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我々青春同好会は、全力で青春を謳歌することを誓います!  作者: こりおん
我々青春同好会は、全力で新入生を勧誘することを誓います!
13/55

13.自分の部屋に突撃されます!

 自分の寮『マーズ』に帰宅。


「つ、疲れたぁ」


 部屋に入るなり、自然と言葉が漏れた。


 玄関付近に置いてある段ボール。

 処理しなければならない。

 今日やろうと思ってたんだけど。

 まあ、いいか。


 新たな高校生活という青春の門出、入学式。

 突如として意味わからん奴らに拉致。

 そして仲間として引っ張りまわされた。

 挙句に生徒会や委員長達との喧嘩に巻き込まれる。


 今までの学生生活の中で一番濃い一日を過ごせたな。


「おやすみ……」


 新品のベッドに身体を放り投げた。

 もう、寝てしまおう。


 ――ピンポーン


 チャイムが鳴る。


「ああ!?」


 陽碧学園の学生寮には、オートロックが備え付けられている。

 だから、この部屋からなるチャイムが二種類ある。

 オートロック前。

 自分の部屋の前。


 何度か初衣ねえがやってきたりしたからか。

 そのチャイムを見極めるのは簡単だった。


「……今のオートロックの方じゃないな」


 今聞こえてきたのは、部屋の前のインターホン。

 陽碧学園のセキュリティが何故か突破されたということだ。

 

 本来恐怖に震えて警察に電話してしまうところだろう。

 だが、ちょっとだけ犯人に思い当たる節があった。

 

 とりあえず推定容疑者の三人。

 火之浦美琴。

 水無瀬凍里。

 鐘撞初衣。


 いやまあ、初衣ねえならちゃんと連絡してきそうだし。

 青春同好会の二人が濃厚か。


 ――ピンポーン


 また鳴る。

 急かすな急かすな。


 疲れ果てた身体を無理やり起こして、インターホンの場所へと向かった。


「はい?」


 応答ボタンを押す。

 画面に部屋の前にいる待ち人の顔が表示された。


「伊久留、来たわよ」

「いえ、呼んでません」


 火之浦先輩だった。


「開けて!」


 ――ガチャガチャガチャガチャ。


 まるでホラー映画のワンシーンだ。


「ちょっと待ってください! とりあえず質問いいですか?」

「部屋に入ってからすればいいじゃない!」

「オートロックを突破してくるような人を部屋に入れたくはないですよ」

「なによ、簡単なことじゃない」

「陽碧学園への宣戦布告ですよそれは」


 鍵を忘れて締め出されて泣いちゃう人もいるというのに。

 なんでそんな朝飯前みたいな感じで言うかね、この人は。


「同好会に入ったら、理由を教えてあげるわよ!」

「生憎他人の寮に忍び込むなんてことする予定はないので」

「知っておくと便利じゃない!」

「間に合ってます」

「なによ、おもしろいのに」


 オートロックの突破方法にちょっとだけ興味があるのは置いておいて、


「で、どうかされましたか?」


「会いに来たのよ」


「んー?」


「会いに来たのよ!」


「ん、んん?」


「会いに来たのよ!!!」

「それは分かってんですけどね!?」


 俺に会いに来た理由を聞きたいんですが。


「別に、ないわよ」


 と、俺の疑問に何事もなく答える火之浦先輩。


「会いたいから、会いに来たのよ!」


 一瞬、ほんの一瞬胸の鼓動が早くなる。

 そんな笑顔で、そんなこと言われたら。

 ときめいてしまうだろうが!


