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我々青春同好会は、全力で青春を謳歌することを誓います!  作者: こりおん
我々青春同好会は、全力で体育祭で勝ちを狙うことを誓います!

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59/81

33.中間試験の打ち上げです!

 テストから解放された生徒達は、次の土日を大きく満喫する。

 俺達青春同好会もその例に漏れず、テスト疲れを吹き飛ばすために活動をする。

 金曜日の午後は珍しくそのまま帰宅。

 火之浦先輩も俺の部屋に突撃することもなく、寮の前で別れてそのままだ。


 勉強に追われることのない、久しぶりの休日。

 十時過ぎの起床。

 起きたら勉強、という追手のいない自由の朝。

 まさかここまで清々しく感じるとは思わなかった。


 今日は昼ご飯を一緒に食べる予定だった。

 相手はもちろん青春同好会。

 簡単な中間試験の打ち上げだった。

 お昼の12時にファミレスに集合、ということになっている。

 時間的に朝食は食べなくても良さそうだ。

 となると、もう少し寝れるな。

 スマホでアラームを一時間後に設定。

 さて、もう少し身体を休めようか。


――ピンポーン。


「はあ」


 このチャイムは、オートロック前のものではない。

 この部屋に立てつけられた扉の前のものだ。

 厳重オートロックを搔い潜り、この部屋の前までやってくる。


「なんですか、火之浦先輩」

「おはよう!!」


 扉を開けると、案の定火之浦先輩がいた。

 私服姿の火之浦先輩。

 今まで何度か見てきたが、相変わらずだ。

 動きやすさと軽さ重視の私服は、快活な火之浦先輩にはぴったりだ。


「おはようございます。おやすみなさい」


 ガチャリ。

 扉を閉める。

 私服姿は可愛いけど、今じゃない。

 寝させてくれ。


――ピンポーンピンポーンピンポーン。


 はあ。


「とりあえず上がってください」

「ありがとう!」


 多分ずっとチャイムを鳴らし続けるだろうから。

 これが正解だろう。

 

「初めて入るわ!」

「……そうですね」


 今のところ、初衣ねえもこの部屋に入っていない。

 自分の部屋に女子を招く、なんて青春チックなことを今始めた体験した。

 その相手が火之浦先輩か。

 そうか。ふーん。


「……まだ時間ありますけど?」

「二度寝はしない主義よ!」

「っすか。でも俺は二度寝する主義なんです」

「じゃあ、おやすみ! あ、ゲーム!」

「いやいやいや。それなら帰ってくださいよ」


 同じ寮なんだし。

 すぐ帰れるじゃないか。


「いやよ!」

「なぜい……」

「集合時間まで暇じゃない?」

「そうですよ。まだ一時間はありますよ?」

「だから、遊びに来たの!」

「すみません。まだ寝起きで頭が回ってないんです」


 まだ時間はあるが、火之浦先輩は二度寝しない。

 俺は二度寝をしたいから、寝る。

 寝ている間は、火之浦先輩は俺の部屋に置いてあるゲームをする。

 俺は寝たいから、火之浦先輩には帰ってほしい。

 まだ時間はあるから、火之浦先輩はここにいる。

 

 会話がまとまらないなあ。


「伊久留、このゲームやってるんだ」


 俺を無視してゲーム機を開いた火之浦先輩。

 その画面には、今話題のFPSゲームが表示されている。

 元々パソコンゲームだが、据置ゲームにも移植されている。

 そこまで本気ではないが、そこそこのランクは維持されている。


「先輩、やってるんですか?」

「たまにやってるわよ! 萌揺が好きだから」


 土浦の部屋には、凄く立派なパソコンが設置されている。

 いわゆるゲーミングパソコンというやつだ。

 土浦はパソコンなどをよく扱っているようなので、そういうのも好きなんだろう。

 それに付き合ってあげる、火之浦先輩。

 なんとなくそういう構図が浮かんでしまった。


「水無瀬先輩達もするんですか?」

「全員でやったりしたこともあるわね!」

「強いんですか?」

「そうね。萌揺は強いわ! 私と陽乃女はそこそこ?」


 と、そこで火之浦先輩は何か考え込んでしまった。


「水無瀬先輩は?」

「こ、凍里は……」


 珍しく口ごもる火之浦先輩。


「へ、下手ね……?」

「下手なんですね」


 運動神経がとんでもなく悪い水無瀬先輩。

 反射神経を必要とするFPSゲームが下手なのも必然か。

 でも、なんでそんな口ごもる必要があるんですか?


