36.体育祭当日です!
窓の外から聞こえてきた体育祭決行の号砲で目を覚ました。
開けたカーテンの先、今日の天気は快晴だった。
雲一つのない青空に、俺は気分が上がって眠気が吹き飛んだ。
朝ご飯を軽く食べて、今日の体育祭の準備を始めた。
手軽なバックに、タオルや軽食、ペットボトルを詰める。
時間がある時に部屋に帰ってくることができるので、確認する必要もなし。
体育祭開始の時間まで余裕があるから、もう少しゆっくりして出ようと思う。
コーヒーでも飲もうかな。
「伊久留!」
バン、と俺の部屋の扉が開かれた。
「体育祭よ!」
「なんで、開けれたんですか……」
俺、鍵はしっかりするタイプだったはずなんだけど。
昨日は忘れてしまったんだろうか。
「まだ時間ありますよ?」
「起きてるんだから、さっさと行くの!」
「同意したくありませんねそれは」
朝からいつも通り元気ハツラツの火之浦先輩。
「というか、初衣ねえとの約束はどうしたんですか?」
昨日の夜。
体育祭で勝った方が俺を一日自由にできる。
その代わり、体育祭期間中は個人的に一人で俺と接触することを禁止する。
そんな約束を、火之浦先輩と初衣ねえは交わしていた。
「バレたら、色々と面倒そうですよ?」
「大丈夫よ! 安心しなさい!」
満面の笑みで答える先輩。
「ちょ、火之浦美琴! 勝手に部屋出て行かないでよ!」
どうしてそんなに自信満々なのか。
数秒後、俺の部屋に駆け込んでくる初衣ねえの息切れ姿で納得がいった。
「か、勝手に行動しないでよ! や、やっぱり朝一で見に来てよかった。あ、おはよう、いっ君!!」
「あ、うん。おはよう、初衣ねえ」
「会長は私の部屋で待っててくれてもいいのに!」
「嫌よ! いっ君を独り占めするの禁止でしょ!」
「すぐ連れていくつもりだったわ!」
しれっと嘘つくな、この先輩。
どうやら、初衣ねえが朝早くから火之浦先輩の部屋に訪れていたらしい。
「この人が、約束守るって思わなかったもの!」
初衣ねえの考えには同意する。
現に、火之浦先輩は俺を連れてどこかへ行きたがっていたし。
「初衣ねえって、勘が鋭いね」
「いっ君を守るためなら、未来予知だってしてみせるんだから!」
「的外れな予知で暴れるのだけは勘弁ね」
「ほら、伊久留! さっさと体育祭に向かうわよ!」
「いや、まだ時間が……」
「生徒会の用事もあるから、早くいかないといけないの」
「紫組の作戦について、話したいことがあるわ!」
「二人の予定があることは分かったんですけどね」
もうそれ、二人だけで行けばいいじゃん。
そう思うの俺だけ?
「それ、俺が付いてきても暇になるし」
水無瀬先輩は、きっと自分の組の指示に忙しいだろうし。
となると、新樹先輩と土浦がいるけど。
「陽乃女は、野球の練習だと思うわ!」
と、火之浦先輩が言っていた。
昨日のメッセージで、今日の昼過ぎに試合があることは分かっている。
しかも、新樹先輩は結構な戦力らしいし。
邪魔するのも、なんか違うな。
となると、土浦しか残ってない訳だが。
不満があるわけではない。
ただちょっと、誘いにくいだけ。
「ほら、いっ君。早く……あ、ちょっと待ってね」
と、初衣ねえのスマホに電話がかかってくる。
「あれ、掩ちゃん? 起きてるよ、大丈夫……え、もうみんないるの!? き、昨日集合時刻が早まったなんて連絡来てないよ!? あ、待って。ごめんなさい。通知あった。え、ちょ、え、掩ちゃん! 怒んないで、今からすぐ向かうから、ね? もう本当に、怒らないでって。今からいくからあ!」
どうやら大導寺先輩からの連絡だったらしい。
事の次第は、初衣ねえの言葉で大体掴めた。
生徒会長の大失態だ。
「うう、早く行かないと……火之浦美琴!」
「分かったわ! 今回は一時休戦ね!」
ガシッと、二人はアツい握手を交わす。
二人の眼差しに、確固たる友情を感じる。
「じゃ、伊久留。またね!」
「いっ君、怪我はしないでね!」
二人はそのまま、何事もなかったかのように部屋を出て行った。
台風だな、まさしく。
「はあ、なんかジッとするのもな」
あの二人に感化されたのだろうか。
ジッとしていると、身体がムズムズしてくる。
かといって、体育祭が始まるまで行くところもないんだが。
「ふむ」
ちょっとだけ、優しさを見せてあげようか。
**********
「ふん!」
