38.体育祭に向けての作戦会議です! ①
陽碧学園の食堂は立派なものだった。
イメージは、ショッピングモールのフードコートだ。
料理を出す場所が数か所。
それぞれに和食・洋食・中華など多種多様なメニュー。
購買も併設。
ちょっとした小腹を満たすおにぎりやパン。
色々なものがこの食堂という場所に集まっている。
もちろん、食堂にはご飯を食べるスペースが存在する。
特に制限もないため、お昼ご飯の時間以外も人で賑わっていたりする。
お昼休みは席の取り合い。
取り合いと言っても、譲り合いの精神は忘れない。
陽碧学園の生徒達は平和的に食堂での日々を過ごしている。
「今日もいつもの場所が空いているわ!」
だが、人間には防衛本能というものが存在する。
熱いものには手を出さない。
刃物を自分に向けたりしない。
それが危険なことだと分かっているから。
それを回避しようとする行動を無意識のうちにしてしまう。
では、危なそうな人が目の前にいたら?
それはもちろん。
その人を避けるように立ち回るだろう。
「悪名は役に立つことばかりだね」
「気にしなければ、なんら問題ないですね~」
ならば、生徒達で密集したこの食堂という場所。
そこで、そんな状況にあったらどうなるか?
「うぅ、周りの視線が痛い……」
「土浦って、幼馴染なのに全然毛色が違うよな」
食堂、飲食スペースの隅。
人がごった返している中で、そこだけ何故かスペースが開いている。
その隅に座るのは、五人の生徒。
男一人に、女四人。
近くに座る生徒達はご飯を食べてはいるものの。
チラチラとそのグループに目を向けている。
「さあ、作戦会議よ!」
彼彼女らは、青春同好会。
陽碧学園に悪名轟かせる軍団。
「本当に青春同好会って、嫌われてるんですね」
周囲の状況を見てそんなことを言う。
前一人で食堂に来たときは、人が多すぎて席にすら座れなかった。
なのに、俺達青春同好会の周りのテーブルには誰もいない。
危険物には手を出してはならない、
そんな当たり前のことを皆が徹底しているだけ。
結果そうなるわけだが。
「嫌われているというか、巻き込まれるのが怖いだけ」
「面白そうな鬼、どうして近づいてこないんですかね~」
「喧しい人達がいない方が、お姉ちゃん達の声が聴けるからいいけど」
土浦は少しビビっているけど。
先輩二人はあまり気にしてなさそうだ。
「それで、集まった理由は」
「体育祭のことが告知されたからね!」
どやっと、自分のタブレットを火之浦先輩が見せてくる。
『体育祭開催のお知らせ』
と、大きな見出しで掲示板が更新されていた。
「去年は障害物マラソン大会」
「今年は」
自分のタブレットで確認。
今年の体育祭は、十個のスポーツで勝敗をつける。
野球。
サッカー。
バスケ。
バレー。
テニス。
バドミントン。
卓球。
マラソンリレー。
水泳。
そして、宝探し。
宝探し?
「なんすか、この宝探しって」
スポーツとは?
「全員が参加できるような配慮だと思う」
「そのための対策なんでしょうね~」
「去年は凍里が、ずっっと文句言ってたわね!」
「……言ってない」
運動が不得意な水無瀬先輩にとって。
この体育祭というのは面倒くさい行事なんだろうな。
各スポーツの具体的な内容については、また後日ということらしい。
「でも、体育祭と青春同好会の活動何か関係でも?」
「大ありよ、伊久留!」
バシンと、両頬を火之浦先輩に叩かれた。
「体育祭はね、広報委員会によって生中継されるの!」
「しかも、後日は編集されたダイジェスト版も公開される」
「青春同好会の宣伝にはばっちり~」
「だから、ここで目立っちゃおうというわけ!」
三人の息の合ったコンビネーション。
なるほど。
よくわかった。
「体育祭で名前が売れれば、同時に青春同好会も売れることになる」
「そうよ! さっすが、伊久留。物分かりがいいわね!」
「有名になったらどうなるんですか?」
「有名になったら、もっと楽しいことができるじゃない!」
とのことだ。
流石青春同好会、流石火之浦先輩。
具体的な案はないようで、漠然と楽しいことができると言い張っている。
漠然とし過ぎて、理由になっていないように思えるが。
先輩達の手にかかれば、どんな状況だって楽しくしてみせるのだろう。
「でも、俺達組は別々ですよね」
「そう!」
俺と火之浦先輩が、紫。
新樹先輩と土浦が、黄。
水無瀬先輩は、青。
五人のメンバーは、三つの組へと分けられた。
例えば、火之浦先輩がテニスで優勝すれば、同時に名も売れる。
この体育祭で、青春同好会としてどう立ち回るべきか。
「そこをどうするのかの作戦会議よ!」
「体育祭の、その、広報委員の生中継ってどういうのを映すんですか?」
「盛り上がっているところだよ」
「優勝者とか、そういう特に目立っていた人にインタビューとかしてましたね~」
「私は去年されたわよ!」
火之浦先輩が?
「カメラの前ではしゃいでいたから、インタビューを受けただけ」
「面白半分ですね~」
「すぐに中断した」
「私、動画保存したよ!」
そういう目立ち方?
「近寄ったら色々と不味いことは、広報委員全員周知の事実ですからね~」
「今年は難しいだろうね」
確かに去年の体育祭時点ではなかったと聞く。
だから火之浦先輩はインタビューを受けることができた。
一応、普通の一般生徒だったんだし。
だが、今年は?
絶対無理。
歩く爆弾に近づく人なんて誰もいない。
この食堂と同じ状況だ。
「だから、やるなら他の手段ね!」
そんなことで、青春同好会は止まらない。
他の手段を考えるまで、だ。
食堂は青春同好会が集まる時に多く使います。
青春同好会も、僕も。
体育祭編、本格的に始まります!
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