48.花咲か爺さんです! ③
開封。
「うえぇっ!?」
闇鍋の蓋が開けられる。
鍋の中身は、真っ黒な何かで埋め尽くされている。
そもそも、鍋なんだから。
液体は透明に近い何かであるべきじゃん。
なんで、真っ黒に、なってんだよ!
「なんですかこれ!」
「小豆」
水無瀬先輩、衝撃の一言。
「結構量多いし、なんだこりゃ!」
「御形、うるさい」
「いい感じの出汁になってますね~」
「……陽乃女先輩の食材は?」
「猪肉で~す」
猪肉!?
なぜそんなよく聞かない肉を!?
「ぼたん鍋って美味しいですよね~」
「ぼたん鍋って、小豆汁で作れるもんなんですか?」
小豆で肉が柔らかくなる、とか?
いや、ないな。
「私は、白菜よ!」
「普通ッ!!!」
リーダーが一番普通だったわ!
「いや、でも小豆が一番の害悪でしょ!!」
「酷すぎ」
「これぞ、闇鍋って感じね!」
「うぅ……」
「早くたべましょ~」
鍋の中。
そのほとんどを小豆が侵食していた。
「これ、鍋っていうか、ぜんざいに近いな……」
先輩三人は嬉しそうに。
土浦はさらに顔面蒼白に。
闇鍋、もとい闇ぜんざい?
いざ実食。
「ぶふぅ……」
あまったる。
どっろどろで、口の中全体に小豆の味と匂いがぶわっと広がる。
猪肉の嚙み切れない感じと、白菜のシャキシャキ感。
しまいに、小豆に紛れてぐちゃぐちゃのグミが歯にへばりつく。
調理の過程で崩れたのか、キウイの妙な酸味が残っている。
総評。
食べられない訳ではない。
今ここで吐き捨てようとまでは思っていない。
ただ、まずい。
一噛みに、数十秒必要。
飲み込むのに、一分以上はかかる。
「先輩方、よろしくお願いします」
「と、といれいってくる……」
新人二人はギブアップです。
あとは先輩三人で処理してください。
「寮に各自持って帰るという案はどうでしょうか?」
汗だらだらの水無瀬先輩。
なぜか敬語で、参謀としての責務を全う。
箸を持った手を震わせながら火之浦先輩に提案。
「ほわあ~」
新樹先輩はニコニコ微笑んだまま、動かなかった。
「これは、次回リベンジね……」
リベンジって。
闇鍋なんて失敗して当たり前だと思うんだけど。
どうしてそんな復讐に燃えているのでしょうか?
「リベンジって」
水無瀬先輩も同じことを思ったらしい。
「と、とにかく残りのお菓子で花見続行よ!」
バッと、火之浦先輩は鍋に蓋をした。
闇鍋、封印完了。
闇鍋は放っておいて、花見は継続なのだが。
「ねえ、青春同好会の皆さん?」
外野から聞こえてきた聞き覚えの声。
花見は中止せざるを得なくなった。
「いっ君。一応聞くけど、これは盗難品ではないのよね?」
生徒会長のご登場だ。
初衣ねえが示しているのは、俺達で作った桜の木。
どこかで採ってきた本物の桜の木と思っているのだろう。
「ごめん。今喧嘩する元気ない」
「ですね~」
水無瀬先輩と新樹先輩にやる気は感じられない。
まあ、別にこの桜の木は盗んだわけではないし。
「どうも、生徒会長さん! 何か用?」
「ええ。青春同好会さんが、ここでなにやら騒いでいるという報告があってね」
「あら、風紀委員会じゃないのそういう仕事?」
「ここを偶然通りかかったの。それだけ」
ちらっと、初衣ねえがこちらを見てくる。
一つ咳ばらいをして、話を進める。
「で、この桜の木はなに?」
「私達で作ったの!」
「……確かに。というか、流石に精巧過ぎない?」
「だって、青春同好会だもの!」
「……??」
大丈夫だ、初衣ねえ。
俺も意味わからん。
「はあ。とりあえず何も悪さをしていないのは分かったけれど」
初衣ねえは呆れ顔で見逃してくれた?
「勝手に校内の地面に杭を打つのはどうなのかしら」
うーん。確かに。
「許可いらない」
「いらないけれど、ここまで大々的にやるならあるに越したことはないわ」
「面倒」
「水無瀬さん? あなた、一番常識あるんだからしっかりしてくれない?」
「なにその謎の期待」
「それに、いっ君も。それぐらいはできるでしょ?」
「うぅ」
「なによ! 伊久留は関係ないわ!」
火之浦先輩。立ち上がって抗議を始める。
「あら? いっ君とは私のほうが付き合い長いし」
「関係ないわ!」
「火之浦さんはそう思っていればいいんじゃない?」
初衣ねえは強気に言葉を返す。
ちょっと一瞬即発な雰囲気がある。
が、先輩二人闇鍋にあてられて助け舟は出さなかった。
土浦はトイレで、この場にいない。
それに、まあ、俺もとりあえず助ける元気もない。
よし。
ここは休んでおこう。
「会長? まだ仕事はありますよ」
数分の口喧嘩の後、大導寺先輩がやってくる。
大導寺先輩の言葉を無視して言い合う二人。
大導寺先輩は初衣ねえの首根っこを捕まえて、その場を後にする。
引きずられながらも口喧嘩を絶やさない初衣ねえ。
少し面白かった。
「ふん!」
火之浦先輩は初衣ねえが見えなくなるんで視線を逸らさなかった。
「ふう。片付け、やろう」
「ですね~」
「これ、どこに持っていくんですか?」
「また橋の下の隠し場所でいいと思う」
「御形君、お手伝いお願いします~」
「了解です」
何を思っているのか、微動だにしない火之浦先輩。
他三人で、後片付けを始める。
封印された闇鍋を見る。
うん。
これからは俺も青春同好会の作戦にしっかり関わろうと思う。
そして。
土浦は、まだトイレから帰ってこない。
この闇鍋は橋の下の隠し場所に封印されることになりました。
きっといつか、水無瀬先輩が処理方法を考えてくれます。
次回、初衣ねえと何かが起こる!?
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