100.七夕祭りに向けて! ①
七夕祭り。
陽碧学園を中心として開かれる祭り。
メインステージでの催し。
数多くの屋台。
花火や盆踊り。
誰もが思い描く夏祭りを、陽碧学園主導で開催する。
「概要はこんな感じだけど」
「ありがとう、初衣ねえ」
生徒会室。
六時過ぎで、校舎内に人はほとんどいない。
普段は許可を得ないと校舎にいてはいけない時間。
「急に電話が来て、七夕祭りについて詳しく聞きたいって……。久しぶりにいっ君から電話が来たと思って、ワクワクしたのに……」
「え、と。それは、なんだろう。ごめん」
「まあ、いっ君の声を電話越しに聞けたのは僥倖だったし、そこはいいんだ」
初衣ねえの呆れ顔。
視線は俺ではなく、その隣。
「じゃあ、私達は何を手伝えばいいの!」
「なんで火之浦美琴がいんのよ!!」
ごもっともなツッコミ。
俺が初衣ねえを手伝うことが決まったことを伝えた結果。
火之浦先輩が俺の手を取って、生徒会室へ突撃しに行った。
傘を持っていることを無視して。
おかげでびしょ濡れだった。
「なんで! 火之浦美琴が!」
「ああ、わかったわかったから」
「七夕祭り、面白そうね! どんなイベントがあるの!」
「もう! 勝手に進めないで!」
ビシビシ、初衣ねえがテーブルを叩く。
隣の大導寺先輩は特に気にする様子もない。
優雅にコーヒーを飲んでいる。
「岡本君、資料を渡してあげなさい」
「……いいんですか?」
「話をするぐらいは問題ないでしょう」
「なら」
スッと岡本先輩が資料を渡してくる。
タブレットではなく、紙の資料。
七夕祭りの情報が載っている。
「わ、渡しちゃだ……」
「ちゃんと資料を渡されたのは初めてね!」
そういえば、盗もうとしたりしたとか言ってたな。
「…………」
数秒後、火之浦先輩は真剣に資料を見始めた。
俺は特に七夕祭に興味があるわけではない。
初衣ねえから手伝ってほしいと頼まれただけ。
だが、火之浦先輩は純粋に七夕祭を楽しみにしている。
表情を見れば一目瞭然。
まるで誕生日プレゼントを貰った子供みたいだ。
「すっごいいいわね!!」
数分経って、資料を読み終わった火之浦先輩が大絶賛だった。
「ふ~ん」
その反応に、初衣ねえは適当に相槌を打つ。
視線は外して、そっぽを向いている。
火之浦先輩は資料に夢中で気付いていないみたいだけど。
初衣ねえの顔が、ちょっと赤い。
多分、照れてる。
「陽碧市も巻き込んでの祭りを主催するだなんて凄いわ!」
「確かに。規模が凄いな……」
体育祭の規模もなかなかだったけど。
七夕祭りの規模はそれ以上に感じる。
「これ、体育祭終了後にやる規模じゃなくない?」
「それは間違いないです」
俺の疑問に大導寺先輩が答える。
「当日は陽碧市のお店などに出店をお願いしています。陽碧学園のイベントですが、陽碧市全体が協力していただけます。体育祭では出店をお願いされる立場ですが、七夕祭りではこちらがお願いをする立場に変わっているのです。その分、責任は体育祭よりも強く重いものですね」
「体育祭が終わってから二ヶ月も経たないうちにこれですか……」
五月終わりの体育祭。
七月終わりの七夕祭り。
「だから、人員が欲しいんです。七夕祭りは恒例行事ではなく、マニュアルというものも存在しません。もちろん計画はしっかり練りますが」
「正直、青春同好会でも、手伝ってくれるなら、ありがたい」
と、大導寺先輩と岡本先輩は火之浦先輩の参加に乗り気だ。
「私は反対!」
案の定だが、初衣ねえは反対だ。
「会長、今は猫の手も借りたい状況ですよ?」
「それは分かってるけど! 火之浦美琴はダメ!!」
頑として譲らない。
「会長、七夕祭は本来生徒が楽しめるためのイベントですから、運営に携わりたいと考える生徒は稀なんです、貴重なんです」
「それに、火之浦の行動を抑制できれば、青春同好会も抑制される」
「岡本君の言う通りです」
「ふ、二人本気すぎない?」
二人の押しに、初衣ねえが少したじろいだ。
それだけ、七夕祭りの準備は大変だということ。
「言っておきますが、感情論で動いているのは会長だけですよ?」
「頼むから、今回は理論的に考えよう」
「い、今までにない圧が……」
いつもは振り回される二人だが。
その二人に押されてタジタジの初衣ねえは新鮮だ。
いや、大導寺先輩に仕事に連れ戻されたときの初衣ねえも同じか。
「初衣ねえ。俺からも頼むよ」
「ほら、伊久留もそう言ってるわ!」
「あ、あんたは黙ってて!」
睨みつける初衣ねえ。
それに対して、火之浦先輩は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる。
「……なによ」
「別に何でもないわ!」
「なんか、嫌」
初衣ねえは大きく深呼吸をする。
「いっ君がお願いしたんだから、火之浦美琴も一緒にね」
「やったわ、伊久留!」
「私の前で引っ付こうとしないでって!!」
「今後もよろしくお願いしますね、御形君」
「今後も初衣ねえが譲らない時に、お願いをしろと?」
火之浦先輩が七夕祭りの運営に参加する条件。
活動するときは、必ず俺と初衣ねえ、火之浦先輩の三人でやる。
体育祭の時にした約束。
あの時の同じような状況に、またなってしまった。
「それじゃあ、伊久留! 行くわよ!」
まあ、いつものことだから、こんな状況にも慣れた。
と思っていた自分はまだまだ青春同好会の新人だった。
火之浦先輩の七夕祭り、運営への参加。
それとは別に、青春同好会も七夕祭りに向けて動き出す。




