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40.これは多分デートじゃない。

 ニコニコと楽しげに弾むように歩くファウリの横で、リッツは思案顔だった。

 言いたいことが色々あるが、何から突っ込めばいいのかわからないといった様子だ。

 ファウリも何て説明をすればいいかわからない。

 リッツの表情には気づいているが、あえて気づかないふりをする。


 リッツはじっと隣を歩くファウリの横を物言いたげに眺めていたが、やがて吹っ切るように頭を振った。


「んし、仕事は見つかったんだろ? それじゃ、色々見て回ろうぜ。どこに行きたい?」


「そうですね、お金もあまりないので、後はパンを買えたら」


 ファウリが眉を下げて苦笑すると、リッツは呆れたように肩を竦めた。


「折角来たのにすぐに帰るんじゃつまんないだろ? 俺が案内してやるよ」


 リッツが明るくそういうと、ファウリはぱぁ、っと可愛らしく笑って、はいっと元気に頷いた。


* * *


 リッツは、この日を結構楽しみにしていた。

 一昨日約束を交わしてから、翌日には仕事仲間や友人にアドバイスをもらい、女の子が好きそうな店をリサーチもして、夜遅くまで計画を立てて、入念に準備をしていたのだ。


 この日のために職場の親方でもあるゼノに交渉して給金も前借りした。

 男らしく、お茶代は出すつもりだったし、何なら安物しか買えないが、ファウリに似合いそうなアクセサリーの一つでもプレゼントするつもりだった。


 可愛いアクセサリーを一緒に選んだり、洒落たカフェでお茶を飲んだり、果実水でも飲みながら、公園のベンチで語り合ったり、最後には見晴らしの良い時計台に連れて行きたい。高い時計台の上からは、遠くに海が見えるのだ。


 夕日を眺めながら、小物屋で選んだアクセサリーを贈れば、ファウリは可愛らしく頬を林檎のように染めて、喜んでくれるに違いない。そして……。


『リッツさん、私、リッツさんのことが……』


 ーーでへ。


 妄想が暴走してニヨニヨが止まらない。

 

 勿論、照れくさいから、ファウリの前では『仕方なく案内をしてやる』といった体は崩せない。

 年頃の男子はシャイなのだ。


 それでも、気持ちの上ではデートだった。


 デートのつもりだった。

 

 ……なのに、なんでこうなった。


 今、ニコニコと楽しそうに隣を歩くファウリの腕には、歪んだ鍋や黒く変色して薄汚れたロープの束、柄の折れたお玉に大きく破けたシーツが、大事そうに抱え込まれている。


 一応、計画通りに案内はしたのだ。

 可愛い雑貨を売る店にも行ったし、可愛い洋服を売る店にも行った。

 なのに、ファウリは全く興味を示さないのだ。

 窓越しにちらっと見て、可愛い店ですねとニコニコ笑うが、興味がないのが丸わかりだ。

 

 それどころか、すぐに視線を逸らしたかと思えば、ぱっと目を輝かせ、ちょっと良いですかと駆け出して、慌てて追いかけてみれば、閑古鳥の鳴いている金物屋の片隅に放置された鍋を交渉してタダで貰ってみたり、木箱を留めていたボロのロープを譲って貰っていたり、気付けばファウリの腕の中にはゴミの山ができている。


 持ってやると言っても、自分が持ちたいと言うし、ちょこっと袖を摘んでいた手はゴミの山に奪われた。

 結果、ゴミ(にしか見えない)を抱えたファウリの横を、荷物持ちにすらなれず、ただ隣を一人分の距離を開けて並んで歩いているだけ。


 可愛い店もプレゼントも頓挫し、おしゃれなカフェに行きたくても、流石にゴミの山を抱えたようなファウリを連れて行く勇気はない。


 そもそもこんなものを抱えた女の子相手に、どうやってムードを作れば良いのかわからない。


 デートだと言わなかった自分が悪いのか。

 鈍いにしても酷すぎやしないか?


 リッツが頭を抱えていると、唐突にファウリがピタリと足を止めた。


「あの、リッツさん。あの店、寄っても良いですか?」


 ファウリが示したのは、街道から伸びた細い路地の先に見えた一件の古めかしい店だった。

 賑わう表通りが嘘のように、人気が無い路地にひっそりと佇む店先には、薬らしい瓶と薬草らしい葉が描かれた古ぼけた看板が風に揺れている。


『アルゴの店』。


 風化した看板には、かろうじてそう書かれているのが見てとれた。

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