16.不法侵入、陽碧学園! ②
結局、無理やり手を引き剥がした。
火之浦先輩は結構抵抗したが、俺の方が力が強かった。
恥ずかしかったんだ。
だから、そんなに不機嫌にならないでくれ。
「ふん!」
「はあ」
握られた手が解放される。
先輩は不機嫌そうにずんずん前を歩いていく。
仕方なく俺は先輩に追従する。
奥の方から声が聞こえてくきた。
部活動で学園に残っている人達がいる。
彼らはしっかりと許可を取っている人達。
俺達二人は不法侵入者。
「安心しなさい。捕まっても、反省室行きだから」
「そもそも反省室って何なんですか?」
「……そうね。一緒に青春同好会の活動について色々説明していこうかしら!」
それは、陽碧学園での学生生活についての説明をしてくれるという認識であっていますか?
「陽碧学園は生徒会によって大きく管理されているのよ。それは知っているわよね?」
「ええ、まあ」
初衣ねえの自慢話で少しだけ。
「生徒会が行事とか諸々決めてるんだけど、これはまた今度でいいわね」
「先生たちは特に何も言わないんですか?」
「ええ、基本的には放任主義みたいなものよ! ただ生徒の枠を超えたことに関しては、先生達が介入するわ。犯罪とか!」
「…………」
「青春同好会はそこらへんの境界はしっかりしているから安心して!」
ほんとか?
「週に3,4回は反省室送りね!」
「もうほとんどじゃん! 毎日平和に過ごせよ!」
「なによ、毎日平和で充実してるわ! だってこんなにも楽しいんだもん!」
「そもそもの認識の違いがありましたかッ!」
常識が通用しないぞ、この人!!
「生徒会が全体の指揮を取って、学園内に関しては三つの委員会が具体的な指揮を執ってるわ! まずは何と言っても、風紀委員会ね! 反省室送りの権限があるのがこいつらね!」
「名前からして、て感じですね」
「今の時間の見回りとか、学園内の治安を守るのが主な仕事! 運動神経高い人達が集まっている印象があるわ! 風紀委員長は、何かの全国大会で一番になったって噂があるわね」
ファミレスで出会った人のことだろう。
武見先輩。
新樹先輩もそんなこと言っていた気がする。
「次に広報委員会! タブレットの管理を主に任せられてるわね! たまにラジオとかテレビみたいな番組やってる人たちがいるわ! 面白い人達がたくさんいるわよ!」
「番組とかあるんですか?」
「そうよ! 陽碧学園のイベントの生中継とか、テレビとかネット番組みたいなことをたくさんやるの! すんごく人気なんだから! 学生以外はサブスクで見れるんだけど、その売り上げも凄いのよ!」
「すごい賞賛しますね」
「凄いものは凄いんだから!」
自分に正直な人なんだな、この先輩は。
良い意味でも、悪い意味でも。
「そして保健委員! 学園内の健康を管理してるわ。ほとんどが医療関係の仕事を目指している人達ね。すんごく賢いの、特に委員長! あの凍里でさえ、その人には太刀打ちできないの!」
「どれくらい凄いんですか?」
「確か学年一位だったはずよ。しかも、心理戦も強いのよね。他人を操るのが得意というか。本当にすごいのよ、あの委員長は!」
火之浦先輩が抽象的な言葉でガンガン褒めちぎってくる。
保健委員長の小夜鳴先輩は本当にすごい人のようだ。
「でも、次は凍里が勝つんだけどね」
そんな火之浦先輩の水無瀬先輩への信頼。
それもまた同じように強いようだった。
「この三つの委員会と生徒会で、今の陽碧学園が管理されているの! たまに別組織が生まれたりするけど、期間限定みたいなものね」
「へー」
「私達の活動の妨げになるのは、風紀委員会がほとんどね。あとは生徒会とそれぞれの委員長に気を配るべき。基本捕まっても反省室に入れられるだけだし、そこまで問題はないわ」
「問題あるでしょう」
「どうして? 反省室なんて勉強すればいいだけなのよ?」
反省室に入ることが問題なのでは?
「反省室って何するんですか?」
「その年の生徒会が罰を決めるわ! 去年も勉強関係だったし、毎年反省室では似たようなことやってるんだと思う!」
「どこが問題ない内容なんですか……」
「だって、テストで点数取ればいいのよ?」
「いやそれが難しいんですって」
「ん? なにが?」
え、もしかしてこの人。
「……火之浦先輩、学年でテスト何位ですか?」
「前は四位よ」
「他のメンバーは?」
「凍里が一番ね、陽乃女は三番。次は陽乃女に勝つけどね、凍里には絶対勝てないから二番を目指すわ」
うおい!
秀才が集まってんじゃん、問題児集団に。
「ん、じゃあ、土浦は?」
「萌揺? あの子は、多分伊久留と同程度ね。勉強嫌いなのよ、あの子」
「よく陽碧学園に来れましたね」
「私達がつきっきりで教えたからね!」
俺、土浦と同じ感じなのかよ。
ちょっと腹立つんだけど!
「さて、陽碧学園の話はいったんここまでね」
「ん」
いつの間にか校舎の玄関にたどり着いていた。
生徒がチラホラ、歩いているのが見える。
みんな学園から自分の家へと帰ろうとしている。
他の生徒とは真逆の方へ歩いていく俺達二人。
彼らが俺達を、何しているんだ?みたいな目で見てくる。
ただ、火之浦先輩は何も気にせずドンドン校舎の奥へ。
ここからは校舎で作業をしている教師達にも見つかる可能性が高い。
反省室に入れられるなんて御免だが。
このまま自分一人で寮まで帰るなんて度胸もない。
ただ火之浦先輩の後をついていく。
「で、どこにいくんですか?」
「屋上よ!」
もちろん、生徒が許可なく出入り可能な場所ではない。
やはり先輩の考えることは理解できない。
次回、学園の屋上へ行きますよ!
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