23.いざ、生徒会室です!
で、だ。
晴れて、御形伊久留は青春同好会のメンバーに。
正直、まだ思うところはあるけど。
青春同好会と関わったたった一日。
それを楽しいと思えてしまったから。
俺は、青春同好会の連中と肩を並べて歩いていた。
水無瀬先輩曰く。
同好会の活動のほとんどは火之浦先輩の意見が通るらしい。
水無瀬先輩も新樹先輩も自分から意見を通すタイプではない。
青春同好会内で雑多に意見を出す。
そして、火之浦先輩が選んだものが活動となる。
ここから分かる通り。
青春同好会は火之浦先輩を中心としたグループだ。
だがそれも、火之浦先輩に遠慮しているわけでもない。
水無瀬先輩も新樹先輩も。
火之浦先輩と一緒にやればなんでも楽しい。
という信頼があるからであった。
ファミレスを出て向かった先は、陽碧学園。
我ら青春同好会本日の目的、それは、
「そういえば、耳寄りな情報がある」
なんて、話を切り出したのは水無瀬先輩だった。
「クラスの料理同好会が、今日お菓子を作るんだって」
「どんなの?」
「『どのお菓子屋さんにも負けない、最高のお菓子を作るの!』とか騒いでた」
「なにそれ気になるわ!」
「作る数も少なくするんだって」
「なるほど~。一つのお菓子に、本気を込めるんですね~」
「欲しいわ!」
「でも、料理同好会の活動時間、もう過ぎてるんじゃないの?」
土浦は自分のスマホで現在時刻を見せてくる。
時刻は三時半過ぎ。
料理同好会は三時前には活動を必ず終了するらしい。
「じゃあ、無理ね!」
「あれ、でも前も料理同好会って、生徒会に作った料理渡してなかった?」
「そうですね~。あれは確か、クリスマス前日だったと思いますよ~。ホールケーキですね~」
「まだ料理同好会だから、正式な部活にするために頑張ってるんでしょ」
「なら、今回も生徒会にお菓子を渡している可能性があるわね!」
「可能性としてはあると思う」
「じゃあ、行きましょ! 生徒会室!」
「え、やだぁ! 部屋でのんびりしたほうがいいって!」
「萌揺はいつも通り、部屋で情報を送って!」
「しかもまたその役割じゃん! やだやだ、やだやだ!!」
「萌揺が一番そういうの得意なんだから、仕方がない」
「う、嬉しいけどぉ」
「土浦はどういうことが得意なんですか?」
「監視カメラとかハッキングしたり、掲示板から情報を手繰り寄せたり、そういうやつ」
「いや、それ凄いですね……」
「あ、あんたに褒められてもうれしくないんですけど!!!」
「今日は生徒会室に突入して、料理同好会のめちゃくちゃ美味しいお菓子をゲットするわ!」
「本当にあるかどうかわからないよ?」
「なかったらなかったで、それはそれで楽しいわ!」
「そ」
というわけで、只今青春同好会。
生徒会室侵入に向けて行動している。
新樹先輩と土浦は、土浦の準備のために別行動をとっている。
一応学園指定のタブレットでもできないことはないらしい。
でも、自分の特製パソコンじゃないとやる気が出ないらしい。
新樹先輩の全力自転車の後ろに乗せられて。
自分の寮へと連れ去られていった。
「さて、どう忍び込むのか考えましょう!」
「萌揺の情報収集を待った方がいいんじゃない?」
「む、それもそうね!」
「もしかして前みたいに、生徒会室のベランダから下に降りるんじゃ……」
「あれは今日は無理ね!」
「事前準備大事だから。やるなら一週間前から準備始めないと」
「簡単にやってそうに見えましたけど」
「安全確認とか怠るとケガする。最悪死ぬ」
「師匠がそう言っていたわね!!」
誰だよ、その師匠。
「あの作戦をするための特別講師よ! どんな人だったとか、そういう個人情報は秘密!」
「怪しさ百点満点」
「大丈夫。ちゃんとした人」
「青春同好会は清廉潔白なのよ!」
清廉潔白なら、生徒会に迷惑かけたりしないんだけどな。
