47.花咲か爺さんです! ②
「お菓子なのに、重すぎでしょ!」
お菓子は二つの袋に分けられていた。
中にはジュースなどもあり、確かに重い。
だが、運ぶのに苦労するほどではない。
途中まで、二人で分担して持って行っていた。
だが、土浦はすぐにベンチに倒れこんでしまった。
「む、むり!!!!」
いったん休憩させて、荷物を全部持ってあげた。
土浦の歩幅に合わせて歩く。
行きよりも帰りの時間が長くなってしまった。
「遅かったね」
「まあ、いろいろとありましたから」
「そ」
水無瀬先輩は校舎の壁にもたれ掛かって座り込んでいた。
この先輩も、体力ないよな。
火之浦先輩と新樹先輩はあんなにはしゃいでいるのに。
「遅い」
「すみません」
俺は手に持った袋を先輩二人のほうへと持っていく。
土浦は水無瀬先輩の隣に座り込んだ。
「新樹先輩もお疲れさまでした」
「ありがとうございます~」
「萌揺が足手まといだったんだね」
水無瀬先輩は隣で疲れ果てている土浦を見る。
俺達が遅れた理由に納得してくれていた。
「そういえば、火之浦先輩はどこへ?」
火之浦先輩の姿がない。
「なんか用意しに行くって」
「どこに行くかは教えてくれませんでした~」
「そうですか。嫌な予感しかしないですね」
あの人が一人で突っ走って良かったことあるっけ?
「待たせたわね!」
と、火之浦先輩が現れる。
大変嬉しそうにしているが。
なんか大きな袋を持っている。
「さあ、準備もできたからやるわよ!」
火之浦先輩は袋の中にあるものを鷲掴みし、
「枯れ木に花を咲かせましょう!!」
宙に黒い何かを唐突に巻き散らした。
どんどこどんどこ、袋の中から何かを取り出しては放り投げる。
風は吹かないので、宙に放り投げられたそれは地面に落ちる。
俺の目の前でそんなことをするから、俺の顔にも服にもつく。
地面に広がる黒い砂のようなもの。
明らかに景観を損ねている。
これ、掃除大変そうだな~。
「で、なんですかこれ」
「花咲か爺さんはね、なんと灰を使って桜を咲かしたの!」
「そんな話でしたね。」
「だから!」
「だから?」
「花を咲かせるわ!」
もしかして、これ灰のつもり?
灰色じゃなくて、黒なのに?
服についた灰とやらを手に取ってみる。
じゃりじゃり。
「もしかして、砂に色を付けたんですか?」
「そうよ!」
「ええ……」
「形から入るのって、大事でしょ?」
当たり前でしょ? て表情しないでください。
そんなきょとんとされても困ります。
「これ、どうやって色付けたんですか?」
「美術部の人にお願いして、特製の絵の具を借りたわ!」
「市販ので良かったじゃないですか」
「普通の絵の具じゃ、ちゃんと色がつかなかったの!」
だからって美術部に頼んじゃいかんでしょう。
美術部もよく引き受けたな。
無料で青春同好会に提供する危険性。
もしかして脅したんじゃないだろうか?
水無瀬先輩ならまだしも、火之浦先輩はしないだろうけど。
「ねえ、今失礼なこと考えてなかった?」
「うげっ!」
背後に水無瀬先輩。
小さくて気付かなかった。
「じゃあ、闇鍋しましょうか」
「いえーい」
「やりましょ~」
「ん?」
闇鍋?
「家庭科室は一階にあるし、鍋の準備はすぐできる」
「各自、この袋の中から一つ取り出して、それを鍋にして食べるわよ!」
「それ、本当にするつもりなの……?」
「萌揺、諦めて」
「うぅ……」
「陽乃女、先に家庭科室に行こう」
「は~い」
「火之浦先輩?」
付いていこうとする火之浦先輩を呼び止める。
「どうかした?」
「俺、青春同好会の一員なのに、聞いてないんですけど」
「なにが?」
「闇鍋ってなんですか?」
「闇鍋? そのままの意味だけど」
「いや、花見に関係ないじゃないですか!」
「関係あるわ!」
「いや、ないでしょ!?」
「ただ花を見るだけなんて、つまらないもの!」
この人に誰か花見の意味を教えてやれ!