「凍里と一緒にやった時に、一度喧嘩になったのよ!」


 喧嘩?

 火之浦先輩にべったりな水無瀬先輩が?


「普段運動苦手同士の萌揺に沢山負けたからよ!」

「なるほど~」


 同種の人間だと思っていた相手にボコボコにやられたらイライラするよな。 

 冷静なイメージがある水無瀬先輩の喧嘩か。

 見てみたいけど、見たくない気持ちもある。

 絶対口喧嘩になるとは思うし、そうなると勝てる未来は見えない。

 

「しかも、萌揺がハメ技使うのよ!」

「それはひどいですね」


 俺はタンスから今日着ていく服を取り出した。

 なんか先輩と話していたら、目が覚めてしまった。

 パジャマから着替えようとしたが、一旦やめる。


「すみません。着替えるんで」

「気にしないで!」

「気にするんで」

「大丈夫よ!」

「…………」


 なんか動かなかったので、トイレに避難した。

 どうしてそんな頑なに離れようとしないんだろうか。

 火之浦先輩、やはりどこか抜けているような気がする。

 着替え終わって戻ると、先輩はまだゲームをしている。

 チラッと覗くと、俺よりも洗練された手際で操作キャラを動かしている。

 振り向く先に敵がおり、中心に位置する武器の照準は綺麗に敵を捕らえている。

 どこに何かあるのかを完璧に把握しているように見える。


「凄いですね」

「でしょ! 萌揺から色々と教わったの!」


 周囲の状況を常に把握するのがコツらしい。

 このマップに何があるのか、どのアイテムが必要なのか、位置取りに適した場所はどこか。

 そういった情報を頭に入れつつ、それを今の状況と照らし合わせながら、敵が今どこにいるかを大きく把握する。

 情報処理能力と反射神経をフル活用すれば可能な技術。

 土浦はそれを分かって、火之浦先輩に教えたんだろうか。


「でも、土浦には勝てないんですね」

「そうね。萌揺は対人戦闘が私の数倍上手いわね」

「数倍……」


 今の火之浦先輩の対人戦闘も俺の数倍上手いのに。

 土浦はその数倍上の実力とは。

 今度、お手並み拝見したいものだ。


「あれ、伊久留。着替えたの?」

「まあ。目覚めちゃったんで」

「そう! じゃあ、遊びましょ!」

「ゲームですか?」


 今やっているのは、一つのゲーム機で二人で遊ぶことはできない。

 他のソフトも基本一人用だから、二人でゲームは難しいだろうな。


「私、ゲーム機持ってくるわ!」


 と、立ち上がって火之浦先輩は急いで部屋を出て行った。

 一分ぐらい経った後に、ゲーム機を持った手を掲げて戻ってきた。


「二回ぐらいはやれるでしょ!」

「はいはーい」


 というわけで、お昼の集合時間まで火之浦先輩とゲームの時間だ。

 俺はベッドに寝転んで、火之浦先輩はベッドに背中を預けてクッションに座っている。

 お互いにゲーム画面は見えない状態だ。

 火之浦先輩が使っているキャラクターは、見たことのない装備をしていた。


「これいつの装備ですか?」

「去年の今頃にあったイベントで手に入る装備よ!」

「それってリリース初めの方じゃ?」

「そうね!」


 受験が終わる頃に周年キャンペーンをしていた。

 俺が始めたのは去年の夏休みだから、そのイベントは通っていない。

 その装備を見たことないのは当然だった。


「結構古参なんですね」

「リリース当初に萌揺にお願いされたの! そこからずっと続けてるわ!」

「仲いいっすね」


 土浦が駄々こねる姿が簡単に想像できた。


「じゃあ、二人チームでやりましょう!」

「うっす」


 早速ゲームが始まる。

 二人一組のチームが、五十チーム存在する。

 大きなフィールドに全員落とされて、そこでサバイバルを行う。

 バトルロイヤル形式のFPSだった。

 全チームが集まり終わると、ゲームが始まる。

 休みの日だから、集まるのがとても速かった。

 始まりと同時に、俺達はランダム地点に飛ばされた。


「じゃ、火之浦先輩がリードお願いします」

「任せて!」


 ここは一旦火之浦先輩の指示に従うのが無難だろう。

