42.小夜鳴るるの楽しみ
紫組全体の指揮を執るのが私、小夜鳴るるの役割。
「さて、と」
会議が終わる。
自分の役割から解放された。
ちょっと軽い足取りで教室を後にする。
今向かっているのは生徒会室。
保険委員長として働く私。
だけど、仕事はそこまで多くない。
だから、こうして生徒会室に遊びに行く。
「ふふ」
笑いが自然に零れる。
今日は少し良いものが録音できた。
それを初衣ちゃんに渡そうと考えていた。
その初衣ちゃんの反応を想像して、つい笑ってしまった。
「遊びに来たわよ~」
生徒会室に入る。
すぐに目に入ったのは、初衣ちゃん。
「俺ちゃん、生徒会長さんはどうしてあんなに疲れてるの?」
淡々と仕事をこなしている掩ちゃんに質問をする。
「私は分かりません。生徒会室に帰ってきてからあんな感じなんです」
「葉揺ちゃんと響真君も?」
「知らなーい」
響真君も、口にはせずに顔をブンブン横に振っていた。
はてさて。
確か初衣ちゃんも体育祭の会議に参加したんだっけ?
「初衣ちゃん。ほら、生徒会長の仕事しないと」
と、肩を揺らしてみる。
でも、初衣ちゃんは微動だにしない。
「会議、何かあったの?」
思い当たることを聞いてみた。
「聞いてよ、るる!!!」
机に突っ伏していた初衣ちゃん。
勢いよく、こちらに疲れ顔を見せくる。
「あのね、水無瀬さんがね! あの青春同好会の水無瀬さんがね!!!」
「……あー」
予想がついた。
きっと初衣ちゃんは、会議に意見を持っていったんだろう。
それを、水無瀬産が尽くダメ出し。
すべての作戦が却下されたんだろう。
初衣ちゃんの声から出た不平不満。
結果、私の予想と全く同じだった。
「はあ、全く……」
後ろの俺ちゃんからため息が漏れたのが聞こえる。
生徒会長を支える後ろの三人はよくやっていると思う。
つい最近までは、もう少し頼りがいのある生徒会長だったんだけどね。
「あ、そうそう」
初衣ちゃんの変化は、きっと「あの子のせいだろう。
だからあれを渡せば、機嫌を直してくれると思う。
どうせ渡すつもりだったし、ちょうどよかった。
スマホを操作して、初衣ちゃんの連絡先にデータを送信。
初衣ちゃんのスマホの通知が鳴る。
初衣ちゃんはスマホの方に視線を移した。
「俺ちゃん。私暇だから忙しいなら言って。手伝うから」
「いつもありがとうございます、小夜鳴さん」
「そろそろタメ口でもいいと思うんだけどな~」
「いえ。尊敬できる方々への敬意です」
「硬いわね~」
同級生の俺ちゃん。
だけど、敬語口調は治してくれない。
「あ、るるちゃーん! お菓子持ってなーい?」
いつも通り、葉揺ちゃんがお菓子をねだる。
「保健委員室に行けば、あるかも」
「じゃ、一緒にいこ!」
「いいわよ。響真君は?」
「……大丈夫」
「そ。じゃ、行こうか」
「わーい!」
葉揺ちゃんと一緒に保健委員室へ。
俺ちゃんに了承を得て、生徒会室を後にする。
「い、いいいい、いっ君が私のことを、た、たたたた頼れるお姉ちゃんだっていってくれたあああ!!」
私が送ったプレゼント。
どうやら疲れが吹き飛んだみたい。
「愛してるって言ってくれてるううう!!」
そんなことを言わせた覚えもない。
私が送ったデータにもそんな声はなかったと思うけど。
でも、いいか。
騒がしくなるのはあの子周りだし。
初衣ちゃんの可愛い反応を見れたから。
私はしーらない、と。
珍しく、小夜鳴先輩回になりました。
小石を投げて、荒波を引き起こす。
そんな小夜鳴先輩視点の物語も面白いかもしれません。
いつか、全登場人物の視点で描いた話も書きたいです。
そんな話が気になる方は、ブクマをよろしくお願いします。




