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我々青春同好会は、全力で青春を謳歌することを誓います!  作者: こりおん
我々青春同好会は、全力で体育祭で勝ちを狙うことを誓います!

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31.中間試験直前です!

 勉強会は継続的に行われ、ある程度の自信がつくまでにはなった。

 どれだけ高い点数を取れるか、という部分ではない。

 赤点を回避できるかどうか、という部分の自信だった。


 正直、学年内の順位とかどうでもいい。

 受験生になったら変わるんだろうけど、とりあえず赤点を回避すればいいだけの話なのだ。

 青春同好会で反省室に入れられるのはまだマシだとしても、テストで赤点を取ったから反省室なのは許せない。

 そもそも学園中に良い噂がない状況の中で、加えてテスト赤点組というレッテルが張られるのは嫌だ。


「終わったぁ……」


 舘向が小さな声でそんなことを呟いた。

 机の上には本とかプリントが散乱している。

 最後の授業丸々テスト勉強に費やしたらしい。

 動画教材で授業が行われるから、最後のミニテストを受ければ問題はない。

 今回の内容は中間テストの範囲には入っていない。

 やるだけ無駄だと言えば無駄だけど。

 ただそれは先延ばしだからしっかりやらなければならない。


 と、水無瀬先輩には散々注意された。

 俺が賜った水無瀬先輩の忠言を、舘向にも送ることにした。


「うるせい! 今が大事なんだ!」


 それには俺も同意するけどね。


「真面目に勉強してんだ。意外」


 こちらにやってきた水無瀬涼乜は呆れ顔だった。


「んだよ。こっちくんな」

「明後日からテストなのに、その調子じゃダメだね」


 中間テストは、水木金の三日に振り分けて行われる。

 いつもはタブレットを使った授業だが、定期試験は紙で行われる。

 普段タブレットのみで済ませる人はここで躓くと水無瀬先輩は言っていた。

 問題の解答を紙に記入する力には慣れが必要、と新樹先輩も同意していた。

 読めば基本暗記できる新樹先輩は、最初の中間試験で失敗したらしい。

 陽碧学園が特殊なだけでであって、他の高校の大半は紙で行われる。

 大学試験やその他の試験も基本はそれだ。

 そういう力が必要なのだが、それに倣うのも必然ではある。


「もうタブレットで二択ぐらいにしてくれ!」

「それはありがたいな」

「だろ!!!」

「言い訳するぐらいなら勉強したら?」

「水無瀬このやろう!」


 ぎゃあぎゃあ喚きながらも、舘向は勉強を続けた。


「ねえ」


 そんな騒がしい舘向とは別に、水無瀬は俺に小さく声をかけてくる。


「あの、ちょっと、聞きたいことが」

「なに?」

「……お姉ちゃんのことなんだけど」

「先輩のこと?」

「え、と。最近元気してる?」

「ああ。元気だよ。勉強教えてもらってるし」

「……そう」


 と、水無瀬はそのまま教室を出ていった。


「なんだ?」

「あ、赤点だけでも阻止しなければ、お小遣いがぁ」

「……諦めたら?」

「御形まで、俺を見捨てるのか!!」


 バンバン、机を叩く。

 うるさいからどっか行ってほしい。


「ねえ」


 と、また別の女子生徒の声。

 土浦萌揺だった。

 

