34.再び、部屋に突撃されます!
学生寮、マーズ。
自室。
とりあえず復習をやり始めてみた。
なんかその気にならなくて漫画を読み始めた。
――ピンポーン。
チャイムが鳴る。
オートロックの方じゃない。
俺の部屋の前にあるインターホンの音。
「はあ」
んー、前もあったぞこの展開。
思わず、ため息。
これはこのまま居留守を貫くのがいいんじゃないか?
いや、もしかしたら別客かもしれない。
一応、確認はするべきだろう。
「いーくーるー!!!」
案の定だ。
そっとインターホンの電源を切る。
そして、また漫画を読みに戻った。
前もそうなんだけど。
なんであの人は陽碧学園のオートロックを難なく突破してくるんだろうか。
なんてことを考えていると、またチャイムが鳴った。
しかも次はドアドンドンもされた。
ちょっとだけドアの奥から火之浦先輩の声が聞こえる気がする。
これはまた騒ぎになる。
火之浦先輩ならきっと俺が反応するまで粘るだろうし。
仕方ない。
学生寮の平和のためにしっかり対応するとしますか。
「はい」
「行くわよ!」
「いやどこにですか」
何も連絡してないくせに。
そんなノリで来られても困りますって。
「伊久留、暇でしょ!」
「いえ、全然暇じゃないですよ」
漫画読みたいし。
「体育祭も近いし、運動しましょ!」
「ええ……?」
「体力つけると、色々と便利よ!」
俺のこともお構いなしに。
インターホン越しに元気な声で元気な提案をしてくる先輩。
俺は気付く。
これはきっと逃げることはできないのだろう、と。
「……準備するんで、待っててください」
「流石ね、伊久留!」
インターホンの通話を切る。
とりあえず動きやすい服装に着替える。
そして、足早に玄関を出る。
満面の笑みの火之浦先輩がいた。
普通のジャージを着ている。
なんか、意外だな。
「どうかした?」
「いや、よく見るジャージだなって」
「そこまでこだわりがないから!」
これまた意外。
火之浦先輩は形から入るタイプではないらしい。
火之浦先輩の新たな一面を知れたところで、
「で、どうしてオートロックを突破できたんですか?」
「あれ、前言わなかった?」
「はぐらかされた気がします」
「そうだったかしら? でも、伊久留が知らないんだから、教えてあげないとね」
ムフフと、どや顔火之浦先輩。
「私も、マーズ所属よ!」
「ああ」
合点がいった。
そりゃ、オートロックは簡単に突破できるわな。
だって、同じ寮なんだから!
とまあ、俺の部屋のインターホンを鳴らせた理由は分かった。
が、ここでまた別の疑問。
「あれ、俺の部屋番号教えましたっけ?」
「……うーん」
「……?」
「教えたわ!」
「今の間はなんなんですか!」
「さあ、外へ行くわよ!」
俺の疑問の答えを火之浦先輩は語らない。
俺の手を握り、無理矢理外へと引っ張っていく。
火之浦先輩に部屋番号バレていることはどうでもいいけれど。
その手段はできればあまり使わないでほしいと思う。
多分勝手に俺のタブレットを見たんだろうな。
はあ。
俺と先輩はエレベーターに乗る。
「先輩たちは運動得意なんですか?」
「私と陽之女は得意ね。それぞれ得意分野は違うけど。凍里と萌揺は不得意。二人ともインドアだから、体力がないの。萌揺に関しては運動神経は悪くない。凍里は、運動系全般不得意っぽいわ」
「じゃあ、スポーツで戦ったら水無瀬先輩か土浦が負けるんですかね?」
「そうでもないわ! 凍里は運動できないけど、なんでか負けないのよね。よく負けるのはやっぱり萌揺ね! スポーツ不得意でかつ真面目だからね」
「真面目、ですか?」
「真面目よ、萌揺はね! からかいがあるもの!」
なるほど。
真面目というか、純粋というやつなのだろうか。
からかいがあるというのは、そういうこと。
何でもかんでも素直に反応する。
それが、他三人にとっては面白いネタになるのだろう。
青春同好会筆頭火之浦先輩は面白いこと好き。
新樹先輩も火之浦先輩と似たような感性を持っている。
一見違うように思える水無瀬先輩なのだが。
火之浦先輩に付いていっているのだから同じだ。
エレベーターは一階へ。
俺と先輩はエントランスから外へと出る。
そしてまた、俺の前に問題児が一人。
「どうして、また、火之浦美琴が、一緒に、いるの!!!」
初衣ねえだった。
陽碧学園生徒会長さん。
こちらを指さしながらワナワナと震えている。
ああ。
とりあえず。
俺にため息を吐く暇をください。
火之浦美琴と鐘撞初衣。
物語のメインヒロインはやはり、主人公の壁となるのか。
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