36,街へ行こう
それから、ファウリは毎日魔女の家の前で、せっせとルアルのブラッシングをした。
時々ブラッシングに興味を持ったように、小さな魔物もファウリの周りに近づいてくるようになった。
ルアルのブラッシングの合間を縫って小さな魔物もブラッシングをしてやると、小さな魔物もごっそりと黒い毛が抜け落ちていく。
黒い毛が抜け降り始めると、魔物同士でグルーミングをはじめ、黒い毛が抜け落ちるに連れ、顔立ちが変わり、目の色が変わり、鋭くとがった爪が剥がれ、その下から可愛らしい爪が覗き、小さな魔物は小さな獣になった。見慣れない動物も混ざっているが、こういう生き物なのだろう。
現在、魔女の家の周りには、魔物と獣と魔物と獣の中間のようなものが入り乱れている。
ルアルは日に日に姿を変え、禍々しい黒い毛はサラサラとした艶のある純白の毛並みと、美しい金色の瞳の狼となった。
何故か胸元の一房だけが黒いままだが、アクセントのような黒い毛は、あの固い毛と異なり、つやつやのサラサラで、これは多分このままで正解なのだろう。
もう一つ、変化があったのが死の森だ。
生まれ変わり、緑の美しい森に――と、言いたいところだが、何故か死の森から黒い草が生え、黒い葉が芽を出して、少しずつ黒の森に変化をしている。
丁度季節は春から夏に移り変わり、ぐんぐんと黒い森が育っている。
リッツの話では森が瘴気を吸うと黒い森に変わるそうだから、瘴気が増えてしまったのか。
それとも巻き戻っているのだろうか。
何故、とは思うが、ぶっちゃけファウリ自身には何の影響も無さそうだし、考えたところでわかるものでも無さそうなので、とりあえず考えることを放棄した。
***
ファウリがティアナグ=ノールへやって来て、三ヵ月が経った。
未だルアルから魔女の家への居住許可はおりないが、毎日少しずつ、ファウリは魔女の家を住みやすく改良していった。
葦と麻紐で編んだラグを敷き、ルアルに手伝って貰いながら、森の中にあった切り株や中が空洞になった丸太を、数日かけて運び込み、拭いたり乾かしたり削ったりして、野暮らしにピッタリの素敵な丸太の椅子と切り株のテーブルを作ったり、大きな鍋の掛かっていたところに薪を集め火を焚いて料理を作ったり、近くの川で魚を釣ったりした。
もう、いつでも野暮らしが出来る。
ルアルからの許可が下りれば、すぐにでもここに住みつくつもりだ。
***
「そろそろ行かないか?」
数日に一度のペースでご厄介になっているリッツの家で夕飯をご馳走になっていたら、唐突にリッツがぶっきらぼうにそういった。
「あ。長居しすぎましたか? ごめんなさい」
リッツの祖母との話が楽しすぎて、つい夢中になってしまった。
そんなに遅い時間になってしまったかと慌てたら、一緒になってリッツが慌てる。
「いや! 違う! そうじゃなくて! 約束してただろ? カロイに行くって!」
「あ――」
いや。
忘れていたわけじゃない。
ちょっとやりたいことが多すぎて先延ばしになっていただけだ。
でも、正直そろそろお金が尽きる。
野暮らしは当然したいが、このまま遊んでいるわけにもいかない。
幸い読み書き計算は出来る。
できれば森で採った何かや、蔓草で編んだ籠を売るとかしてみたかったが、残念ながら売り物に出来るほど、野の果実は大量には採れないし、蔓草の籠も売り物に出来る程の出来栄えではない。
贅沢言ってる場合では無くなってきているのも事実。
いつまでもリッツの家に迷惑もかけられないし。
とりあえず、カロイで仕事を探してみよう。
リコの村でやれる、持ち帰れるような仕事を探して。
「はい、それじゃ、ええと……。明後日、で如何でしょう?」
「明後日か」
「一応、毎朝ルアルが森で待っていてくれるので、私が行かないと心配しそうですし。待っててくれたのに今日は行かないっていうのも悪いかなと思いまして」
「ふぅん。俺も一度見てみたいな。ルアル。聖獣だったんだろ?」
「さぁ……? 真っ白い毛並みの綺麗な狼ですが、ルアルが自分は聖獣だって言ったわけではありませんし、ルアルはルアルです」
ルアルは恐らく聖獣と呼ばれていた獣だろう。
だが、ファウリ自身が周りに勝手に聖女と呼ばれたこともあり、勝手に決めつけたくはなかった。
ルアルは、ルアルだ。
魔女の家へ連れて行ってくれて、魔物からファウリを護るように、毎日送り迎えをしてくれる、大事な友達だ。
いつか、リッツに紹介出来たらいいな、と思った。
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遅くなりましたー><;
切り株のテーブルや穴の開いた倒木を椅子替わり!
出来たら凄く可愛いと思うんですが、実際出来るんでしょうか…。←
ハイ。出来たらいいなー、やりたいなーってな妄想です。(土下座)
次は明日の夜、更新予定です。