「なんだよ」

「ちょっとなんでそんな雑な対応なのよ」

「仕方ないだろ。水無瀬とお前は違うだろ」

「あの子、もしかして凍里お姉ちゃんの?」

「妹だとさ」

「ふーん」


 土浦は水無瀬が出ていった扉をジッと見つめている。


「どうした?」

「別に」

「今日勉強会はどこでやるか知ってる?」

「知らない」

「火之浦先輩から連絡がないから、勉強会だけなんかね」

「知らない」

「……今日のお昼ご飯何食べた?」

「知らない」

「おいおい」


 土浦は心ここにあらずの状態だった。

 ジッと扉を見つめているままだった。


「なあ」


 舘向。


「土浦さん、どうしたの?」

「知らねーよ。俺も土浦とはそこまで親しくないって」

「そうなのか? 結構一緒にいるのに?」

「友達の友達とは仲良くなれないだろ? 同じ理屈だ」

「ふーん。結構可愛いのに、勿体ないことするよな」


 確かに、客観的に見れば土浦は可愛い。

 ただその可愛さは普段の土浦の態度で相殺されている。

 今のところ、魅力はプラマイゼロ。


「可愛さっていうのはな、単純な足し算じゃないんだぜ」


 うるせい。

 早く勉強しろ。


「伊久留! 来たわ!」


 土浦の視線の先の扉が勢いよく開かれる。

 青春同好会リーダーのお出ましだった。


「明後日のテスト楽しみね! 今回こそ凍里に勝つから!」

「はいはい」

「お姉ちゃん、会いたかったぁ~!」

「萌揺、最近学校に来てて偉いじゃない!」

「えへへ~」


 土浦は自分の頭を撫でられて、満足そうにしている。

 「ふっ、羨ましいぜ」と舘向は席を立った。


「あの人は、伊久留の友達?」

「クラスメートっすね」

「ふーん」

「誘うんですか?」

「・・・・・・しないわ!」


 少し悩んだけど、火之浦先輩は俺の質問に元気よく答えた。


「リーダー。廊下走らないで」


 と、ぜえぜえ息が荒い水無瀬先輩が遅れてやってきた。


「はあ、はあ。ああ、もう……」

「お疲れ様です」

「今度から、はあ、御形がこっちに来て」

「うっす」


 今までに見たことのない顔色の水無瀬先輩。

 数分経っても呼吸は収まらず、隣の席に座って動かなくなった。

 

「新樹先輩は来ないんですか?」

「ジュース……買いに、いく……言ってた」

「声かけてすみません」

「お姉ちゃん! 中間試験頑張ったら一緒に遊んで!」

「いつも遊んでるじゃない?」

「じゃなくて! 一緒に!」

「んー、考えておくわ!」

「なんか今日するんですか?」

「そうよ、伊久留!」


 俺の質問に、火之浦先輩は瞬時に土浦から俺に顔を動かした。

 肩を前後に大きく揺さぶりながら、本当に楽しそうに話し始めた。


「ねえ伊久留!!」

「はい、はい!!」

「メントスコーラ、するわよ!!」

「え、ええ、ちょ、一旦止めて!!」


 メントスコーラ。

 コーラにメントス入れれば爆発する、とかいうやつ。

 小学校の時になんか話題になった記憶がある。

 今更、するんですか?