ツッコむのもめんどくせえ。
「じゃあ、今回はどうやって侵入するんですか?」
「どうするの、凍里!」
「やっぱりリーダーは何も考えてないんですね」
「私はいいの! 凍里の作戦のほうがいいに決まってるわ!」
いつもの大声で。
当たり前だろと言わんばかりに水無瀬先輩の肩を叩く。
ただ放り投げているようにも思えるのだが。
隣の水無瀬先輩はちょっと嬉しそうにも見える。
そんな信頼を丸投げされた水無瀬先輩。
一分ぐらい思考を巡らせた後に、作戦内容を話し出す。
「生徒会を外に誘き寄せて、マスターキーで侵入しよう」
「嫌よ!」
信頼を丸投げしたくせに。
水無瀬先輩の作戦にストップがかかった。
「リーダー、それはどうして?」
なんかちょっと不服そうな水無瀬先輩。
「マスターキーはちょっとチートアイテムじゃない?」
「んん、それはそうとは思う」
「じゃあ、マスターキーは最終手段でしょ!」
「でも、マスターキーが一番手っ取り早い」
「他に作戦はないの?」
「色々と考えてはいるけど」
「じゃあ、その一つを試してみればいいじゃない」
「準備が必要。当日にやる作戦なんて難しい。というか、無理。それほど生徒会室侵入は難しい」
水無瀬先輩はどうやらそこは譲れないらしい。
「それは、どうしてですか?」
「基本的に生徒会には誰かがいる。生徒会全員がいなくなるなんて、学校行事以外ほとんどない」
「前は窓から侵入してましたよね? 窓の鍵を外側から開けるのって、難しくないですか?」
「一部分をちょっと破壊したわね!」
「もう犯罪だぞ、それ!」
「師匠のおかげね!」
もうその師匠、とんでもなくやばいやつじゃん!
「そんな難攻不落の生徒会室を当日に攻略するのが難易度が高い。前もちょっと失敗したし、今回は手堅く済ませた方がいい」
そういえば、結局生徒会メンバーと鉢合わせしたんだっけか。
ふと今日生徒会室で起こった出来事を思い出した。
「今日は確か体育祭の会議があるって言ってましたね」
「御形、生徒会室にいたの?」
「ええ。放送で呼び出されたの知りませんでした?」
「今日は授業終わったら、速攻家に帰ったから聞いてないね」
「ええ! 伊久留、放送デビューしたの! 私より速いじゃない、流石ね!!」
放送デビュー。
自分の名前を全校放送で流されることらしい。
「ちなみに、火之浦先輩のデビューは?」
「青春同好会を作ってすぐの作戦で失敗してね! 生徒会から呼び出し貰ったわ!」
「とりあえずやってみよう、が大惨事になったあの日のことか」
「気になりますね」
「時間がある時、リーダーに聞いてみるといいよ」
「なんなら、今から話してもいいわよ!」
「それはやめて」
正直生徒会室侵入作戦なんかよりも、その事件のほうが気になるな。
「鍵開けはマスターキーを使うとして、どうやって生徒会達を呼び出すか」
「前生徒会室に侵入したときは?」
「萌揺が広報委員会を装って、生徒会を呼び出した」
「どうやって装ったんだ?」
「萌揺が生徒会と関わりのある組織のSNSアカウントを持ってる。それを使って、生徒会を誘い出す。『今から会議をしたい』とか『大事な話がある』みたいな感じで」
「あいつ、凄いことできるんですね」
「萌揺はなんだかんだ言って凄いのよ!」
「今回も同じ作戦でいいんじゃないですか?」
「でも、これ結構使う戦法だからそろそろ対策されると思う」
「楽そうですしね」
適当に嘘ついて誘き出して、何でも開けれるマスターキーで潜入。
とても簡単なやり口だと思う。
「そろそろ、萌揺から連絡が来るとは思うけど」
青春同好会同士のやりとりは書いていてとても楽しいです。
いい塩梅で役割が分かれているのがいいですね。
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