「つ、土浦!」
「な、なによ」
火之浦先輩の背後。
この後起こるであろうことに辟易しているはずの土浦。
お前の意見を、聞かせてくれ!
「萌揺も、もちろん参加するわよね?」
「う、うん……」
少し悩んで、土浦はイエスを出した。
「イエスマンめ……」
「じゃあ、二人ともこの袋の中から選びなさい!」
俺がさっき持ってきた袋の中身。
それをまた別の大きな袋にまとめていた。
その中には色々な食材が入っている。
「事前に私達三人は選んでるの。あとは二人だけよ!」
「逃げられないのか」
「お姉ちゃんたちは、やるって決めたらやるもん」
「知ってるけどさ」
渋々袋の中に手を伸ばす。
持ってくるときに、少しだけ中身を確認した。
食べられないものはなかった。
確かに鍋に合わないものが多かったと思うけど。
食べられないもの入れられるよりマシ。
「んんー」
袋の中から引き揚げたのは、グミだった。
しかもちょっと高いやつ。300円ぐらいの。
まあ、無難であった。
「う……」
土浦が引いたのは、キウイだった。
キウイ?
「手触りで分かるやつじゃん」
「う、うるさい! 怖かったんだもん!」
怖いもくそもあるか!
「キウイを茹でるって、どういう料理だよ」
「ぱ、パイナップルだって酢豚とかにも使われるんだし、いいじゃない!!!」
「それはそれなりの理由があってだな……」
知らないけど。
「じゃ、これを持っていくわ!」
と、火之浦先輩は家庭科室へ。
「最悪……」
「じゃあ、止めろよ」
先輩達がいなくなったら、文句言うのやめなさい。
「お、お姉ちゃんたちの邪魔しちゃ悪いもん」
「そんな無理しなくてもいいじゃん」
「む、無理はしてない……」
「顔青ざめてるけど」
「つ、疲れてるから……」
「嘘つけ」
確かにさっきまで疲れた様子だったけど。
キウイを取り出した瞬間、凄い驚いた表情をしていたぞ。
「す、少し食べれば許してくれる、よね?」
「火之浦先輩だったら、全部食べ切れないと失礼だわ!とかいいそうだけど」
「うぅ……」
確かに、と納得したような表情の土浦。
先輩方と仲いいみたいだけど。
青春同好会には似つかないよな土浦って。
無理してんのかなぁ。
まあ、闇鍋を嬉々としてやる先輩三人が異常なだけか。
俺も、闇鍋を食べるのは嫌だし。
「ふう……」
俺はグミで、土浦はキウイ。
先輩達は事前に選んでいると言っていたけど。
なんの食材が入っているんだろう。
「……なあ、土浦」
「なによ」
「先輩達って、いつ食材選んだんだ?」
「知らないわよ」
「ふむ」
んー。
なんか嫌な予感がするね、これは。
数分後、先輩達は鍋と皿、箸を持ってやってくる。
これから花見が始まるわけだが。
「待ってください」
その前に。
「その闇鍋、確認させてください」
火之浦先輩が嬉しそうに持ってきた闇鍋。
その中身、確認しないといけない、絶対に。
「駄目よ! 桜の木の下で、みんなで一緒に食べなくちゃ!」
「リーダー命令」
「ほら、御形君は待機ですよ~」
ずるずる。
新樹先輩は、無理矢理引きずられた。
「ほら、あったかいうちに食べるわよ!」
「ちゃ、ちゃんと食べられるやつですか!?」
「その辺は安心して。ちゃんと私と陽乃女で選んでるから」
水無瀬先輩はそう言っているが。
正直、とても不安です。
ごめんなさい。
「さ、花見を始めるわ!」
火之浦先輩の一声で、青春同好会の花見が開催される。
さあ、闇鍋開封の儀。
実は闇鍋はやったことありません。
鍋と思ったら、闇鍋になったことはあります。
僕もヒロイン属性を持っているのかもしれません。
次回、闇鍋実食!
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