 明らか俺より実力は上だし。

 俺よりこのゲームのキャリアが長いから、経験も豊富だろう。

 

「じゃあ、まずは武器を探しましょう。ありそうなのはこっちね」


 スタートと同時に、火之浦先輩は迷うことなく突き進んでいく。

 このゲームは初期装備は平凡で、それは各プレイヤー平等だ。

 武器はマップ各地に散らばっており、装備を整えていく。

 強い武器が落ちている可能性がある場所もあるらしい。

 武器や道具を拾いながら、火之浦先輩は色々と教えてくれた。

 そのどれも土浦から教えてもらった情報らしい。

 

「ゲームガチ勢ですね~」

「そうよ! 中学校もずっとゲームしてたし」

「ハマると、なかなか抜け出せないの分かります」


 俺もよくゲームし過ぎで怒られていた。

 ゲーム依存症も時折話題にはなっていたし、そういう人も多いだろう。


「この建物に隠れましょ!」


 火之浦先輩が指定した建物に二人で隠れた。

 このゲームは時間経過でマップが縮小していく。

 この建物は次回縮小後マップの中心に位置していた。


「一旦ここで待つわ!」

 

 建物内を捜索した後はここに留まるらしい。

 俺は二階に続くたった一つの階段を監視するように言われた。

 火之浦先輩は動き回り、周囲の状況を探っている。

 一度目の縮小が終わり、次の縮小が始まる。

 この建物はまだ範囲に入っているが、端っこの方に位置していた。


 今のところ、誰とも接敵していない。

 今残っているのは、24チームほどまでに落ち着いていた。


「ここはそこまで人気がある場所じゃないから」


 火之浦先輩はそう言っていた。

 

「私はまず地固めするべきだと思うの!」

「装備不十分じゃ、勝つの難しいですからね」


 意外にも、火之浦先輩はそういう考えらしい。

 なんかもっとドンパチしたいとか考えていると思っていました。


「萌揺は結構密集地帯に行ったりするの」

「強いからこそできることですよね」

「装備ちゃんとした私でも、初期装備の萌揺に負けることが多いわね!」

「ガチ勢だな~」


 最上位ランクの土浦さん、まじぱねえっす。


「次はあの車で移動するけど」

「どうかしました?」

「何チームか、いる、気がする」


 妙に歯切れが悪い火之浦先輩。

 画面から先輩に視線を移す。

 画面をジッと見ながら、音にも気を張っている。

 話しかけるのをやめて、数十秒後。


「この近くにいるわ!」

「え、は、はい!」

「伊久留はそのまま! 窓には近づかないで」


 俺はそのままこの場所にステイ。

 先輩は一階へと向かっていった。

 火之浦先輩が索敵しつつ、接敵したら二階へ連れてくるという算段だった。


「あ!!!」


 と、火之浦先輩が突然大きな声を上げる。

 そして持っていたゲーム機を地面に落として、その場でジタバタし始めた。


「もー! まーけーたー!!」

「え?」


 火之浦先輩のジタバタ姿から画面に目を戻す。

 画面には赤文字で『GAME OVER』と表示されていた。

 いつの間にか突撃されて、数秒視線を外した時にやられてたらしかった。

 僅か数秒で制圧する技術。

 とんでもない実力の持ち主が紛れ込んでいたらしい。


「ん?」


 自分を倒した相手を確認する。


「も、もゆもゆ……?」

「萌揺!!!」


 俺が名前を確認した直後、火之浦先輩も俺が考えていた相手と同じ名前を叫んでいた。


「いつもこの時間寝てるのに!」

「土浦だったか……」


 観戦モードに移動。

 俺達を倒した土浦のゲーム画面を表示させた。

 機敏に動き回りながら、相手の頭に的確に銃撃を浴びせていた。

 受けるダメージは最小限に。

 与えるダメージは最大限に。

 土浦の持つ対人戦闘は、到底真似できない域だった。

 まさしく神業。


「たまたまマッチングしちゃったんですね」

「もう! 萌揺、結構マッチするのよ! その度にやられる!」

「ふーん」


 土浦かぁ。

 あいつ、もしかして火之浦先輩の動向を知っているんじゃないか?

