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ルセラン伝  作者: カメリア
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序章 父の背

 その少年は今日が初陣だった。名将と謳われた父のもとで、幼いながらに才覚を発揮し、領内どころか皇帝からも将来を期待された、伯爵家の嫡男であり、正統後継者だった。少年は真っ赤な兵装に身を包んだ兵士たちに守られながら、父親であり、この軍の総大将でもある、パトリック・セイルビーレンの顔を馬上から見上げた。

 

 隣で馬を操りながら前線の戦闘を真剣な目で見つめていたパトリックは、息子の視線に気づいて問いかけた。


「どうした、ルセラン。何か思うことでもあったか。」


「いえ、これほど真剣な父上のお顔を拝見することは初めてだったので。」


「フッ、確かにリンクたちには見せない顔をしていたかもな。だが、ルセラン。お前は今日からより厳しく私の後継者として鍛える。この表情も今後よく見ることになるぞ?」


 パトリックは正妻に先立たれており、非常に家族愛が強く、子煩悩だった。そのため、家にいるときは子供たちにとても甘く、当主としての毅然とした姿を家族にみせることはあまりなかった。ルセランはつい最近から跡継ぎとしてパトリックのもとで政務を学び始め、その時に見る仕事モードの父の凛々しい姿をとても尊敬していた。


「はい!父上の立派な跡継ぎになれるよう、このルセラン、精進します!」


「うむ。よい返事だ。ところでディーケン、ルセランの最近の様子はお前からみてどうだ?チェンバレン攻めの準備で最近はルセランとあまり話せていなかったからな。」


ルセランたちの後ろに控えていた、戦場でありながら執事装の老人・ディーケンは一礼して答えた。


「若様は日々めまぐるしくご成長されております。色纏(しきてん)もこの若さである程度使いこなせるようになっておりますな。未来の当主としてとても有望かと。」


「ほう、ルセラン、もう色纏が使えるのか。私よりも早いのではないか?才能があるな。」


「爺の教えがよいおかげです。私のみの力ではありませんよ。」


「若様は才におごることなく日々謙虚に精進されております。発現した色も当主様と同じ青ということで、まさに上に立つものにふさわしい色かと。」


「うむ。ではルセランに目の前で見せてやるとするか。ルセラン、父の背をよく見ておけよ。」


 そういうとパトリックは腰の剣を抜き、天を刺すかのように掲げた。


「大海に連なりし深き青は、あまねく生命を庇護し、導く!色纏顕現(しきてんけんげん)・青!!!」


 パトリックの声が朗々と響くと、真っ赤な兵装に身を包んでいたものたちはみな体から、青い光を発し、それまでの疲れを癒され、さらなる活力に満ち溢れだした。


 歓声をあげる兵士たちに、パトリックが号令を下すと、膠着状態だった前線はあっという間に敵を押し込んでいった。


「さすがはご当主様。一万もの兵士たちに力を行き渡らせるとは。これほどに優れた青の使い手など、大陸中を見渡してもほとんどいないでしょう。」


「いつか、私もあのようになれるだろうか…」


ルセランの思わずこぼれ落ちた一言に、老執事はうなずいた。


「若様も若き頃のご当主様に劣らない才覚をお持ちです。きっとなれましょう。」






 その後、パトリックが敵を打ち破り、敵の申し出た降伏を受け入れることで戦闘は終わった。

翌日、戦後処理のためにまだ現地にとどまる必要があるパトリックから、ルセランは一足先に領地もどるように伝えられた。


「ディーケン、ルセランとともに、先にある程度部隊も領に戻してくれ。今回の戦はおもったより長引いた。兵士たちも早く領地に戻りたがっているだろう。」


「ですが、そうなるとご当主様のお守りが薄くなります。」


「先の戦で敵は大きく打撃を被った。正面切って私に挑めるものは近隣にはもういないだろう。」


「…はっ…。」


 ディーケンの渋々といった顔に苦笑しながら、パトリックはルセランに顔を向けた。


「そういうわけだから、ルセランは先に戻っていてくれ。リンクとリゼにもいい子でいるように言うんだぞ?お兄ちゃんとしてな。」


 ルセランの二人の弟妹にも言葉を残したパトリックはそういって陣幕の中に消えていった。


 数時間後、帰還の準備を終えて伯爵領への帰途についたルセランは、数日してようやく伯爵領まであと少しというところで急報を受け取った。









 それは、父・パトリックの死を伝えるものだった。


 



 そしてこの時より、のちに「英雄王」の二つ名で崇められ、同じく崇められた「戦乙女 エリーヴィア」と共にエイドスレイン大陸の歴史に名を刻んだ、ルセラン・セイルビーレンの戦いは始まった。

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