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34,変化

 それから、ファウリは村と魔女の家を行き来する日々が続いた。

 できれば魔女の家に住みたいのだが、魔物は必ず日が暮れる前にファウリを村へと送り返す。

 ファウリも何故か、魔物の言うことは素直に従った。

 そうしなくてはいけないと、自然と思えた。

 魔物が実際に喋った訳ではないが。


 リッツは未だに文句を言いたそうにはしているが、あれから森に行くのを止めることは無くなった。

 流石にファウリが魔物に案内されていると聞いた時は、無茶ぶり過ぎるだろうと、一度決死の覚悟で森まで様子を見に来たらしい。

 けれど、ファウリを迎えに来た魔物は、ファウリの話の通り、ファウリに襲い掛かることもなく、仲良く連れ立って森の奥へと消えていった。

 流石に自分の目で見ては、それ以上否定はできず、とりあえずは黙認してくれるようになった。


 どうのこうので、リッツは優しい。

 街に行った帰りに、そろそろ無くなるだろうと、パンや干し肉などを買ってきてくれる。

 当然お金は支払った。時々ファウリから、買い物を頼むようにもなった。

 

 近いうち、一度一緒にカロイの村へ買い出しに行く約束を交わしている。


 リッツ以外の村人とも、すっかり仲良くなった。

 リコの村の年寄りは、皆物知りだ。

 ファウリは村に戻ると、毎日どこかの老人の家を訪ねるのが日課になった。

 お茶を飲みながら、分からないことは教えてもらう。

 野暮らしをしたいのだと言うと、老人達はこぞってファウリに知恵を授けてくれた。


 薬草の育て方、簡単な料理、葦と麻糸で作る敷物の編み方、麻から糸を作る方法、糸紡ぎ。

 魔女の家の近くにある池には、沢山葦が生えていると教えてくれたのはリッツの祖母だ。


 ひと月も経つ頃には、ファウリも大分この生活に慣れてきて、ハーブでお茶を作ったり、野の草でスープを作ったり、老婆と一緒に糸を紡いだり、老人に教わって椅子を修理したり、葦を使って小さなラグを作れるようになっていた。


 リコの村に来て暫くは姿を見せてくれなかった村周辺の森の動物達も、少しずつファウリの前に姿を見せるようになり、今ではリュクシェ=ペレの動物達のように、果実のある場所を教えてくれたり、肩へ駆けあがってくれたりするようになった。


***


「――あれ……?」


 それは、いつものように魔女の家へとやってきた時のこと。

 いつもは森から出ようとしなかった小さな魔物が数匹、そろりそろりと森から出て、陽だまりの中に姿を見せた。


 最初は光を嫌がるように、少し出ては森に逃げ戻りと繰り返していたが、やがて一匹、二匹と森から出て、案内をしてくれる魔物に倣うように寛ぎ始めた。


 それは、見た目は大分変わってしまってはいるが、大きな丸い耳にヒョロリと長い尾、長くぴんと立った耳に丸い尾、それらの魔物は、元は野鼠や野兎だったのかもしれない。


 影のように黒く、輪郭がぼやける魔物は、野鼠や野兎よりも一回りか二回りほど大きく、見た目は恐ろし気で、ギャァギャァと耳障りな声で鳴くのだが、陽だまりの中を遊ぶように駆け回り、時に数匹集まってくるりと丸まり寝そべる姿や、後ろ足で立ち上がり、こてんと小首を傾げる姿に凶暴な魔物の面影はない。


 ファウリが近づくと、ビクッと身体を振るわせて、威嚇をするように牙を剥き、ぱっと逃げ出してしまうのだが、ファウリが離れるとまた陽だまりへと姿を見せて遊びだす。

 毎日やってくるファウリに慣れただけかもしれない。


 だが、何気にいつも案内をしてくれる魔物も、最初の頃よりも、少しだけ距離が縮んだ気がする。

 気のせいか、体毛も少し色が薄くなってきたように見えないこともない。

 光の中で寝そべっているからだろうか。


「……ぅーん。気のせい? かな?」


 ファウリは首を傾げながら、いつものように魔物に呼ばれるまで、葦を刈ってきたり、ハーブや薬草の世話をして、ゆっくり一日を過ごした。


「ガァゥ」


「ぁ、はい。時間ですね」


 魔物に呼ばれ、ファウリは遣りかけていた葦を潰す作業の手を止めた。

 葦の茎を石で潰し、繊維を解して乾かして、それを麻紐と組み合わせて編んでいくと、素敵なラグが出来るのだ。


 今度は大物に挑戦しようとファウリは張り切っていた。


 それでも、魔物に呼ばれれば途中で手を止める。

 急いで片付けをすると、魔物の傍に駆け寄った。


 ――やっぱり、距離が近づいてる。


 以前は三メートル程距離を開け、ファウリが近づけば同じ距離だけ離れていった魔物は、今は手を伸ばせば触れられそうなほどの距離にいる。少しずつ、少しずつ近づいていたから意識をしていなかったが、大接近ではないだろうか。


「ちょっと距離、近くなりましたね」


「ガゥ」


「もっと仲良くなったら、触らせて下さいますか?」


「ガゥ」


「どうしたらもっと仲良くなれるでしょう?」


「ゥガァゥ」


 とりあえず、近づいてはくれているらしい。

 その内触らせてはくれるようだ。


 仲良くなる方法の答えは、ファウリにも伝わらなかった。


ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!


野暮らしらしくなってきましたw

明日も夜、更新予定です。


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