてるとでも思ってるんだろうか?
「その時に生徒会補佐をしてた初衣ちゃんの手伝いをしてた時に、ね」
「確かあの時は、風紀委員に先回りされて捕まっちゃったのよ!」
「その裏に小夜鳴先輩がいたと?」
「そうよ。その当時のルート改変を考えたのが凍里ちゃんだったのよね」
「凄い作戦だと思ったんだけどね! あの時はあなたが一枚上手だったわ!」
「あなたのそういうところ、好きよ。凍里ちゃんは賢いけど、まだまだ甘いわ」
「どういうところがですか?」
「あら? 敵にアドバイスを与えると思う?」
「凍里なら、きっとあなたを倒すわ!」
別に戦っている訳ではないとは思うんだけどな。
水無瀬先輩はそう思ってるのかな?
目の前の小夜鳴先輩はただ楽しんでいるだけ。
遊びみたいなものだ。
「私は本気よ! 生徒会や委員会の奴らなんかに負けないわ!」
「ふふ。本当に初衣ちゃんとは違ったカリスマ性ね」
「火之浦先輩にちょっかいはかけないんですね」
「ええ、しないわ。そもそも土俵が違うからね。私は頭を使った勝負が好き。彼女や初衣ちゃんは、そういう勝負も覆してしまう力を持っているもの」
「どういう意味ですか?」
「今生徒会選挙をしても、私は初衣ちゃんには敵わない。そういうことよ」
分かるような、分からないような。
曖昧な答えを示された気がした。
「じゃ、小話はこの辺にして。本題に戻りましょう」
「それもそうね!」
「現状、他競技で点数の差は大きくないから、そこまで宝探しに力を入れるつもりはないけど、明日の点数の増減でそれも大きく変わってくるわ。宝探しの方に関しては、作戦指揮は全て美琴ちゃんに一任してるから任せたわ」
「安心して! 頑張るわ!」
「御形君は彼女のサポートをお願いね」
「すること、ありますかね?」
「手綱を握るのが役割よ。期待してるわ」
それならできる、とは思う。
気まぐれでどっかに行ったりするからな、この先輩。
「宝探しの人数はこちらで決めるから、スマホで確認できるようにしといてね」
「分かりました」
「分かったわ!」
「とりあえず今日はお疲れ様。明日からは本腰しっかり入れていくわよ」
小夜鳴先輩はそう言って教室の外へと出て行った。
「勝つわよ!」
ガシッと肩を掴まれて、火之浦先輩と顔面を突き合わせる。
「近いですって! 頑張るんで、頑張ってください!」
「期待してるわよ!」
ブンブン振り回される。
「と、とりあえず他のメンバーに会いに行きますよ!」
「それもそうね!」
宝探しにそこまで力は入れなくていい。
なら、今日ぐらいは体育祭を色々と楽しみたい。
明日からは色々と忙しくなりそうだし。
「ちょっと!!!」
「え?」
そんな俺と火之浦先輩だけの空間に、突如として初衣ねえが現れた。
「るるに聞いたら、ここにいるって! なんで一緒にいるの、ずるい!!」
「伊久留、行くわよ!」
「うわあ!!」
初衣ねえから逃げるように、引きずられる俺だった。




