12.青春同好会 VS 生徒会一行 ②
小夜鳴るる。
この名前が一番気に入ってます。
「私、あなたのこと嫌いだから」
「あら? 私は大好きよ、凍里ちゃん」
俺も、新樹先輩も、武見先輩も、サッと別のところへ視線を逸らす。
芽出先輩だけはどうにかしようと、オロオロしていた。
「あ、新樹先輩。これどういうやつなんですか?」
「二人は犬猿の仲というか……青春同好会の活動の中で一番の障害が彼女なんです~。凍里ちゃんの作戦が、小夜鳴るるに悉く防がれるから」
「つまり、ライバル関係、みたいな?」
「そこもまた違くてですね~。凍里ちゃんが一方的にけしかける、と言えばいいのかなんというか……」
「一方的な」
「まあ、それが一番近いかもですね~」
青春同好会の活動の中で、作戦の内容をしっかりと詰めるのが水無瀬先輩の役割。
いわゆる参謀というやつ。
その作戦の中で小夜鳴先輩が関わった時の成功率はほぼゼロパーセントらしい。
どう足掻いても、小夜鳴先輩が一手先を行くことが続いている。
それが水無瀬先輩のプライドを傷つけているようだ。
ちなみに水無瀬先輩に、小夜鳴先輩の話は結構タブーだったりするらしい。
冷静さを失ってしまうんだと。
「おい、この二人の無言の圧力どうにかできないのか?」
「ここは風紀委員長の出番だと思いますよ~。持ち前の武術で投げ飛ばしてください」
「それなら新樹の馬鹿力で吹き飛ばした方が早いだろ」
「ふ、二人ともファミレスで喧嘩はダメですよー!!」
「ほら、結花里もこう言っていますから。凍里ちゃんもお静かにした方がよろしいですよ?」
「喧嘩売ってるのは、そっち」
「ほら、凍里ちゃん。この辺でいったん引きましょ~」
「やめて、陽乃女。ここで引いたら負け」
「勝ち負けの勝負じゃありませんからね~」
「あら、私は勝負のつもりだったけどね。我慢比べの」
「おい、その辺にしとけって」
「そ、そそそうですそうです! 空君の言う通りですよ」
「ふーん。まあ、いいけどね」
小夜鳴先輩はコーヒーを飲んで、サッと水無瀬先輩から視線を逸らした。
その瞬間にちょっとだけの笑顔を浮かべて。
「……今度こそ」
「……できるといいわね。応援してるわ」
「はい。しょうがないので、力づくで抑えちゃいますね~」
我慢が抑えきれない水無瀬先輩を、新樹先輩がガチッとホールド。
水無瀬先輩が動けなくなった。
こうして二人の謎の小競り合いはいったん終わり。
ファミレスの一角の雰囲気が少しだけ軟化される。
まあ、まだ別の問題があるわけで。
「いっくんを解放して。でないと、生徒会の全権力を使って、青春同好会を無きものにします」
「おもしろいこというじゃない! なら、青春同好会の総力を挙げて、生徒会に対抗するわ!」
「そう! 宣戦布告と受け取ってもいいかしら!?」
「ええ! 全面戦争よ!」
「いや待て、飛躍しすぎだ!」
規模が大きい話題になりつつある初衣ねえと火之浦先輩の会話を中断させる。
「土浦先輩と岡本先輩も止めてくださいよ!」
「面白そうだから、いいかなって!」
「……めんどくさい」
「大導寺先輩も!」
「青春同好会を無くす口実ができれば、それでいいですから」
「全員敵なのか!」
「御形君、生徒会は確かに青春同好会の敵なのでしょうが、生徒会、ひいては学園側からしてみれば青春同好会こそが敵なんですよ?」
それは確かに。
これじゃ、何も反論できねー。
「分かりましたか、御形君。会長の味方をする方が賢明ですよ」
「ん、んん?」
「伊久留は青春同好会のメンバーなんだから、こっちの味方でしょ!?」
「い、伊久留!? どうしてあなたがいっくんを呼び捨てにするんですか!」
「あら、別に私の勝手じゃない!」
「……ふん。別にいいもの。あだ名で呼んでいるのは、私だけなんだし」
「でも、伊久留を下の名前で呼んでいるのも私だけ。しかも青春同好会メンバー」
「本人の口から入るってこと聞いてないから、それは無効よ」
「いいえ、私は伊久留の口から聞いたもの。『青春同好会に入りたいです』ってね!」
この、嘘吐きめ!!!
「証拠不十分です!」
「こっちの席に伊久留が座ってるのが、その証拠よ!」
「何それ意味わかんない!」
「と、生徒会長がファミレスの中で大声をあげるのはよろしくありませんよ」
「掩の言う通りだよ。ほら、ヒートアップ前にそろそろ帰るぞ」
「帰りたい」
「く……青春同好会、とりあえず今回は許しましょう。決着は明日、つけます」
ギラリと、目が光る初衣ねえ。
「じゃあ、さようなら!」
「いっ君は連れて帰るから!」
「伊久留の所有権は私たちにあるのに!」
「誰にも、所有権は渡してないんだけどなぁ」
結局、また十分ぐらい俺の処遇について言い合いが行われた。
が、双方のトップは各メンバーに無理やり連れて帰られる形でお開きとなった。
俺は手錠を外される。
一人で寮に帰ってください、という形に収まりました。
入学初日、まさしく嵐のような一日だった。
多分、全国で一番濃い入学式の日を過ごしたと思う。
と、帰り道の俺は一日をそう締めくくった。
まだ、一日は終わっていないのに。
学生たちがファミレスで騒いでいるのを見たりします。
うるさいな、と思う反面、
羨ましさも感じますね。
青春はいつまで経っても、憧れるものなのだと感じます。
ただ、暴れ過ぎには注意が必要ですね。
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