43.四月と言ったら、桜です!
「4月も終わりね!」
青春同好会リーダーがそんなことを言い出す。
今は4月30日。
日を跨げば5月が始まる。
だから、どうしたんだ?
「青春同好会として、やり残していることがあるわ!」
今日も今日とて。
食堂の端っこに集まる青春同好会。
「そういえば闇鍋は?」
「麻雀大会の賞品ですね~」
「引き分けだから、無効じゃ……」
「食べなさいよ、馬鹿」
土浦。
言いやがったな。
「土浦と一緒に食べるんだったら、引き受けます」
「ちょ、どうしてそうなんのよ!」
土浦の野郎。
俺のことを馬鹿と言いやがったからな。
先輩三人の後ろで隠れてばかりじゃ、ダメなんだぜ。
「で、何するんですか?」
「花見よ!!!」
バシン!
テーブルを叩く。
「桜散ってますよね?」
「散ってる」
「散ってますね~」
すでに四月も終わり。
桜なんてあるはずもなかった。
「するったらするのよ!」
「何を言ってるんですか、うちのリーダーは」
「伊久留、しっかりしなさい!」
「リーダーの無茶振りは、今に始まったことじゃないのは分かるでしょ?」
「それはそうですけど」
桜とか花見に最適な場所がないのに。
どうやって花見をするというのだろう。
「昨日、久しぶりに絵本を見たの!」
え、絵本?
唐突の、絵本?
「陽碧学園の図書館に絵本があるのよ!」
「そうなんですか?」
「陽碧学園の図書館は、結構いろんなものが揃ってる。私もよく使う」
「へー。水無瀬先輩は、何読むんですか?」
「勉強とか、作戦とかに役立つもの」
凄い参謀っぽいことしてる。
「……例えば?」
「歴史とか心理学とか、とりあえず色々」
本当に参謀っぽいことしてる。
火之浦先輩のために、か。
「新樹先輩も読むんですか?」
「私は借りるよりも、自分で買う方が多いですね~。読みたい本は図書館に置いてないんです」
「陽乃女はよくファッション雑誌読んでる」
「流石に学校にはありませんから~」
確かに。
ファッション雑誌は、学校においてないだろうな。
勉学に関係ないし。
「土浦は……」
端の席でスマホを弄り続けている土浦。
「ないな」
「ないってなによ! 私だって本を読むんだから!!!」
「漫画とかだろ?」
「ち、違うもん!」
絶対そう。
「リーダーは、絵本とか結構好き」
「え、そうなんですか?」
「前、絵本で泣いてた」
マジでこの人、高校二年生で絵本読むのか。
しかも、泣くの?
情緒が豊かすぎるな、リーダー。
「伊久留、今度絵本を沢山プレゼントするわ!」
「え?」
「とにかく!」
バン、とテーブルを叩いて無理矢理話題を元に戻した。
「私は、花見がしたいの! やるわよ!」
「でもどうするの? 私でも陽之女でも、桜を咲かせることはできない」
「わ、私もできない!」
ちなみに、俺も無理。
「土浦は無理だろ」
「あ、あんたいちいちうるさいわね!!!」
「作戦、考えているんでしょ?」
「そうよ! それを絵本を読んで思いついたの!」
と、火之浦先輩は鞄から一冊の絵本を取り出した。
桜の絵本、か。
火之浦先輩の話から、予想はできていた。
桜の花を咲かせる物語と言えばあれしかないだろう。
「花咲か爺さんよ!」
「ですよね」
やっぱり、花咲か爺さんでした。
「灰を撒いても、現実では桜は咲かない」
水無瀬先輩の鋭いツッコミ。
「それぐらい知ってるわ!」
「じゃあ、無理。今回ばかりは不可能」
「ふふふ。今回ばかりは、参謀もお手上げということね」
青春同好会リーダー。
自信満々な表情。
「――――!」
火之浦先輩がちらちら、こちらを見てくる。
何かを言いたげな感じだが。
新樹先輩はそんな火之浦先輩を見ながら、楽しそうに笑っていた。
水無瀬先輩は、そのまま口を閉じたまま。
土浦は、目が点になっていた。
はあ。
今回は、俺が火之浦先輩の言葉を引き出してあげよう
「ええ、そんなふかのうなことをせいこうさせるさくせんがあるんですかー」
「ふふ、ふふふふ! そうよ、聞きなさい!!!」
むふふ、と勝ち誇った表情で胸を張る火之浦先輩。
可愛いな、このリーダー。
「花咲か爺さん作戦よ!」
作戦名も可愛かった。
「枯れ木に花を咲かせるの!」
「どうやって?」
「これでね!」
鞄の中から取り出してきたのは、大量の紙。
紙の色は、全てピンクだった。
ピンクだから、これは桜の花ということだろう。
まあ、確かに、それっぽいことはできるだろうけど。
それはあまりに面倒くさくないか?
「これで、桜を作るの!」
枯れ木に花を咲かせましょう。
人力で。
紙を張り付けて、人工桜を作るのだ。
「え、これ本当にするんですか?」
メンバー全員に顔を向ける。
こんな途方もない作戦を実行する気なのか?
「リーダーがするっていうなら、するしかない」
「これは、ちょっと嫌かも、ですけど~」
リーダーがいうなら。
二人はそんな感じだった。
「お姉ちゃん、頑張ろう!!!」
土浦はまあ、いつも通り。
「枯れ木なんて、ないですよね?」
「絶対ない。冬に近づかないと」
「葉っぱを全部取ったら、どうなるんですかね~」
「風紀委員案件」
「となると、やっぱり無理では?」
「美琴ちゃんはできると思ってるみたいですけど~」
「リーダーは、ちょこちょこ爪が甘い。でも絶対諦めない。だから、どうにかしないといけない」
「最悪じゃないですか」
俺と水無瀬先輩と新樹先輩。
この三人で、火之浦先輩が考えてきた案をどうしようか作戦会議。
その横で、煽てる土浦と煽てられる火之浦先輩。
支える側も楽しいばかりではないのだと。
俺は今日また一つ学んだ。
やはり春と言ったら、桜。
体育祭前には一度ぐらい、桜関連の話をしておかないとですよね。
と、火之浦先輩が言ってました。
二話ぐらいは、桜エピソード続きます!
ぜひブクマで、次話投稿をお待ちください!