体育祭は最初、陽碧学園の校舎内で開会式が行われる。
いつもの制服姿とは別で、生徒達はそれぞれの動きやすい服でやってきている。
俺達も校舎へと向かっている最中だ。
「なあ、なんで怒ってるんだよ」
俺の前を歩く土浦は、一度も俺を顔を合わせてくれない。
俺の周りの先輩達は皆体育祭関係で先に行ってしまった。
残っているのが、俺と土浦のみ。
昨日の帰り道の土浦の顔が忘れられず、誘ってみたんだけど。
「馬鹿」
「なんでだよ」
「ばーかばーかばーか!!」
なんでこんな文句言われんといけないんだ。
ここまで嫌われているとはね。
「別に、一人で寂しくない、のに……」
「はいはい。今度からは呼ばないようにするって」
「んん、そういうことでも」
「ん?」
「そういうことでもないの!!」
「んん???」
今日初めて顔を正面から合わせた俺と土浦。
土浦の顔は、真っ赤になっていた。
「その」
「な、なに?」
真っ赤な土浦は、歯を食いしばって何かを吐き出そうとしているみたいで。
十数秒そのまま身動ぎしたままだった。
「その」
ようやく捻りだした土浦の言葉。
「あり、ありが、と……助かった」
なんと、土浦から感謝の言葉を聞くことができた。
初めてじゃないだろうか。
いや、土浦に感謝されるようなことはそもそもしてこなかったからなんだけど。
でも、こうして面と向かって気持ちを伝えにきたのは、初めてだろう。
「おう。気にすんな」
ドギマギしてしまって、無難な返答しかできなかった。
いつも反抗的な土浦の素直な言葉には、驚きを隠せなかった。
多分その驚きも顔に出てしまったんだと思う。
土浦の真っ赤な顔が、数秒後にはいつもの土浦の顔になっていた。
「なにその顔。なんかむかつく」
「いや、だって驚くだろ! 感謝されることなんて今までなかったんだし!」
「ふん! ありがとう、だなんていうんじゃなかった。やっぱあんた嫌い」
「待ってくれって! 嬉しいよ、ありがとうって言ってくれて。連絡してよかったと思うし。俺も結局一人だったから、一緒に付いてきてくれて嬉しいって」
「知らないわよ。じゃあね」
そう言って、土浦は俺から遠ざかるように校舎へと向かっていく。
歩くの遅すぎて、結局追いついたけどね。
**********
「俺、バスケでるぞ!」
舘向が俺の前でそんな宣言をする。
なんかイメージ通りで特に驚きはしなかった。
「チャラいしな」
「それは偏見だろ!」
「俺にそんな宣言されても、組違うしどうでもいいよ」
「応援ぐらいしてくれよ! 俺達の組が勝つかもしれないだろ!」
「朝から元気だね、舘向」
校舎に入ってからは、俺と土浦は別々に行動した。
特にお互い何も言わずに、流れでそういう風になった。
土浦は今窓際の席で、ずっとスマホを眺めている。
あいつ、いつもスマホで何しているんだろうか。
「そういや、水無瀬。お前は作戦会議とかに誘われなかったの?」
「いや、別に誘われてないよ。そもそも一年生が会議に呼ばれること自体が稀なんだよ」
「でも、水無瀬は学年上位だろ、成績」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「そんなもんかね」
「そんなもんよ」
水無瀬涼乜は、姉の水無瀬凍里と同じように優秀だ。
俺は赤点取るかもしれないなんてビクビクしてたのに。
「お姉ちゃんと私は違うのよ」
「あ、そう」
「おい、俺の応援ぐらい来てくれよ!」
この三人で騒いでいる内に、教室の前の黒板に画面が映し出される。
その画面には、見慣れた顔、生徒会長初衣ねえの姿が映っていた。
『皆さん、ただいまより体育祭のことについてのお知らせをします』
生徒会長として、今日から始まる体育祭の説明を始める。
そのほとんどが事前にタブレットで配布された資料に書かれていること。
だが、それらを初衣ねえは分かりやすく丁寧に伝えてくれている。
こう見ると、改めて初衣ねえの凄さを実感できる。
俺の知っている初衣ねえは、しっかりと生徒会長をしているんだと。
『それでは、緊急のお知らせなどもありますから、各組からの連絡などは見逃さないようにしてください。何かありましたら、お近くの風紀委員までに連絡を。なお、広報委員の皆様が体育祭の様子を撮影していますので、ご協力お願いします』
