105.初衣ねえと二人っきりで、です!
「話聞いたよー。なんかごめんね」
「良いよ別に。初衣ねえのせいじゃないし」
「監督不行き届けってやつだね」
夜、休日の陽碧学園。
生徒会室で、男女が二人。
「なんか大変な時に呼び出しちゃって、ごめんね」
「今日は謝ってばかりだね」
今は書類の整理。
出店予定の人達が持ってきた申請書類の不備の確認だ。
「市役所の方に提出する必要があるから、細かいところまでしっかりね」
「間違ったまま提出したらどうなる?」
「再提出になるから、出店者の人に迷惑がかかるかな」
「でも、不備は向こう側の責任じゃない?」
「それはそうだけど、私達が今回はお願いしてるからね。そこは私達がしっかりしないといけないの」
「なるほど。七夕祭が大変な理由が分かったよ」
「でしょ~」
「じゃあさ、なんで火之浦先輩を呼ばなかったの?」
「……あ、間違えがあった書類には付箋を使って分かりやすくね」
そんなに分かりやすく話を逸らすことある?
「というかさ、火之浦先輩と約束してたでしょ?」
「……どんな約束だったっけ?」
「活動するときは三人一緒、って話したろ?」
「し、したっけ?」
「火之浦先輩のことだから、もう向こうも約束は守ってくれないと思うよ」
「……でも、約束したのって『三人で活動するとき』だから」
「は?」
「火之浦美琴といっ君が活動するのは許せないから、その約束をしたわけだから。私といっ君二人の活動は大丈夫ってこと」
「詐欺だな」
「騙される、火之浦美琴が悪いもんね!」
「悪い生徒会長だな」
なんて雑談を進めながら、書類の細かいところをチェックする。
流石は初衣ねえ。
俺よりも三倍ぐらい、書類が積まれる速度が速かった。
「なんか久しぶりだね」
「前も言ってたでしょ、それー」
「初衣ねえ、忙しいもんね」
「いっ君が青春同好会に構いっぱなしだからだよ」
「べ、別に、初衣ねえから連絡が来ればいつだって」
「たまには、いっ君から連絡があってもいいと思うけどぉ」
「うッ!」
痛いところを突かれた。
「確かに、初衣ねえに俺から連絡したこと最近ないな……」
「昔は毎日毎日電話があってさ~」
「嘘吐くなよ! せいぜい月二ぐらいだろ!」
「私は寂しいよ~。寂しくて仕事が捗らないよ~」
「また嘘。俺の数倍速いぞ」
「いっ君が生徒会に毎日手伝ってくれれば、今の数十倍頑張るよ!!」
「今のままでも十分凄いから、そのままでいいよ」
「ひどい!! 寂しがってる幼馴染には親身に接してあげないと」
自分で言うな、自分で。
「夜の学校で騒いでたら、怒られるよ。生徒会長」
「そ、それはそうだけど」
「ほら、早く終わらせて帰ろう」
「はっ! 仕事終わると、いっ君と一緒にいられなくなる!?」
「仕事終わっても、帰るまでは一緒にいる。頼むから集中してくれ」
「は~い」
集中してくれ、とは言ったものの。
集中するのは、俺の方。
仕事量は圧倒的に俺の方が少ないからだ。
「ねえ、いっ君」
「……集中してる」
「青春同好会って、そんなに面白いの?」
驚いた。
初衣ねえから、そんなことを聞かれるなんて。
「退屈はしないよ」
「なんか煮え切らない言い方~。面白いか面白くないか、イエスかノー!」
「い、イエス……?」
「……そうなんだ」
「でも、初衣ねえと一緒にいる時も面白いよ!」
「別にそんなことはきいてないもーん」
「じゃあなんで聞いたのよ」
「私達には分からない魅力でもあるのかなって」
「魅力、か」
「そう」
「青春同好会に魅力があるんじゃないんだと思う」
「どういうこと?」
「火之浦先輩に魅力があるんじゃないかな?」
「は?」
「……え?」
なんか今まで聞いたことのない冷たい声が初衣ねえの口から出たぞ。
「そんなこと、聞いてるわけじゃないよ!!!」
「急に大声出すなって!」
「火之浦美琴の感想なんか聞きたくなかった!!」
