28.文武両道です!
昼休み。
いつもの食堂の一角。
青春同好会が集まり、作戦会議という名のお昼ご飯。
「伊久留?」
青春同好会のリーダーが、心配そうな声色で話しかけてくる。
本来ならしっかり答えなくてはならないのだが。
「放っておきな、リーダー」
「あらあら~、今まで見たことない真剣さですね~」
「馬鹿みたい」
リーダー以外の三人の反応も様々だった。
水無瀬先輩は興味ないみたい。
新樹先輩は面白がってる。
土浦は馬鹿にしている。
「伊久留、なんで勉強してるの?」
「中間テストが近いからでしょ」
俺の代わりに水無瀬先輩がしっかりと答えてくれた。
体育祭が開かれる五月最後の土曜日と六月最初の日曜日。
その週の一週前が中間テストだということを昨日の夜知った。
暇つぶし目的で適当に掲示板を開いてみたら、中間テストのお知らせが書かれてあった。
ちょうど花見がしたいと火之浦先輩が声を上げた頃。
「伊久留なら、大丈夫よ!」
妙なプレッシャーを与えてくるのやめてほしい。
「御形って成績いいの?」
「よかったら、こんなに焦って勉強しないでしょ。お姉ちゃん達とは違うもん」
「飲み込みはいいわよ、伊久留は!」
「それなら、テスト前の詰め込みでもなんとかなるの? 陽乃女」
「私は詰め込みなんかしませんよ~」
「あー、陽乃女は詰め込みとは違うか」
「伊久留、多分そこ間違ってるわ!」
隣に座って度々を指摘してアドバイスをしてくれる火之浦先輩。
またその隣では土浦がその度に野次を飛ばしてくる。
どうやら火之浦先輩が俺ばかりにかまっているのが気に入らないらしい。
「先輩達は勉強しないんですか?」
ちょっと疲れたし、やる気もそこまでないので気分転換。
俺の疑問に、先輩方は「何を言ってるんだこいつ」みたいな顔を向けてくる。
「え、俺なんか変なこと言いました?」
「勉強は毎日するものでしょ?」
「ちゃんと授業受けてれば問題ない」
「一度見れば覚えてしまうので~」
新樹先輩だけ天才チックなコメントだったが。
火之浦先輩と水無瀬先輩は一般的な秀才学生が言いそうなことを言っている。
「毎日勉強してるんですか?」
「もちろんよ! だって勉強楽しいじゃない!」
「……水無瀬先輩も勉強好きなんですか?」
「別に。ただ効率的にやるなら、授業の時に全部終わらせた方がいいってこと」
「新樹先輩は、その、言ってること本気なんですか?」
「そうですよ~。記憶力がいいんですよ、私~」
「はあ」
なんでこう、青春同好会の先輩方は勉強をしっかり行っているんだろう。
そこは勉強方面でも素行不良であってほしい。
青春同好会のメンバーってだけでも目立つのに、そんな中でも成績が悪いってさらに目立ってしまう。
「ほんと、馬鹿ね」
土浦からも馬鹿にされる始末。
青春同好会でも肩身が狭い俺。
「というか、萌揺。あなたも勉強できないでしょ」
「は?」
「そうよ、萌揺! 勉強教えてあげるわ!」
「は、はあ! 何言ってんのお姉ちゃん! 私もちゃんと勉強してるし!」
「ふーん」
「な、なによ、馬鹿御形!!!」
「勉強、頑張ろうぜ」
「むかつく!!!」
火之浦先輩越しに、タブレットで頭を叩かれた。
「この学園に入学できたんだから、二人ともある程度勉強はできるんだし」
「頑張ってくださいね~」
「陽碧学園って、定期試験も他の学校と違うんですか?」
「順位、全員分しっかり張り出される」
「もちろん赤点の人もハッキリと明記されます~」
「一部の教室が反省室になるから、いつもの反省室より少し居心地がよくなるわ!」
「自分の学力がしっかり広まるってわけですね」
火之浦先輩の言ってることだけ、少し理解できなかった。
「赤点取った人は?」
「反省室と同じ仕組み。定期試験後は反省室がごった返す」
「だから、他の空き教室も反省室といて使うんですよ~」
「居心地がよくなるというのは?」
「運が良ければ、反省室が使えないということよ!」
「赤点の人達が反省室を使うから、か」
赤点の人が十人以上になった場合は、点数が低い人から反省室へ。
それ以外は、空き教室を使って行われる。
その時にちょうど風紀委員に捕まれば、反省室は定員オーバー。
普段行う反省内容が、空き教室で行われると。
「え、去年定期試験後に捕まったんですか?」
「そうよ!」
「なにしたんですか?」
「料理同行会のケーキを強奪した」
「試験後の打ち上げをしてたんですよ~」
「ひでえ」
定期試験のストレスがたまった中でご褒美を盗まれる。
心中お察ししてしまう。
「赤点は嫌だな」
「平均点の四割下回ったらダメ」
「平均点ってどれくらいなんですか?」
「去年は、どれくらいだった?」
「知るわけないじゃない!」
「大体60から70ぐらいですね」
たっか。
「この時期は高校の勉強に追いつけてない人が多かった印象があります」
「確かに。中学とは少し違うしね」
「それは、安心しますね」
「だからって、赤点取ったら大恥」
「ですよね」
「ど、どうしよ……」
「伊久留と萌揺はどれくらい勉強ができてるの?」
「さっぱりです」
「べ、勉強……?」
「御形は勉強はしてるみたい」
「逆に萌揺ちゃんはさっぱりですね」
「は! 勉強してるだけ偉いもんね!」
「はあ!? どうせ赤点なんだから結局同じでしょ!」
わんやわんやと口喧嘩が始まる。
周りに座っていた生徒達は、身の危険を感じたのか食べる速度を速める。
すでに食べ終わっていた人たちはどっかに立ち去って行った。
「酷い」
「底辺の争い、とはこういうことですか」
「もう! 私を挟んで喧嘩しないで!」
火之浦先輩の言葉は響かず、口喧嘩は続く。
「陽乃女」
「は~い」
結局新樹先輩の力技で強制的に口喧嘩が終了した。
新樹先輩の両手は、ガッチリと俺と土浦の口元を抑えていた。
「ごぶぇ!」
「お、お姉ちゃん痛いィ」
「とにかく! 赤点はダメだから!」
火之浦先輩の一言。
水無瀬先輩も新樹先輩もそれについては同意見らしかった。
「そもそも、赤点取るって恥ずかしいことですよ~」
「ただ勉強してないことが露呈するだけ」
「赤点取ったら、その分遊べなくなるのよ! 青春同好会として見過ごせないわ!」
赤点組で補習を受ける、というのは青春の内には入らないらしい。
というわけで、放課後の夜勉強会を開くことになった。
「どこでする?」
「萌揺の部屋でいいでしょ?」
「えー、こいつも来るのー」
「萌揺の寮が一番近い」
「お菓子とか買っていきましょ~」
「いいね。私も同行する」
「はあ。勉強会かぁ」
面倒くささとやる気の無さ。
自分の勉強出来なさにため息が出る。
「ん、メッセージ?」
そんな時、自分のスマホからメッセージ着信の振動が来る。
確認すると、メッセージの送信者は初衣ねえだった。
『一緒に勉強しよ!』
ハートマークと一緒に送られた勉強のお誘い。
「はあ」
どうしようか一瞬迷ったものの、
『先約がある』
と、お断りのメッセージを送った。