最後にいくつかの注意点を付け加えて、放送は終了。
直後、全体放送で体育祭開催の告知がされた。
陽碧学園校舎が活気づき、一気に各所が大騒ぎとなる。
「んじゃ、お互い頑張ろうぜー」
「じゃあね~」
舘向と水無瀬も、それぞれの場所へと向かっていく。
二人が教室から出て行ったのと同時に、土浦がこちらに近づいてくる。
「ん」
土浦はこちらにスマホの画面を見せてくる。
そこには、火之浦先輩から同好会全員に向けたメッセージが表示されていた。
『全員集合!』
「どこに?」
「伊久留! 萌揺!」
俺のツッコミとほぼ同時に、火之浦先輩が俺達の教室へとやってきた。
見た感じ、廊下を全力疾走していたみたいだ。
息切れしてるし。
「お姉ちゃん!」
「風紀委員会に見つかったら、速攻捕まりますよ」
「大丈夫よ!」
「体育祭期間中は、反省室は封鎖されているよ」
後ろからゆったりと現れた水無瀬先輩がそう答える。
「御形。涼乜はいる?」
「さっきどっかいきましたけど」
「そう。それならいい」
そしてようやく、教室に足を踏み入れた。
姉妹仲悪いのか?
「萌揺ちゃ~ん。準備まで一緒に行動しましょ~」
「あーん! 陽乃女お姉ちゃん大好き!」
ガシッと新樹先輩にハグする土浦。
クラスメイト達は少しだけ先輩達の視線を向けるが、すぐに教室の外へと出て行った。
青春同好会への興味よりも、体育祭の興奮が勝っているようだ。
「でも、どうして集合したんですか?」
体育祭は各組での対戦形式だし、俺達は三つの組に分けられている。
俺と火之浦先輩。
土浦と新樹先輩。
そして、水無瀬先輩。
体育祭期間中は、青春同好会と言えど敵同士ということになるのだが。
「今日の午後は陽乃女が野球に参加するのよ!」
「それは知ってますよ」
だから、その試合は全員で集まって見に行こうという話になっているが。
「試合始まるまで、何か遊ぶわよ!」
「え?」
「遊ぶわよ!」
「俺はいいいですけど」
唐突すぎる。
体育祭に全力で力を入れると思っていたけど。
ただ俺は体育祭に関してはそこまで大きなやる気はない。
結局、火之浦先輩の補佐をするだけだし。
青春同好会で遊ぶことに関して、そこまで問題はない。
「水無瀬先輩はいいんですか?」
一応作戦立案の担当をしていたはずだけど。
実質まとめ役の人がこんなことをしていてもいいのだろうか?
「体育祭三日間あるし、最初はゆっくりするようには伝えてある」
「ゆっくりしててもいいんですか? 宝探しとか、早くに見つければ有利だと思うんですけど」
「各競技はある程度公平性があるように点数を付けられるようにしているけど、宝探しは可能性は少ないけど、全ての点数が一つの組に入ることもある」
「それは水無瀬先輩の予想ですか?」
「半分は。残り半分は、生徒会長がポロっと漏らした」
初衣ねえ……。
「だから初日は宝探しもそこまで点数を稼げない。恐らく三日目が稼ぎ時になると思う」
「私も保健委員長も同じ考えよ!」
火之浦先輩も、水無瀬先輩の予想と同じようだった。
「そっちの方が面白いものね!」
「理屈は分かりますけど、それ俺にも教えてくださいよ」
俺は火之浦先輩達が考える作戦を何も知らない。
一応作戦会議には参加しているはずなんだけど。
「伊久留は隣にいてくれるだけでいいのよ!」
まるで愛する人へのプロポーズのような言葉だった。
隣にいてくれるだけで励みになる。
隣にいてくれるだけで、それ以外に用はない。
どっちにも読み取れて、少し複雑だった。
「で、何するんですか?」
「体育祭のスケジュールは?」
「はい、凍里お姉ちゃん」
水無瀬先輩の一言に、土浦は瞬時に反応した。
土浦は自分のタブレットを持ってくると、二度の操作で体育祭全体のスケジュールを画面に表示させた。
「陽乃女の試合は午後からで、昼休憩挟むから前試合のことは気にしなくていいか」
「そうですね~。準備は昼休憩で済ませますから、ギリギリ登場でも問題ないです」
「いいんですか? 主力なんじゃ」
「いいんですよ~。練習が必要なほどではないので」
「すごい自信だ」
「陽乃女だからね」
水無瀬先輩が少しだけ誇らしげにそういった。
そういえば、この先輩、扉蹴り飛ばすんだよな。
頑丈なやつ。
「どこ守るんですか?」
「ピッチャーですよ~」
「新樹先輩の球を、誰が受けるんです?」
受けれる人がいるとでも?