「だーかーら! 違うって! 水無瀬先輩も新樹先輩も、火之浦先輩がいるから青春同好会に所属してるから、そういう魅力があるんじゃないかって話を」
「いっ君も同じような魅力を感じてるってことでしょ!」
「ち、そ、それは違うって!」
「なんでそこで慌てるの! いっ君のばあか!!!」
「て、手が止まってるぞ、初衣ねえ……いたぁ!」
初衣ねえが消しゴムや鉛筆を投げてくる。
「ぶ、文房具は大切にしなさい!」
「ひ、火之浦美琴なんかより、生徒会の方が魅力的だよ!!」
「ひ、比較対象が、って、はさみはやめろって!」
テーブルの上の文房具が全て投げられた。
だから、初衣ねえは俺の方に回り込んで、文房具を拾ってまた投げた。
なんでそこまで文房具を投げたがるんだろうか。
「初衣ねえ、落ち着けって! 流石に騒ぎすぎるとまずいだろ!」
投球モーション中の初衣ねえの腕を掴んで止めた。
思ったより、力は弱くてすぐ動かなくなった。
数十秒後、大人しくなって、投げられた文房具を片付け始めた。
「……はあ、私も青春同好会に入ろっかな」
「気の迷い?」
「真剣に」
「……嘘だろ?」
嘘だと言ってくれ。
「う、初衣ねえがそんな人だったなんて……」
「え、ええ!? 青春同好会のいっ君がそんなこと言う!?」
「だ、だって、せ、青春同好会だぞ!?」
「だ、だからそれをいっ君が言う!?」
「ち、ちなみになんでそんなことを……」
「そ、その、火之浦美琴の、み、魅力が分かるかなって……」
「……別に、青春同好会に入る必要はないだろ?」
「ど、どうして!」
「生徒会長として、俺よりも火之浦先輩と関わること多いだろ?」
「……確かに」
そう、確かにそうなんだ。
俺が火之浦先輩達に会うよりも前に、色々と絡みがあったみたいだし。
俺が青春同好会に入った後も、火之浦先輩の前に立ちはだかったりしてた。
体育祭の時なんか、最終日二人で競争……?していたわけだし。
「だから、別に入る必要ないだろ」
「で、でも……」
「それに、初衣ねえは青春同好会みたいなことはしたがらないだろ?」
「が、我慢するし……」
「結局、先輩三人に揶揄われるのがオチだよ」
「……それもそうか」
初衣ねえは、そのまま元いた場所に戻った。
「はあ……」
「そんなに火之浦先輩のことが気になるの?」
「……別にぃ!」
「今日呼べばよかったのに」
「それとこれとは、話がちーがーうーの!」
「はいはい」
とりあえず、脱線した話題から元に戻す。
作業、再開。
「あの、失礼しますが」
「え?」
と、生徒会室の開かれた扉に大導寺先輩の姿があった。
「え、あれ? 大導寺先輩、いつからいました?」
「会長達が手を繋いでいた時からですよ」
「手、繋いでないです!」
さっき、俺が初衣ねえの腕を掴んでいた時だろう。
そんな時から、そこにいたのか。
気づかなかった。
「あ、あれ? 初衣ねえ?」
初衣ねえの姿がない。
さっきまで座っていた椅子が倒れている。
「初衣ねえ?」
下を覗くと、初衣ねえがテーブルの下で縮こまっている。
「なんで震えてんの?」
「会長。今日の夜、生徒会室を使う予定だったのは聞いていますが、二人で作業しているとは聞いていませんよ?」
「はあ!?」
「ちゃ、ちゃんと使用許可の方ではいっ君の名前を書きました~」
「資料の方にも、御形君の名前が書かれていないようですよ。はい、証拠です」
証拠の紙を大導寺先輩から渡される初衣ねえ。
よそよそとテーブルの下から、こんにちは。
「き、気づいてた?」
「いえ、完全に分かっていたわけではありません。小夜鳴さんと一緒に話をしていた時に、会長の話になったんです。今日の生徒会室使用の件を話したら、もしかしたらと」
「……ごめん」
「え、と。じゃあ、俺は今不法侵入中だと?」
「そうなります」
「……初衣ねえ、安心して」
「え、な、なに?」
「青春同好会でもやっていけるよ」
誰もが憧れる、生徒会長の初衣ねえ。
そんな初衣ねえだって、約束を破ることもあるってわけだ。




