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7.出発

「――お話は済みましたか?」


「はい!」


 ぐすぐすと泣く掃除婦に手を振って、ファウリは少し困ったように眉を下げた。


「お礼を言いたかったのですが、泣かせてしまいました」


 騎士はちらりと掃除婦を振り返り、ふ、っと口元を綻ばせた。


「泣いてはいますが……。嬉しそうなので、きっと良い涙でしょう。ところで……。本当にもう宜しいのですか? 大聖堂のステンドグラスや、鐘塔から見る景色も絶景ですよ?」


「はい、もうやりたいことは済みました」


 ファウリは、神殿内を案内するという騎士の誘いを断った。

 欲しかった水筒は手に入ったし、伝えたかった掃除婦に、お礼も言えた。十分だ。

 荘厳な大聖堂よりも、隣国での野暮らしの方が、はるかに魅力的に思えていた。


 騎士は少し残念そうに眉を下げたが、ファウリの望むまま、護送の馬車の出る裏口へと、ファウリを案内してくれた。


***


 裏門へ着くと、城から戻ってきた時と同じ状態で、シンプルな黒い馬車と護送の騎士、城まで付き添ってくれた神官が待っていた。

 騎士の方は、ファウリが準備している間に着替えたのだろう。

 冒険者のような恰好をしている。


「聖女s――ファウリさん。部屋にいらっしゃらなかったのでお探ししました。お声を掛けて下されば宜しかったのに」


 神官が眉を寄せる。


「ごめんなさい。水筒が欲しかったので」


「ファウリさんのお願いで食堂に立ち寄っておりました」


 付き添ってくれた騎士が、さりげなくフォローを入れてくれる。

 神官は騎士の言葉に頷くと、ファウリへと視線を落とした。


「もう準備はよろしいのですか? ……随分と少ないですね」


「はい。大丈夫です」


 騎士の言葉にファウリが頷くと、神官が手に持っていた小さな革袋を差し出した。

 チャリンと中で音がする。


「こちらは枢機卿からの思し召しです。旅の資金にお使いください」


「……え、あの……。……有難うございます」


 罪人扱いなのに、良いのだろうか。

 だが、よく考えてみたら、神殿に来てからは、お金は一切受け取っていない。

 使い道が無いからだ。

 祈りを仕事とするならば、今までの仕事の報酬と思うことにして有難く受け取った。


 礼を言って袋を鞄の中にしまう。


「それでは出立致します。馬車へお乗り下さい」


「……これが護送の馬車なのですか?」


 護送の馬車というくらいだから、鉄格子がはめ込まれていたり、窓が潰されているのかと思ったが、護送の騎士に入るように促された馬車は、何の変哲もない普通の馬車に見える。


「目立たせるのは得策でないとの陛下のご判断です。逃げようなどとは思わぬように」


「逃げる意味がありませんので」


「……。お乗りください」


 ちらっと御者台を見ると、御者台には、初老の男性が座っていた。


「おじさん。よろしくお願いします」


 御者の男に声を掛けると、御者は目じりを下げて帽子を取って会釈を返してくれた。

 言われるままに馬車へと乗り込むと、護送の騎士も続いて馬車に乗り込んだ。


「騎士様。案内有難うございました。神官様もお世話になりました。さようなら」


「お元気で。ファウリさん」

「道中お気をつけて」


 ファウリが声を掛けると、騎士は一歩下がった位置で騎士の礼を取り、神官は袖を合わせ、深く頭を下げる。

 ガタン、と馬車が動き出した。


 遠ざかっていく十三年間過ごした大神殿。

 礼をしたまま見送っている護衛の騎士と、神官。

 これで、神殿とはお別れだ。


 何も感じなかった神殿も、最後の最後で、少し暖かな思い出が出来た。

 ファウリは窓から手をふると、一息ついて、座りなおした。


***


「聖女様。これからあなたを隣国、ティアナグ=ノールへ護送します。一日に数度休憩を挟みますが、その際、馬車の外へ出ることを許可します。一応、あなたは罪人という扱いとなりますので、こちらを腕に着けてください」


 差し出されたそれは、銀色の神聖文字の描かれた金属製の輪だった。


「護送用の魔道具ですね?」


 ファウリは輪を受け取ると、言われるがままに手を輪に通した。

 輪は収縮し、ファウリの腕のサイズにピタリとはまる。


「はい。私のこれと対になっています。これは隣国に着くまで外せません。一定以上離れると雷の術が発動し、電流が流れます。私から決して離れないようにお願いします」


 騎士が腕を上げて見せる。ファウリの付けた腕輪と同じものが、騎士の腕に嵌っていた。


「わかりました。それと、私はもう聖女ではないので、ファウリとお呼び下さい」


「それでは、私のことはハーツと」


「はい。ハーツさん」


 ガラガラと、馬車は小一時間程で、中心街の外に出た。

 街並みが、ガラリと変わる。


 この先は平民街らしい。色とりどりの露店が道の端に並び、荷物を積んだ馬車や、簡素な服に身を包んだ平民や、革の胸当てを付けた冒険者の姿が目立ち始める。

 駆け回る子供の姿も目に付くようになった。


 平民街が終わると、高い塀に囲まれた城門が見えてくる。

 王都に入るには、手形が必要となるのだ。

 門の前には、長い行列ができていた。


 馬車の傍を、平民の子供たちが、馬車の窓越しに花や菓子といった物を売り歩いている。

 馬車の外から可愛らしい声が掛かった。


「果実水は如何ですか? 一つ十ピアニールです」


 窓の外をのぞくと、十歳くらいの女の子が、果実水の入った籠を差し出していた。


「二つ貰えるかな?」


 お金を確認しようと鞄を覗き込むと、ハーツが少女に返事をし、コインを握った手を差し出す。


「まいどあり!」


 女の子は、手を伸ばしてお金を受け取ると嬉しそうににっこりと笑って果実水を手渡してきた。ハーツが受け取り、一つをファウリに差し出してくる。


「宜しいのですか?」


「喉が渇いたのでついでです」


「有難うございます」


 果実水に口をつけると、甘酸っぱくて、すっきりとしていておいしい。

 時折、ヤギや牛を積んだ馬車や、同じ紋章の描かれた、両脇を護衛に囲まれた幌馬車が何台も列を作って横切っていく。

 くたびれたマントを身に着けた、剣を下げた数人のグループの姿も目立つ。


 トンネルのような城門をノロノロと馬車は進み、前方に光が差す。

 ザァ、っと視界が開け、目の前に、一面の緑が広がった。


ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!

やっとこ神殿出発しましたw

次は夜20時くらい更新予定です♪


(すみません、護送の騎士の名前が迷走してしまいました…><;(直したつもりが直ってなかった;)

護送の騎士、名前は【ハーツ】です;;

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