「風紀委員長がいる」
「武見先輩と同じ組なんですか?」
「風紀委員長に選ばれたのは、武見が陽碧学園の風紀委員の中で一番強いから」
「私もよくあの風紀委員長に投げ飛ばされるわね!」
「……火之浦先輩は、風紀委員相手に取っ組み合いするんですか?」
「でも、風紀委員長が唯一勝てない相手が陽乃女」
「楽勝ですね~」
そんな因縁があったんですね。
単純だけど、複雑そうな二人だな。
「で、何するとか考えているんですか?」
「全然!」
「スケジュール見ても、一時間ぐらいしか暇な時間はないかも」
「遊ぶなら、少し中途半端ですね~」
「体育祭って、競技以外に何かあったりするの?」
「あるよ。タブレットで色々と出店情報見れる」
土浦の疑問に、水無瀬先輩はタブレットの画面に情報を表示させる。
「陽碧市以外からも出店来たりしてる」
「あ、このお店東京で有名なお店ですね~」
タブレットの情報を見て、新樹先輩がいくつか有名なところを指さした。
良い値段で美味しそうな食べ物が沢山売られているみたいだった。
「普通に買おうとしたら、結構な値段するものばかりですね~」
「こんな感じで、ちょっとしたビジネスチャンスでもある」
「全部制覇するのもありね!」
「お金がないです」
俺の言葉に、火之浦先輩と新樹先輩がこちらに顔を向けた。
お金持っているからって、全部制覇は流石に気が引ける。
「そうだわ!」
俺と顔合わせしていた火之浦先輩が突然大声をあげた。
「陽乃女の登場を豪華にしましょう!」
「登場?」
「豪華って?」
同好会の新人二人は火之浦先輩の言葉を理解できていない。
水無瀬先輩と新樹先輩は理解できているらしく、
「具体的にどうする?」
「ハリウッドスターみたいな登場がいいですよね~」
すでに作戦の考案が始まっている。
「陽乃女の出番まで時間もないし、凝ったことはできなさそう」
「そうね! 時間はどうしようもないから!」
「やっぱり爆発は外せませんね!」
「いや、流石に突発的に爆発は無理」
入念に計画すれば、爆発系いけるんだな、この人達。
「じゃあ、技術部のとこでも行ってみる?」
「いいわね! 行きましょ!」
「何か面白いものがあるかもしれませんね~」
「技術部?」
「御形、知らないの?」
「まあ、すぐに青春同好会に入って、それどころでもなくなったんで」
「面白いところよ!」
火之浦先輩の面白いにそこまで期待は持てないんだけど。
「え? あそこに行くの……」
土浦は心底嫌そうな顔をしている。
「しょうがない」
「萌揺が別行動すると逸れちゃうから、一緒よ!」
「ほら、行きますよ~」
「先輩達も言ってるんだから、行くぞ」
「い、行くわよ! 黙ってて!」
口ではそう言っていたが、土浦は結局先輩三人に引きずられる形で同行した。
**********
技術部の部室は陽碧市とを繋ぐ橋の反対側の海岸の小屋らしい。
歩いて十数分で、技術部の小屋が見える。
教室一つ分の大きさぐらいで、小屋の周りには色々なガラクタが置かれている。
まさしく技術部そのものを表している小屋で、想像通りだ。
「踏み入れてはいけない雰囲気がありますね」
「ま、普通の人は立ち入らないだろうね」
「ねえ、開けて! 青春同好会よ!!」
「でも、こんな呼び方でいいんですか?」
小学生が玄関前で友達を呼ぶような感じだ。
「仲がいいとか?」
「まあ、ある意味」
水無瀬先輩の言葉の意味が分からなかった。
ある意味仲いいとはなんだ?
