3.儀式に挑む
神殿内に入ると、まず目に入ったのは壁に描かれたユニコーンとフェンリル。
聖獣と云われ伝わっている不思議な生き物が左右の壁にそれぞれ描かれていた。
今にも動き出しそうな姿にブルリと身体が震える。
天井にもフェニックスが描かれてて、何処を見たらいいのか躊躇してしまった。
おもむろに視線を移すと、天窓から差し込む一筋の光が女神像を照らしてる。
幼いながらもその神々しさに気圧されてしまい、ただ呆然とするしかなかった。
案内してくれた修道女さんが司祭さまを連れてきてくれて、今回の祝福の儀式についての流れを教えていただくことに。司祭さまのお話によると、女神像の前にある魔方陣の中央で跪いて祈りを捧げる。すると女神様からギフトを賜ることができるのだと。うーむ。
で、都合の良く魔方陣に、その賜ることができたギフトの文字が浮かび上がってくるらしい。
へぇー。何やら派手な演出ですね。
そして、魔方陣と連動してる魔道具がギフトの詳細を印刷してくれるとか。
便利で有り難いなぁって思いました。
すぅー、はー、すぅー、はー。深呼吸してみる。
そっと跪き、小声で呟く。
「女神様、素敵なギフトをお願いします♪」
あ!しまった。むぐぅぅ。
完全に私利私欲に走ってしまった。思わず頭を抱える。
でも、そんな私にも女神様は微笑んでくれるみたいです。
魔方陣から光が溢れてきて、やがてクルクルと渦状に回って弾けた。
浮かび上がった文字は……。
“カミサポ ”
“ カラオケ”
…だった。
2つ文字が浮かぶのも気になるけれど。
1つ目の文字の後方と、2つ目の文字の前方に怪しい感じで空間が空いてるのが気持わるいです。目を細めてよ~く見てみると、ものすごく小さな文字が見えた。
“〇〇〇〇ート”
“イセカイ〇〇〇〇”と。
えー。契約書とかでよくある小さな文字でこっそり書いておくアレかな。
文句や苦情がきたら伝家の宝刀を抜くかのごとく、ここに載ってるだろうって書類をバンバン叩いて見せるあの胸クソわるいテンプレ? いけない、ダメだわ。思考が脱線してる。
そもそも隠しギフトって何なの?1つ目のカミサポートって意味が分からないし。
カミから連想される言葉って、紙、髪、神か。…か、神?まさかね。
で、サポートの方は変な意味じゃなければ、支援よね。
むむむ。神の支援ってどういうコトなのか誰か説明してほしい。
そして、2つ目の方のイセカイカラオケ。
イセカイは異世界だとして、カラオケは?
そこまで考えて、自分に前世の記憶があることに気付いた。
よくよく振り返ればこの世界にない情報、語彙が脳裏に浮かぶなんておかしいじゃないの。
『ぷっ。』
意味なく焦る私の耳に不愉快な音が聞こえた。
『後ほど事情説明しますので、このままご帰宅くださいね』
女神様からのサポートがもう始まったらしい。
し、仕事が早いですね! でもモヤッとします。
そういえば儀式の行方はどうなるのか心配になってきた。
心細くなる気持ちを抑えて振り返り、司祭さまに視線を合わすと。
彼は印刷された紙をじっと見ていた。
「…今までに聞いたことがない不思議なギフトですね、きっとレアなものですよ。
困ったなぁ、詳細なことが読めないですねぇ。古代文字なんでしょうか。う~ん」
これは長くなりそうだと両親に目配せして、出口を指さす。
悩み始めた司祭さまに儀式に立ち会っていただいたことへの感謝の気持ちを伝えて、その場を退席した。
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せっかく町に来たのだからついでにと鍛冶屋で農具を数点。
さらに種苗屋で野菜の種を数点と、様々な商品を購入しながらの町を散策。
ふと目に入った書店に寄ってもらって、魔法書を数冊買ってもらう。
農家のわりにはお金に余裕があるみたい。
副業で魔道具を作ってると以前聞いたことがあったので、そのおかげなのかも。
突然両親が今朝見に行ってない田畑の様子を気にしだし、帰宅するために神殿の方へ戻る。馬繋場に預かってもらってた馬車を引き取りに行き、チップを払った。
「ありがとうございました」
お礼もそこそこに馬繋場を後にする。
ムティールアナの町を出て、感慨深く振り返った。うん、さぁ自宅へ帰ろう。
馬車での往路は慌ただしくてのんびり景色を見る余裕もなかったから復路は見るゾと意気込んでいたのに。色々と疲れが出てしまったのか、いつの間にか寝ていた。
「ルナ~、家に着いたよ」
と、起こされた時にはもう遅かった。
野生動物を発見できるかなと期待してたから、ショックです。
まぁ畑を荒らす害獣は見たくないですけどね!