 フレンドだったら、今ログインしているか確認できるし。

 あいつならやりかねない。


「次は萌揺がいないか確認しないとね!」


 そう言って、火之浦先輩はゲームを再開した。

 今土浦はさっきのマッチをやっている最中だろう。

 今始めれば、土浦とマッチする可能性は極めて低いだろう。

 

「次こそ勝つわよ!」

「はい!」


 結局、さっきのマッチを抜け出した土浦に開幕ボコボコにされた。



*********



 結局、ゲームはやめた。

 三回中三回、土浦にボコボコにされたからだった。

 火之浦先輩はその度に憤慨しながらも、土浦に文句は言っていなかった。

 自分の腕の悪さを言うだけ。

 本当に仲がいいんだな、と俺は思った。


「もう! それにしても萌揺とマッチしすぎよ!」


 集合時間より少し早く、俺達は寮の外へ出た。

 

「でも、伊久留とフレンドになれたのは良かったわ!」

「またやりましょうね」


 次は、土浦に会わないようにね。

 時間まで、とりあえず外をブラブラすることとなった。

 以前初衣ねえと一緒に歩いた道を、火之浦先輩と一緒に歩く。

 なんかちょっとむず痒い。


「今日はいい天気ね!」

「そうですねー」


 雲一つない青空を指さして、火之浦先輩はぴょんぴょん跳ねた。

 初衣ねえとは隣同士で歩いたけど、火之浦先輩はよく俺の前を歩く。

 一応ブラブラ散歩するという話なんだけど。

 これじゃあ、俺が火之浦先輩に付いて行っているように見えるな。

 それはそれで、退屈しないからいいんだけど。


「このままずっと晴れだったらいいわね!」

「気持ちいいですもんねー」

「走りたくならない?」

「なりませんねー」

「走るわよ!」

「あの、歩きましょうよ……」


 俺の腕を引っ張ろうとするので、同じぐらいの力で先輩を止めた。

 何度か抵抗した後に、火之浦先輩は俺の腕を解放した。

 無理矢理引っ張っていくとも思ったんだけど、意外とすんなりしていた。

 

「ふっふー! 何しようかしら!」

「とりあえず市街地行きませんか?」

「あら、どうして?」

「そこまで詳しくないんですよね」

「探検ね!」


 まあ、そういうことだ。

 市街地に何があるのか、買い物以外で利用しないからわからない。

 こういう機会に、先輩に教えてもらおうとふと考えた。

 火之浦先輩はそのまま市街地の方へと足を運んだ。

 歩きながら、その周囲のことについて色々と教えてくれた。

 学生がよく使う店やご飯を食べる店、ちょっと穴場のスポットなど。

 どこでそんな情報を得るのか。

 その情報をどうやって記憶しているのか。

 先輩が口を閉じた時はないのではないか、と思えるほど先輩は饒舌だった。

 

