17.不法侵入、陽碧学園@屋上!
「もう! 全然できないわ!」
火之浦先輩が怒りが込めた叫び声をあげる。
屋上に入るための扉。
火之浦先輩が、屋上への鍵を開けようと四苦八苦している。
俺は疲れて階段に座り込んでいる。
ついでに、誰かこないか監視役を任されていた。
さっきの先輩の声で誰か来そうなものだけど。
そこは運がいいのか誰もやってこない。
「んー。ちょっと難しい!」
「道具を見ても、どうすればいいのか全く分からんですね」
「やり方覚えれば、簡単よ!」
屋上への扉の鍵は、職員室で厳重に管理されている。
職員室に忍び込むことも考えた。
が、火之浦先輩の秘伝・鍵開け術で突破することが決まる。
水無瀬先輩に教わったらしい。
ただの高校生が持っていい技術ではないんだよな、これが。
「諦めるのは?」
「言語道断よ!」
「そーですか」
「あと四種類ぐらい開け方があるから、待ってなさい!」
結構長い間鍵開けしていた気もする。
何度も「これは失敗ね!」と言っていた気もする。
が、まだ四つも方法があるのね。
水無瀬先輩、どんだけ鍵開けのやり方を知ってるんだよ。
怖いよ。
「新樹先輩だったら、蹴とばしてますねこれ」
「……今から筋トレすればいける?」
「あれはもう才能の類ですよ」
多分肉体を構成する遺伝子が俺達とは違う。
「やっぱり帰りましょうよ」
「いやよ! 屋上に出るまで帰らないわよ!」
「ええ……」
「……確実な方法が一つあるわ」
「じゃあ、それでいいじゃないですか」
早く帰ろうぜ。
「でも、私は嫌だもの」
「ん?」
「それを使ってしまったら、負けのように思えるの」
「意味が分からんのですが」
「……これよ」
火之浦先輩はポケットから鍵を取り出した。
「屋上の鍵ですか?」
「それもそうだし、なんなら他の部屋もこれで全部開くの」
マスターキーじゃん!?
「な、なんでそんなもの持ってるんですか!?」
「前の生徒会と奉仕活動に取り組むことになってね。その時の生徒会長が使ったときにちょっとだけ型を取って何度も試しながら作ったの!」
「そ、それ使いましょうよ!」
「い、嫌よ! これを使ったら、負けなんだから!」
「いいんですよ、汗と涙の結晶なんか求めてないんですから!
夜遅くなると、ここから脱出するのも難しいんですよ!
絶対反省室なんて確証もないでしょうよ! 退学かも」
「むうう」
「俺まだ学生生活楽しみたいんですけど、リーダー!?」
「……し、仕方ないわね!!」
火之浦先輩は堪忍する。
マスターキーを屋上の鍵穴に差し込んで扉を開いたのだった。
「流石ですよ、リーダー!」
「い、伊久留のリーダーって言葉に惑わされてしまった……」
二人で屋上に出て、音を立てないように扉を閉めた。
瞬間、風が身体をすり抜けていく。
気持ちいい風だった。
春の心地を感じられる風。
少し落ち込んでいた先輩の表情。
屋上に出た途端にいつも通りの表情へと戻っていた。
「気持ちいいわね!」
「そ、そんな大声だとバレますって!」
いつも通りの大声で、先輩は大きく背伸びをした。
「気持ちいいわね、伊久留!」
「ええ、そうですね」
「ほら、海の奥が見えるわ! 夜の海も綺麗でしょ!」
「そ、そうですねー」
俺の手を突然握って、海が見える屋上のフェンスまで連れていかれる。
嬉しそうに海の先を指差す先輩。
心底楽しそうな先輩の表情。
それに心惹かれてしまう。
「伊久留、笑ったわね!」
「……そうですね」
思わず、笑ってしまった。
「楽しそうで、何よりよ! 青春、してるじゃない!」
「そうなんですかね」
「そうよ! だって、笑ったじゃない!」
「それは、火之浦先輩がここまで連れてきてくれたからじゃないですか」
「それは違うわ」
「え?」
「私がここに連れてきたのは確かだけど、ここに来ようと思ったのは伊久留の意思でしょ?」
「……そうですか?」
なんか断れない雰囲気があったと思うんだけど。
「そうよ。きっとそうよ!」
そんなことはお構いなしに、先輩は強く肯定してくるのだった。
適当なのか。
いや、多分心の底からそう思ってるんだろうな。
一日しかまだ一緒にいないけど、先輩の人となりが少しずつ分かってきた。
水無瀬先輩や新樹先輩が、彼女をリーダーとして慕うのも分かる。
なるほど、これがカリスマ性ってやつか。
「これが、青春なんですか?」
「楽しいと思えることをしたんだったら、それはきっと私達の『青春』ね!」
「……なるほど」
「でも、もう屋上にはいかないわ!」
「それは、どうしてですか?」
「だって、二回行くのはおもしろくないもの!」
「それは……」
「同じ観光地を何度も行くのなんて、楽しくないじゃない?」
「……じゃあ、もっと楽しくなればいいんですよね?」
「え?」
「今度は休日の深夜に、忍び込むなんてどうですか?」
俺の提案に、先輩はいつもの笑顔で、
「いいじゃない! 今度やってみましょう!」
深夜の学園に忍び込む。
きっと初衣ねえがカンカンに怒るだろうな。
でも、ちょっと楽しいと思ってしまったから。
一応提案はしておこうと思う。
「流石、伊久留ね! 才能があるわ!」
「なんの才能ですか?」
「青春を謳歌する才能よ!」
「意味が分からないです」
「じゃあ、今度は青春同好会全員で潜入ね!」
「……とりあえず海に飛び込むのは無しにしましょうね」
「どうして? 楽しいじゃない?」
「服が濡れるのが嫌なんです」
あの肌にベチャッと引っ付く感覚が嫌すぎた。
と、潜入するときの感覚を思い出す。
頭の中で疑問が浮かぶ。
「帰り、どうするんですか?」
行きは海に飛び込んでも、海岸が近かったから安全に潜入できた。
でも、帰りは?
陽碧学園の島から陽碧市内まで、到底泳げる距離でもない。
許可をもらってないのだから、正門を通ることすらできないし。
「ああ、それね。心配いらないわ」
「へ?」
「迎えを頼むのよ」
高校では色々あって、屋上に行く機会が多かったです。
今後も屋上とか、青春っぽいシーンを沢山いれたいですね。
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