9.格子越しの食事会
日が落ちた頃、最初の街へと到着した。
王都ほどではないが、こちらも高い塀があり、馬車が列を作り、カンテラを手にした冒険者や旅人が馬車の横を歩き、街の中へと入っていく。
街の中に入ると、沢山の店が軒を並べ、酒場には明かりが灯り、笑い声や陽気な音楽が漏れ聞こえてくる。
基本、日が暮れると出歩く人は殆どいない。いるのは冒険者か酔っ払いくらいだ。
やがて一軒の宿屋の前で馬車が止まった。
国外追放となる者は、大抵ティアナグ=ノールへと護送される事になるらしい。
その為、ティアナグ=ノールに通じるこの道にある街や村には、護送中の罪人を泊めるための専用の宿があるのだそう。
到着した宿も、そういった一つだった。
案内された部屋は夜ともあって薄暗く、ベッドとテーブルがあるだけの簡素な部屋だったが、掃除が行き届き、清潔だった。
シンプルながら、ベッドもちゃんと柔らかく、シーツも枕も真新しい。
平民が罪を侵した場合、強制労働に送られるか、死罪かだ。
必然的に国外追放となる罪人は貴族か裕福な商人などの為、こういう部屋になるのだろう。
ただし、外から鍵の掛かる部屋で、外に取り付けられる鍵は頑丈な南京錠だ。
窓にも格子が嵌っていた。
見張りの必要があるのだろう。
部屋の半分が鉄格子で隔てられ、片側にはカーテンで仕切られた護送の騎士の為のベッドとテーブルが置かれている。
こちらも別に扉があり、護送の騎士側は自由に出入りできる普通の扉だ。
罪人の部屋にはパーテーションがあるから、一応プライバシーは守られるらしい。
ハーツが申し訳なさそうに眉を下げる。
「私はファウリさんが罪人でないことは分かっているのですが、規則でして……。すみません」
「いいえ。ただで泊まれるのですもの。ハーツさんがいてくれる方が安心ですし、こういうところで宿泊をするのも初めてだから、楽しみです」
ファウリが笑ってそういうと、ハーツはほっとしたように笑みを浮かべた。
風呂は無く、身体の汚れを落とす湯と布が用意されて、ファウリは衝立越しに身体を拭く。さっぱり。ハーツはファウリを気遣ってくれたらしく、部屋の外に出てくれた。
「ファウリさん。入っても?」
「あ、はい。もう大丈夫です」
身体を拭いた布をたたんでいると、ハーツが食事のトレイを持って戻ってきた。
鉄格子に開閉できる小窓があり、そこからトレイごと食事を差し入れるらしい。
食事を差し入れようとしたハーツに、ファウリは少し首を傾けて、ちょっと待ってと手で制した。
「良かったら、食事をご一緒しませんか? テーブルを寄せれば、一緒に食事が出来ると思うんです」
ガタゴトとテーブルを寄せてくるファウリに、ハーツは小さく噴き出して、一度テーブルに食事を置くと、ファウリに習ってテーブルを寄せた。
格子越しに向き合ってから、小窓から差し入れられた食事を受け取る。
ハーツがテーブルに置いたカンテラがゆらゆらと揺らめいて、ちょっとした食事会のようになった。
テーブルに置かれた食事は、ハーツの方には肉や蒸かした芋が付けられていて、ファウリのものより質が良い。
ファウリの食事は罪人ということで、質素な食事で申し訳ないとハーツは眉を下げるが、ファウリにはこちらの方がありがたかった。
素朴な料理に憧れもあったし、スライスした硬い黒パンに芋や根菜がたっぷりと入ったスープは、しっかりと素材の味がする。
がらんと広い部屋で一人で食べる、手の込んだ冷めた食事より、ずっと美味しく感じられた。
ハーツは今までも何度か護送の任務についたことがあるそうで、今までやった護送の時の面白い話を、食事をしながら聞かせてくれる。
ファウリはお腹を抱えて笑った。
こんなに笑ったのは、初めてだった。
***
翌日、夜明けと共に宿を出る。
広い農場では、馬や牛が草を食んでいた。
川の畔では、小さな丸木橋の上で、数名の子供たちが釣り竿を持ってはしゃいでいた。
「釣りをしているんですね! ハーツさんは釣りをしたことはありますか?」
「小さい頃はよく兄と行きましたよ」
「素敵! ティアナグ=ノールについたら、釣りもしてみたいです」
「では、次の街に着いたら、釣り道具を購入しておきましょうか。野宿の時にでもやり方をお教えしましょう」
「楽しみです! でも、買うのは釣り針と糸があれば十分です。釣り竿は自分で作ってみたいんです」
「作るんですか? 釣り竿を?」
「はい! 釣り竿だけでなく、自分でやれることは、何でも挑戦してみたいんです。野宿の時に、色々教えて頂けますか?」
「それは構いませんが……。どんなことを知りたいので?」
「火の起こし方や湯の沸かし方、薪の集め方、知りたいことが沢山あるんです」
「……。ファウリさんはティアナグ=ノールでどんな生活をなさるおつもりなのですか」
ハーツが苦笑をする。
「そうですね……。出来れば、森の中の木こり小屋とかがあればそこで暮らしてみたいです。そこで木の実を採ったり、お魚を釣ったり……。後は――、そう、切り株を椅子にしてみたり、石を積んで竈を作ったり! 葦を編んで籠や敷物を作ったり、それから、それから――」
話していくうちに、興奮してくる。
脳内では、あんなシーン、こんなシーン、物語に出てきたシーンが次々浮かぶ。
ハーツは呆気に取られた顔をしていたが、ははははは、っと声を上げて楽しそうに笑った。
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次は20時くらい、行けるかな…? 頑張りますw