30,昔語
出来上がった箒を手に、ファウリは一度村へと戻った。
家に入ると、鎧戸も扉も開け放ち、袖を捲って早速作った箒で床を掃く。
サッと掃いたところが綺麗になると、それだけでワクワクとした。
自分で作った箒で、自分で床を掃いて、掃除をしている。
自分は出来るのだと思えた。
何度も掃いて埃を外に掃きだすと、大分すっきりした気がする。
掃除が終われば、また森へと駆けていく。
一つできれば、あれもこれもやってみたい。衝動が抑えられない。
思いつくまま、森に行ってはシダの葉を集め、何度も往復しては家に戻って寝床にするあたりに敷いていく。
何度も繰り返せば、ふかふかとはいかないが、それなりに柔らかい敷物になった。
試しに敷き詰めたシダの葉の上に寝転がってみる。
ちょっとちくちくするが、床よりもずっと快適だ。
「次は……。籠が欲しいな」
蔓草を沢山集めて編み上げれば、素敵な籠になりそうだ。
ファウリはまた森へと駆け出した。
木に巻きついた蔓草を、ナイフで切り取って、クルクル巻いて腕に引っ掛けていく。
ファウリは蔓草を集めながら、ゆっくり森の中を散策した。
所々に野苺は赤い実を沢山実らせているし、至る所で小鳥のさえずりが聞こえてくる。
草は青々と茂り、木漏れ日が綺麗だ。
少しずつ、少しずつ、ファウリは森の奥へと足を進めた。
時折視線を感じることがある。
ファウリが視線を向けても、何もいない。
ガサッと茂みが揺れるから、恐らく何か動物がいるのだろう。
リュクシェ=ペレの森では、森の動物が次々に顔を覗かせてくれたが、ティアナグ=ノールに来てからは、一度も野生の動物を見かけていない。
生き物の気配はある。だが、栗鼠も兎も野鼠さえも見かけない。
単にリュクシェ=ペレが特殊だったのか、それともリッツがいうように、瘴気のせいなのか。
リュクシェ=ペレの動物達のように、近づいて貰えないのがちょっぴり寂しく感じた。
***
翌日、ファウリは集めた蔓草で籠を見様見真似で編み、森で摘んだ野イチゴを持って、村人達に挨拶に行った。
数日とはいえ、村でお世話になるのだ。
ファウリが訪ねていくと、老人達は嬉しそうに眦を下げ、歓迎してくれた。
リコの村は、リッツの祖母だというお婆さん、リッツのお隣のお爺さん、三軒向こうのお婆さん、リッツの四人しかいない。
足腰が弱り、滅多に家から出られないのだとか。
老人たちは寂しかったのか、あれやこれや、ファウリに世話をやき、色々と話して聞かせてくれる。
使い古した桶や、息子夫婦の残していったものだといってシーツや着替えなども分けてくれた。
昔、この辺りの森には、聖獣がいたのだそうだ。
純白の毛並みを持つ美しい聖獣は、しばしば村人の前に姿を見せ、聖獣様にお会いできると良いことがあると言われていた。
話を聞かせてくれたリッツの祖母も、何度か見たことがあると、自慢気に話してくれた。
聖獣のいる森は聖域となり、薬草などが良く育つ。
だが、十年くらい前から、聖獣の姿は、ピタリと見かけなくなり、時を同じくして、森から動物の姿が消え、代わりに今まで見たことのなかった魔物の姿が見られるようになり、今では魔物の被害に怯えるようになり、村からは人の姿が消えていったのだそうだ。
「それはもうねぇ、綺麗な森だったんだよ。あたしが子供の頃はねぇ、森の奥にある川で良く遊んだもんさ。あのあたりにはねぇ、魔女が居たんだよ。それは別嬪の魔女でねぇ、あたしらはよく魔女の家に遊びに行ったもんさ。魔女は聖獣様と仲良しでねぇ、時折聖獣様が魔女の家で寛いでいなさった。聖獣様が魔女と仲良しだってぇのは、子供らだけの秘密でねぇ」
「魔女、ですか? その魔女さんは森の中に住んでいたんですか?」
リッツの家で、リッツのお婆さんからお茶を頂きながら、ファウリは老婆の話に目を輝かせた。
老婆はカラカラと糸車を回しながら、懐かしそうに眼を細める。
「ああ、そうだよ。小さな小屋でねぇ、薬草を育てて薬を作ってた。この村で育ててる薬草も魔女が分けてくれたものなんだ。偏屈な魔女だったけど、あたしら子供はみぃんな、あの魔女が好きだった。物知りでねぇ、あたしらには優しい魔女だった。けど、いつからか魔女はあたしらを拒むようになってねぇ。魔女の家に行こうとしても、魔女の家にたどり着けなくなったんさ。今は魔女のいたあたりは、瘴気にのまれちまって、近づけやしないんだがねぇ」
「魔女の、小屋……」
今も、魔女はそこに住んでいるのだろうか。
薬草を育てていた魔女。聖獣が寛ぐ魔女の家。
行ってみたい。
ファウリは、どうしてもその魔女の家を、見てみたくなっていた。
ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!
投稿ミスりました…っtt
何でだ……。
朝投稿したつもりなのに投稿されていませんでした;
帰宅してみて頭マッシロ…。
大ウソつきですすみませんっ;
お詫びに今日、遅くなるかもしれませんがもう一本、投稿しようと思います;