「ほんとにですか……?」


 だが、ときめいていようと関係ない。

 部屋の前にいるのは、青春同好会のリーダー火之浦美琴。

 何かあるに違いない。


 そうに違いない。


「もう、嘘は言ってないわよ。ほら、さっさと部屋の扉を開けて」

「んー」

「というか、何人かちらちら見てくるから、警察呼ばれちゃうでしょ!」


 確かに。

 火之浦先輩の声が数分ぐらいずっと廊下から聞こえてくる状況。

 誰だって何かしら起こったと思うだろう。

 痴話喧嘩だなんて思われるのも嫌だ。

 何より警察を呼ばれるのはもっといやだ。


 でも、


「やっぱ嫌です」


 青春同好会を、俺の聖地に招き入れるなんて絶対嫌だ。

 死守する。


 騒動になる前に、帰ってもらおう!


「そんなに部屋に入れるのは、嫌なのね」

「まあ」

「そう、それは仕方がないわね」


 ん? 

 思ったより、すんなりと納得してくれるんだな。


「じゃあ、外に出ましょう!」



 **********



 私が中に入れないなら、貴方が外に出ればいいじゃない。


 ナニアントワネットだよ。

 なんてツッコミを入れたくなるほどの論理展開。

 俺は半ば無理やり部屋から出ることとなった。


「見て! 夕焼けが綺麗よ!」


 ピョンピョン跳ねながら、海の奥を指差す火之浦先輩。

 放課後、陽が沈み赤く燃える海岸沿いを歩く俺と先輩。

 先輩はなんだか楽しそうで、こっちも楽しくなってしまう。

 


 はずもない。

 寝てしまう直前に無理やり起こしてしまった身体が悲鳴を上げてきつい。


 少し離れた先の方に陽碧学園の校舎がある島が見える。

 朝登校してくるときはそこまで遠く感じなかったのに。

 疲れているからか、朝より遠く感じてしまう。


 ちょっとほんともう勘弁してほしい。


「疲れてるの?」


 そんな当たり前のことを聞いてくる火之浦先輩。


「疲れてます」


 それに対してのアンサー。


「もう少し歩いたら、楽させてあげるから頑張りなさい」


 このままその辺のベンチに座る方が楽なんだけど。

 なんて口に出す元気すらなかった。


 見かねた先輩が俺の手を引っ張っていく。

 到着したのは、駐輪場。


「車の免許を持ってないから、陽碧市の各地に移動用の乗り物を用意してるの」


 ポケットから出した袋の中から鍵を取り出す。

 それで自転車の鍵を開けて、さらにワイヤー状の鍵も開けた。


 どこにでもある普通の自転車。いわゆるママチャリというやつだ。


「ほら、うしろ」


 二人乗り。

 確か違反じゃなかったか?


「いいから、ほら」


 ぽんぽんと、後ろの座る部分を叩く。


「乗らないと、置いていくわよ!」

「ういす……」


 自転車の後ろに座り、火之浦先輩の指示通りに腰に手を回す。


 ……あれ?

 これ普通に。


「さ、行くわよ!」


 ちょっと浮ついた考えが浮かんだのと同時に。

 火之浦自転車は進み始めた。


 最初はノロノロと倒れそうになる。

 が、だんだん速度をつけていき、軽やかに道を駆け始めた。


「たのしー! きもちいー!!」


 火之浦先輩の透き通った声が、俺の浮ついた考えを徐々に消していく。


 火之浦先輩が受けた風を、俺も同じように受けるようになる。

 そして、ちょっとだけ気持ちよくなって。


「いいな」


 なんて言葉を吐き出してみて、


「でしょ!」


 火之浦先輩は嬉しそうに笑いかけてくる。


 この時間が過ぎていけばいいな。

 なんて柄にもなく思ってしまった。


「そういえば、このままどこにいくんですか?」


 今から向かう目的地について聞いてみる。


「陽碧学園よ!」

「ん? でも、夜って許可ないと校舎に入れませんよね?」

「だから、忍び込むのよ!」


 また、青春同好会の馬鹿なやつが始まったのだな、と思った。

 だから、


「引き返せええええ!!!」


 俺は火之浦先輩に抱き着いたまま、必死に助けを呼ぶのであった。

一人暮らしの時、よく突撃されたりしてましたね。

ほとんど男友達でしたけど。



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