36.火之浦先輩 VS 初衣ねえ ver.テニス ①
「テニスよ!!!」
テニスコートにやってきました。
ラケットを持った火之浦先輩と初衣ねえ。
俺は審判席に座っている。
「どうして、俺が審判なんですか!」
コートに立つ二人に聞こえるような声で問いかける。
「「 二人の勝負だから! 」」
妙に息が合いますね。
というか、そもそも俺も運動する予定だったのに。
これじゃまるで意味がないじゃない。
「行くわよ、火之浦美琴!」
「負けないわ!」
公正なじゃんけんの結果。
サーブ権は初衣ねえ。
軽快にボールをバウンドさせる。
初衣ねえの表情は真剣そのものだ。
「いくよ!」
綺麗に上げられたボール。
そして、綺麗な軌道を描くラケットが重なる。
初衣ねえから放たれた勝負最初の一撃。
一度火之浦先輩の目の前をバウンドしてそのまま奥のフェンスまで到達。
火之浦先輩は反応すらできなかった。
構えを取ったまま、ジッと初衣ねえを見ている。
「やるわね!」
満面の笑みで相手を称える。
ポイントを取られたというのに、心底楽しそうな表情。
余裕を感じる。
15ー0。
初衣ねえの先取点から勝負は始まる。
「はあ!」
もう一撃。
身体が温まったのか、速度も威力も上がっていた。
パンと気持ちいいサーブ音が聞こえた直後。
これまた同じようにパンと気持ちいい音が鳴る。
強くなった初衣ねえのサーブ。
それを、火之浦先輩は軽々と打ち返した。
しかも、初衣ねえがいる場所から遠く離れた場所へと。
さっきのは打てなかったのではなく、打たなかったのか。
そう思わせるぐらいに、簡単に打ち返して見せた。
だが、初衣ねえも負けてない。
すぐにボールが向かう先へと走り出した。
「なめないでッ!」
ギリギリ。
初衣ねえが振ったラケットがボールを捕らえた。
しかし、弾かれたボールは山なりに飛んでいく。
着地地点は火之浦先輩の目の前だ。
「終わり!」
鋭い球筋が、再び初衣ねえとは逆の場所へと叩き込まれる。
15ー15。
同点。
「なに、力隠してたの?」
「最初は様子見。強者の余裕ってやつね!」
「へー、そうなんだ。じゃあ、本気出してもいいみたいだね」
サーブ権が変わるため、ボールを渡す必要がある。
その時に、一言二言の会話が交わされた。
お互い笑顔。
が、初衣ねえはなんだかムキになっていた。
対して、火之浦先輩は未だ余裕を感じる。
ここからもっと戦いは激しくなるんだろう。
審判台から見下ろしながら思う。
サーブ権は火之浦先輩へ。
初衣ねえと同じぐらいの速度のサーブを打ち付けた。
初衣ねえも負けじと打ち返す。
やはり方向は火之浦先輩とは逆サイド。
それも火之浦先輩は一足早くにたどり着く。
態勢ばっちりでボールを返した。
「本気を、見せてあげるッ!」
だが、初衣ねえは負けていない。
初衣ねえが狙った先は、サイドラインの上。
自分とは逆サイドへ打つボールよりもさらに遠くなる。
いくら火之浦先輩が態勢を整えていたとしても。
そこまで辿り着くのは難しかった。
30ー15。
「やるわね!」
「どんなもんよ!」
もう一度、火之浦先輩のサーブ。
特に焦っている様子もない。
点を取られれば取り返せばいい。
そんな気概が、サーブ前の火之浦先輩の表情から感じられる。
火之浦先輩から放たれた力強いサーブ。
今度は相手の目の前に同じ速さで叩き返した。
相手の技量は知れたのだから、次はラリーで勝負をしましょう。
これは初衣ねえからの挑戦状だった。
「いいわ!」
その挑戦状を、火之浦先輩はラリーに応じる。
ボールの速度が徐々に上がる。
微妙に角度を変えながらも全てが相手の目の前に放たれる強打。
お互いタイミングばっちりの返しが続く。
十回ラリーが続いたが、どちらも折れる様子はなし。
そう、折れることはなかった。
目の前の打ち合いを諦めることはしない。
だが、このラリーに飽き始めた気分屋が一人。
「やっぱ、なし!」
と、お互いの前に向けて放たれ続けていたボール。
火之浦先輩が軌道を大きく変えた。
「に、逃げてるじゃん!!」
初衣ねえの驚きの声が聞こえた。
初衣ねえの挑戦状。
ただ飽きたという理由で、破棄されてしまった。
テニスの話、書いていてちょっと面白かったです。
またやるかも。
次回、ちゃんと決着つきます!
ブクマ、ぜひよろしくお願いします!