「よくそこまで知ってますね」

「凄いでしょ! 陽碧学園に入学してからすぐに探検したの!」


 その行動力は素晴らしいな、と思う。

 俺は陽碧学園の入学式の後はすぐ寝ちゃったなあ。

 青春同好会のいざこざに巻き込まれて、疲れたんだっけな。


「あの~」


 今までの少ない学生生活を思い出していると、後ろから声をかけられた。

 か細い声だったから、初めは自分に話しかけられたのかはわからなかった。

 とりあえず振り返ってみると、そこには首からカメラをかけた人がいた。

 芽出先輩。

 広報委員会のトップ、広報委員長だった。

 芽出先輩の視線が俺の顔に向けられているのを確認して、話しかけられたのが自分だとようやく確信できた。


「あら、広報委員長ね!」

「ど、どうも火之浦さん。お久しぶりです」


 視線をあちこちに動かしながら、ギリギリ聞こえる小さな声を出す芽出先輩。

 体育祭では小夜鳴先輩、反省室では武見先輩とお世話になる。

 今のところ、芽出先輩とそこまで関わりはない。

 インタビューをしたい、という話は聞いたことはあるけれど。


「えへへ。今日はラッキーな日です」


 と、芽出先輩はカメラを擦りながらそんなことを呟いた。

 何がラッキーなんだろうか。

 理由を聞こうとする前に、芽出先輩はフルフル震えながら口を開いた。


「あ、あの! 写真撮ってもいいですか!」

「え?」

「いいわよ!」


 唐突に写真撮影のオファー。

 俺は戸惑い、火之浦先輩は快諾。

 俺の一歩前に現れた火之浦先輩の腕を引っ張って、後ろにやった。


「先輩、とりあえず待ってください」

「どうして? 別に問題ないわ!」

「俺はあるんで、問題」

「ど、どうしてでしょうか……」


 カメラを構えたまま、シュンとする芽出先輩。

 