「新樹先輩のジュースって、そういうこと」

「メントスがたまたまあったのよ!」

「刹那的ですね」

「ほら!」


 火之浦先輩が手のひらを見せてくる。

 その手のひらには、小さなメントスが一つ。


「え、一個だけ?」

「そうだけど?」

「普通、売られてるやつじゃ……」

「だから言ったじゃない。()()()()()()()、てね」

「ちなみにどこで?」

「部屋の机の裏側に落ちてたの!」


 昨日、部屋の模様替えをしたらしい。

 なぜしたかは分からないらしい。


「んで、メントスコーラというわけですか」

「実はやってなかったのよ! 盲点だったわ」


 それが流行ったのは小学校の頃。

 小学校の時はそういう意味の分からないものは禁止されていることが多い。

 俺もそうだったし。

 そもそもメントスとコーラを買うお金すら持たせてもらえないしな。

 ブームをすぐに去ったし、やってないといっても驚かない。


「でも一個だけですか?」


 火之浦先輩なら沢山買ってきそうだけどな。


「私も勉強しないといけないもの!」

「え、するんですか?」

「当たり前よ! 明後日テストなんだから!」

「ま、真面目……」

「今度こそ一番を目指すわよ!」


 一番を目指すリーダー。

 赤点回避を目指す俺。

 同じ同好会でも、ここまで目指す先が違うのか。


「そういえば」


 と、珍しく土浦が俺と火之浦先輩の会話に入ってくる。

 いつもは強制的に火之浦先輩を連れ出すのに。

 もしかしたら、明日は嵐かもしれないな。


「お姉ちゃん達三人って、誰が賢いの?」

「私」


 俺も気になっていた先輩三人の力関係。

 その質問に、元気になりかけの水無瀬先輩が即答した。


「否定はしないんですか?」

「しないわ! だって凍里の方が順位は上だもの!」

「記憶力なら負けませんよ~」


 と、コーラを手に持った新樹先輩がやってくる。


「記憶力、ですか?」


 新樹先輩の記憶力が凄まじいことは、勉強会で思い知った。

 「これなんでしたっけ?」という質問に先輩は何も見ずに即答する。

 百発百中の記憶力。

 それもちょっと読んだだけで記憶できる、と言っていた。


「じゃあ、暗記科目なら水無瀬先輩より上?」

「それは違う」


 と、水無瀬先輩はこれまた即答した。


「テストだったら、どの科目でも負けない」

「そうなんですよ~」

「どうして?」

「暗記科目も、絶対暗記しないとダメってわけじゃない」

「ど、どういうことぉ?」

「萌揺、今まで一問一答だけのテストなんか受けたことある?」

「ない、けど……」

「そういうこと。暗記科目とは言われているけど、暗記だけじゃ点数取れない」

「確かに」


 社会の科目も、全部一問一答なんてありえない。

 これはどういう経緯で起こったのか。

 どうしてこういう地形が生まれたのか。

 この理論はどういう経緯で生まれたのか。

 そんな問題の方がむしろ多い気もする。


「水無瀬先輩って、記憶力もいいんですか?」

「普通ですね~」

「他人に言われるとなんか嫌だな。でもまあ、概ねその通り」

「じゃあ、暗記が必要なやつを間違えたりするんですか?」

「しない。忘れたら、思い出す。そういう勉強してるし」

「ど、どういうこと?」

「そもそも凍里はずっと学年一位よ? 凄いわよね!」


 陽碧学園の定期試験。

 英語・国語・数学・理科・社会。

 この五科目。

 理科と社会に関しては、自分たちで選択した科目を受けなければならない。

 理科は、化学・生物・物理・地学。

 社会は、日本史・世界史・地理・政治・経済・倫理。

 五科目それぞれ、二百点満点。

 理科と社会は、選択したもので構成された問題が各自配られる。


 定期試験は1000点満点だ。


「私は大体900後半だね」

「900前半です~」

「同じよ!」


 大体900点超えると、十位以内に入れるらしい。


「ば、化け物……」

「お、お姉ちゃんを化け物扱いしちゃダメじゃん……」


 土浦もこの状況にドン引きしていた。

 ちなみに、赤点ラインは200点前後。


「土浦」

「な、なによ」

「初反省室頑張れよ」

「ちょっと酷い!!!」

「で」


 ぎゃあぎゃあ喚き散らす俺と土浦。

 そんなことお構いなしに、先輩達は話題を変える。


「メントスコーラ、やるの?」

「中間試験が終わったら、もう少し豪勢なものをしたいわね!」

「メ、メントスコーラで?」

「屋上から噴水メントスコーラ!」

「屋上って入れるっけ?」

「普段は鍵で締まってますけどね~」

「前、屋上の扉関係で捕まりましたけど、できますかね」

「どうだろう。無理矢理開けることはできると思うけど」

「どーん、ですね~」


 新樹先輩のキックだったら、どこでも侵入できるだろうな。

 すぐ見つかるだろうけど。


「これまたそういえば、なんですけど」

「なに?」

「水無瀬先輩と新樹先輩って、反省室どれくらい行ったことあるんですか?」

「どうでしたっけ? 今年度は美琴ちゃんと御形君だけですね~」

「覚えてない」

「でも、美琴ちゃんが一番なのは確実ですね」

「そうだね。基本的に実働部隊が捕まるからね」

「美琴ちゃんについていった方が反省室行きでしたね~」

「でも、陽乃女は逃げ切るの得意でしょ? 私は逃げ切れないから」

「それは、そうでしょうね」

「御形から言われるの腹立つ」


 あんなにぜーぜー言ってる姿を見れば、誰だってそう思う。

 冷ややかな視線を受け取り、恐怖を感じる。

 話題を戻そう。


「メ、メントスコーラしましょー」

「もう準備してるわ!」


 顔を向けると、コーラのキャップはすでにない。

 なんなら、火之浦先輩がメントスを入れようとしてるところだった。


「え、ここでやるんですか?」

「駄目なの?」

「いや、汚れるじゃないですか!!」

「掃除すればいいじゃない!」

「そういう問題じゃないでしょ!」

「あ、陽乃女。売店にパンまだ売ってあった?」

「ありましたけど、売れ残りばかりでしたよ~」

「なんか甘いもの食べたいんだよね」

「市街地に買いに行けばいいんじゃないですか~?」

「もうあまり元気ない」

「そうですか~。そうしたら見に行きますか?」

「陽乃女、おんぶして」

「しょうがないですね~」

「わあ。お姉ちゃん、抑えてやらないと、きゃあ!!」

「凄いわ! CGじゃなかったのね!!!」

「どわあ!!! 想像以上! じゃなくて!!」


 ペットボトルから噴き出したコーラは、倍以上の高さまで到達。

 そのまま一面に膨れ上がっていく。

 教室に残っていた僅かのクラスメートは、想定外の光景に唖然とする。

 メントスコーラが収まる頃には、クラスメートは全員外へ退避していた。

 教室の四分の一ぐらいは浸食されているのではないだろうか。

 もちろん掃除の準備はしていない。

 勉強会を始めなければならないのに、面倒事が増えてしまった。


「あらあら~」

「どうだった、リーダー?」

「もっと色々と遊んでみたいわ! 中間試験終わったらすぐやりましょう!」

「それは良かったね」

「お、お姉ちゃん! 服にコーラが!」

「はあ。雑巾とかってあるんですか?」

「掃除用具入れに行かないとない」

「い、一旦部屋に帰らないと……」

「おい! お前ら!!! 教室をコーラで汚すな!!」


 誰かが通報したのか、風紀委員長の武見先輩がやってきた。

 

 武見先輩主導の下、青春同好会総出で教室の掃除をした。

 そして、全員反省室行きが武見先輩から言い渡される。

 水無瀬先輩、新樹先輩、土浦。

 三人の今年度反省室行きデビューを飾り、そのついでに勉強会も反省室でするのであった。

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