その時、技術部の小屋の扉が開いた。
「んだ。またお前か、帰れ」
「そんなこと言わないで!」
「うっぜー。立ち去れ」
中から出てきたのは、筋骨隆々の大男だった。
部屋の中から扉を通して、臼灰色の煙が外へ流れ出した。
一気に放出されたところを見ると、結構な量が小屋の中にたまっていたのだろう。
大男は汚すぎる作業着を着て、嬉々として関わろうとする火之浦先輩をここから遠ざけようと躍起になっていた。
「技術部の部長」
「仲良くは、なさそうですけど」
「仲いいでしょ。喧嘩するほどって」
「いや、完全に部長さん嫌がってますって」
あんなに嫌そうな顔しているのに、火之浦先輩は引こうとはしなかった。
「おい、新樹。今度新作のデザイン考えてくれや」
「いいですよ~」
「もちろん報酬は出すぞ。今度相談させてくれ」
「ねえ! なら少しぐらい手伝って!」
「そんな可愛い笑顔で絆そうたってそうはいかねえぞ。お前の厄介さは身に染みて分かってんだからよ。ほら、こいつをさっさとどこかへ連れてけ」
「というか、部長は体育祭でないの?」
「ん? ああ、技術部はいつも忙しいからな。シフト決めて、各自体育祭に入れるようにしてんだ。今はたまたまだよ。昼過ぎには少し参加するぞ」
「参加しないんだったら、ちょっと話を聞いてほしいわ!」
「だ、か、ら。忙しいから、シフト組んでるんだろ? おい、本当にどうにかしろ」
「リーダーは動かない」
「難しいですね~」
「……ああ、もう。今度俺らを手伝えよ!」
結局、技術部部長が折れた。
「忙しいのは変わらんから、そこらへんに放ってあるやつを適当に持ってけ」
「いいの!?」
「構わん。責任はそっち持ちだからな」
「ありがとう!」
「はいはい」
呆れ顔か、笑顔か分からない表情で技術部部長は部室の小屋へと戻っていった。
なるほど。
ある意味、仲がいいと。
別にそこまで嫌がっているわけではないようだ。
「で、お前は何してるんだ?」
ガラクタの山に隠れて縮こまっている土浦。
「こ、ここは嫌いなの!!」
「どうして?」
「前来た時、変な機械の暴走に巻き込まれたのよ! 最悪だったの!!」
「萌揺が適当に触るから」
「だと思いました」
「ぐ、偶然だもん!」
「どれがいいかしら!」
「色々と触ってみましょうか~」
「ひいい!!??」
火之浦先輩と新樹先輩がガラクタに触ろうとした瞬間、土浦は即座に遠くへと逃げ出していった。
その反応に少し恐怖を抱いて、俺も数歩後ろへ下がった。
「これは何かしら?」
「棒状の何か、でしょうか?」
「穴が先にあるし、スイッチもある。何か出るんじゃない?」
「凄いわ! 棒の先から糸が発射したわ!」
「これ、凄い頑丈ですね。前屋上から降りた時に使ったのに似てますね」
「これでどこかに昇れたりしないかしら!!!」
「できるかもしれないけど、これ発射した後どうするの?」
「糸の先は重りが付いているだけですね~」
「ただ発射するだけの装置ね!」
「しかも、一度切りっぽいね」
なんか楽しそうに先輩達はガラクタを弄り始めた。
とりあえず手に取ったガラクタを試して、使い方が分からなかったら部長に話を聞いて、とにかく色々なガラクタに手を出していた。
時間もあまりないと言っていたから、とにかく触って閃きを待っているのだろう。
土浦もいつのまにか、俺の数歩後ろまで戻ってきていた。
「じ、事故は起きないのかしら……」
「触んなきゃ問題ねーよ」
「ば、馬鹿にしてるでしょ!」
縮こまっている癖に、口だけは大きな土浦だった。