「その写真何に使う気ですか?」

「つ、次の広報新聞の一面にしようかと……」

「なぜ!?」

「ゆ、有名なお二方のデ、デート写真はスクープになるかと思いましてですね、えへへ」

「それは名案ね!」

「そ、そうですか?」

「新聞の一面になるなんて、滅多にできない経験よ!」

「あ、あの、い、一応青春同好会の方々は何度か一面にしたことありますよ」

「伊久留にとって、とてもいい経験になると思うわ!」

「そんな経験いらん!」


 五分程度騒いだ後、俺は渋々写真を受け入れた。

 あんなに泣きそうな芽出先輩を見れば、断ることはできなかった。

 とりあえず火之浦先輩とのツーショットで我慢してもらった。

 そしてこの写真は広報新聞に使わないことを約束してもらった。

 まあ、これだったらいいだろう。


「芽出先輩は何されてるんですか?」

「趣味の写真撮影しながら、ネタを探してるんです」

「そのカメラは芽出先輩のですか?」

「はい! 高校進学祝いで買ってもらったんです!」


 芽出先輩は高級そうなカメラを大事にしているようだった。

 よくカメラマンとかが持っている一眼レフとかいうやつなのだろうか。

 詳しくないから全く分からない。

 先輩のカメラを見る目から、とても大事なものなんだということが伝わった。


「そ、そうだ! 今度青春同好会の皆さんのインタビューをさせてほしいんです」

「いいわよ!」

「あ、ありがとうございます!」

「い、いいんですか? 広報委員ですよ?」

「大丈夫よ! 広報委員は中立の記事を書くわ!」

「本当ですか?」

「も、もちろんです! 誇りにかけて誓います!」


 そうは言っても、広報委員は生徒会に属する委員の一つだ。

 生徒会の手が回る可能性もある。

 それに、青春同好会のインタビューをしたいと言っているのだ。

 他のメンバー、特に水無瀬先輩には聞いておくのがベストだと思うけど。


「それもそうね! また今度話しましょ!」

「そ、そうですか。ん~、あまり良いタイミングが来ませんね」

「落ち込まないで! 私達いつでも待ってるから!」

「あ、ありがとう、ございます……」

「広報委員も忙しいんですか?」

「忙しいです。体育祭は生中継されますし、その後編集したダイジェスト版とかを作るので。新聞記事とかのための写真撮影。もちろん当日競技に参加しますし」

「聞くだけで忙しいってわかります」


 保健委員は当日の生徒達の体調管理や怪我の対処。

 風紀委員はお祭りでの風紀の乱れを取り締まる。

 生徒会も忙しそうだけど、各委員会も忙しそうだ。

 考えれば当たり前なんだけど、普段の活動でそんなこと知ることはできない。

 それに小夜鳴先輩もいつもと変わらず作戦会議に出席している。


「でも、楽しいからやってるので」


 芽出先輩は少し笑ってそう答えた。

 本心から出た言葉だということは、先輩の顔から分かる。

 忙しい委員の仕事も、そういうマインドだと楽に感じるのだろうか。


「た、多分、御形さんもこの気持ちわかると思いますよ?」

「……そうですか?」


 俺は別にキツイことはしたくないけど。


「え、だ、だって青春同好会に……」

「え?」

「せ、青春同好会の活動、私はとてもきつそうに見えるので」

「む」


 考える。

 外から見れば、青春同好会の活動はきつく見えるのか。

 今までの活動を振り返る。

 学園に許可なく侵入したり、生徒会巻き込んで麻雀したり、生徒会にあるもの盗もうとしたり、桜の木を作って勝手に学園の敷地に植えたり。

 俺は青春同好会の活動は楽しいとは思ってるんだけど。

 でも、反省室は楽しくない、かもぉ?


「ま、まあ、それは人それぞれですから!」

「青春同好会は楽しいわよ! 広報委員長も入ればいいわ!」

「え、えと。私は、え、遠慮しておきますね」


 あまりにぎこちない苦笑い。

 どういう感想であれ、マイナスなイメージは青春同好会にはあるのだろう。

 でもまあ、仕方がない。

 だって、青春同好会ってそんなことばっかしてるもんな。


「そ、それじゃあ、私は別の場所に」

「ええ。楽しかったわ!」

「それじゃあ」

「え、と、か、鐘撞さんにも色々と伝えておきますので!」


 ペコリと一礼して、芽出先輩は速足で去っていった。

 初衣ねえに、色々と伝えるとな。

 面倒事に発展しそうだ。


「インタビュー、初めて受けるから楽しみだわ!」


 まだ決まったわけじゃないけどね。


「でも、新聞の一面飾るぐらいならインタビューぐらい……」

「大体事件起こした時だから」

「あ、水無瀬先輩。おはようございます」

「おはよ」

「凍里、インタビュー受けましょ!」


 どこからともなくやってきた水無瀬先輩。

 どうやら近くで待機していたらしい。

 芽出先輩との会話を少し盗み聞きしていたようだ。


「駄目」

「えー、なんでー! 宣伝になるじゃない!」

「面倒なことに巻き込まれる可能性がある」

「面倒なことってなんですか?」

「広報委員周りが、少し面倒だと私は思う。生徒会長とか保険委員長とか」


 それはただ保険委員長と仲が悪いだけでは?

 とは口にしなかった。

 青春同好会は基本的に風紀を乱す学園の悪者だ。

 広報委員がしっかりとインタビューするとは言っていたとしても、その周りがそれを許さないだろう。

 もし青春同好会が良い意味で有名になれば、収拾がつかなくなる。


「題名はきっと『暴かれる青春同好会の悪事の数々』だろうね」

「そんな大げさな」

「それぐらいされても文句は言えないことしてるからね」

「それもそうね!」

「インタビューされたいなら、別のベクトルで攻めないと」

「別のベクトル?」

「それこそ、体育祭で優勝すればいい」

「でも、それは青春同好会としてのインタビューじゃないわ!」

「そういうインタビューがしたいなら、いつか考えておくよ」


 頼りになるわ、と火之浦先輩は誇らしげだった。

 待ち合わせ時間まで三十分ぐらい。

 

「二人は何してたの?」

「探検!」

「御形に色々と教えてあげてたんだね」

「今の言葉でよくそこまで分かりましたね」

「時間まだあるし、もう少し歩く?」

「ええ! ちょうどいい時間につくように移動しましょ!」

「となると、こっちかな」


 次は水無瀬先輩を先頭に。

 その少し後ろを火之浦先輩、次に俺と市街地探検が再開した。


「ここはテーブルゲームが遊べるお店」

「テーブルゲーム?」

「将棋とか」

「一回いったけど、楽しかったわ! また行きましょ!」

「人気だから、事前予約必須。日程合わせよう」

「テーブルゲームも土浦が一番強いんですか?」

「テーブルゲームは凍里ね!」

「テーブルゲームはね」

「そうそう! 聞いてよ、凍里! 今日の朝萌揺が!」


 寮を出る前のFPSゲームで、土浦に惨敗したことを伝えた。

 

「ほんと運がないわ! 味方だと嬉しいけど、敵だと本当に面倒だもの!」

「御形」

「はい?」


 火之浦先輩から少し離れてから、水無瀬先輩が小さな声で俺を呼ぶ。

 

「御形には言っとくけど、今後は美琴とゲームしない方がいい」

「え、なんでですか? 楽しかったですけど」

「基本的に萌揺が邪魔してくるから」

「え、そうなんですか?」

「萌揺も遊びたいんだよ。それにリーダーと遊ぶのが気に食わないんと思う」

「き、気に食わない?」

「萌揺はかまってちゃんだからね」


 水無瀬先輩は俺の肩をポンポン叩いて火之浦先輩の方に向かった。

 ゲームの邪魔をする?

 あんなピンポイントで同じゲームに入り込めるものなのか?

 パソコンに詳しいらしい土浦だから、何かしらの手段があるんだろうけど。


「あいつも暇だな」

「なにが暇なのよ」


 背後からぶっきらぼうな声。

 振り向いた先には、いつもの不機嫌そうな土浦がいた。


「なに、文句あるわけ?」

「お前、なんであんなふざけたことを……」

「ふざけたぁ? あんたが美琴お姉ちゃんと遊んでたから邪魔しただけじゃない」

「それがふざけてるって言ってんだよ!」

「あんたが弱いからダメなんでしょ! 弱いくせにお姉ちゃんと!!」

「最初は偶然だと許せても、二回目三回目は許せねーよ! なんであんな的確に敵としてマッチできるんだよ! お前もしかしてチートか!」

「違うわよ! ちゃんと色々調べてやってるの!」

「ほんとかぁ? あとなんで速攻俺達を倒したんだ? 火之浦先輩を一番にしたいとは考えないのか?」

「そ、それよりあんたと遊んでいるということがむかつくもの」

「こいつ……」

「あら、萌揺じゃない!」

「おねえちゃーん!!」


 俺の喧嘩して不機嫌だったのに、火之浦先輩から声をかけられたらすぐに機嫌がよくなった。

 ひょいひょい先輩達の方に土浦は行ってしまった。

 どうやらチートは使ってないらしいけど。

 あいつの先輩、いや、俺への執念が凄まじいことを今日実感できた。


「では、また!」

「は~い。よろしくお願いします~」


 次は、元気な男の声、そして続いて聞きなれた柔らかい声が聞こえた。


「なんか久しぶりに見たな」


 近くの水無瀬先輩は俺と同じ方向を向いている。


「何が久しぶりなんですか?」

「あれ。陽乃女の部下だね」


 そういえば、新樹先輩ってブランド立ち上げてるんだっけ?

 部下と呼んでいた人の身なりはビシッとしている。

 こちらに近づいてくる新樹先輩から視線を外さない。

 新樹先輩がその人に振り向いて手を振る。

 そしてようやく、新樹先輩の部下はどこかへ行った。


「おはようございます~」

「おはよ。午前中は仕事だったの?」

「はい。時間が取れそうだったので、面倒なものは先に済ませておきました~」

「優秀だね」

「仕事ですからね~」

「もう大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ~。もうお腹ペコペコです~」

「あれ、そういえば二人はどこへ?」


 火之浦先輩と土浦の姿が周りからいなくなっていた。

 

「あの二人がいなくなるのはいつものこと」

「先にファミレス行きましょ~」

「え、いいんですか?」

「集合場所知ってるだろうし。早めに集まれたんだから早めに行った方が得」

「ですね~」


 と、こちらの二人はそのまま目的地まで歩き始めた。

 

「ちょ、待ってくださいって!」


 火之浦先輩と土浦が少し気がかりだが、このまま一人になるのも嫌だった。

 二人を待つか、二人を追うか。

 天秤にかけて、俺は水無瀬先輩と新樹先輩に付いていくことにした。


 今日の打ち上げの目的地は、ファミレスだった。

 でも俺達青春同好会はファミレスに到着前に、図らずも全員集合した。

 なんかこういうのいいな、と俺は思った。

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