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3.旅の準備

 神殿へと送り届けられ、部屋に戻ると、事情を聞いたらしい使用人の一人が、大きめの布製の肩掛け鞄と、平民が着るような服を持ってやってきた。


「聖女様。着替えと鞄をお持ちするよう仰せつかりました。こちらでよろしいでしょうか」


「聖女の任は解かれたので、ファウリとお呼び下さい」


 すかさず突っ込んだがスルーされた。

 使用人はベッドの上に鞄と着替えを並べて置く。


「他に何かご入用のものは御座いますか」


「何かあればその時はお願いいたします。お世話になりました」


 使用人はペコリと頭を下げ、部屋を出て行った。

 あっさりとしたものだ。


 ファウリは鞄を広げてみる。


「うん。悪くないかな」


 他に、下着とシュミーズが一枚ずつ。今着ているものと使いまわせばいいだろう。

 平民の服を着るのは初めてだったが、一人で着替えることが出来た。

 靴も用意してくれていたので履き替える。

 サイズは問題なさそうだ。


 それから、部屋の中にある私物を集めて回った。

 それらを全てベッドの上に並べる。

 といっても、必要最低限のものしか持ってはいない。

 仕事道具を除けば、全部鞄に入れても余るくらいの量だ。


 真っ先に手に取ったのは、一冊の本。

 ある意味、ファウリにとってのバイブルだ。

 『野暮らし公女』という物語。

 意地悪な継母と義姉に虐められた公女が、ある日継母と義姉が自分を殺そうとしていることを知り、家を抜け出し、旅をして、森の木こり小屋で一人で生活をする物語。

 森に散策に来た王子と出会い恋に落ちて結ばれるのだが、そこは正直どうでもいい。


 試行錯誤で一人暮らしをする。その姿に、とても胸が高まった。

 擦り切れるまで、そのシーンだけを何度も繰り返し読み返した。

 彼女のように生きるのが、幼い頃からの夢だった。


 ボロボロの本を、鞄の下に詰め込んだ。

 それから、小さな裁縫セットと、手ぬぐい、ハンカチ。櫛が一つ。

 残りは全て纏めて机の上へ置いた。


 豪華な部屋は、いつもと何も変わらない。

 十年以上過ごしてきて、私物と言えるのは僅かこれだけ。


「……。水筒が必要かな……」


 公女の本には、旅の途中、飲み水が無く、農家のおばさんに空き瓶を貰い、井戸の水を汲むシーンがあった。彼女のように、空き瓶を水筒代わりにしよう。


 ファウリはいそいそと用意して貰ったフード付きのマントを羽織り、鞄を肩にかけた。

 鏡に映る自分の姿は、物語の主人公のようで、これから冒険が始まるのだと、期待に胸が高鳴る。

 聖女宮とは、これでお別れ。

 長い年月を過ごした部屋に、一度ぺこりと頭を下げて、ファウリは意気揚々と部屋を出た。



***


 ファウリのいた聖女宮は、神殿の奥にある。

 観音開きの大きな扉の前には、常に護衛の騎士が控え、限られた者以外、中に入ることは許されない。

 同時に、聖女宮に居を構えるファウリもまた、自由に聖女宮から出ることは許されなかった。

 書庫と一日の大半を過ごす祈りの間、日光浴の為の小さな庭と、自分の部屋。

 ファウリが自由に歩けるのは、それだけだった。

 自由といっても、部屋を一歩出れば、常に護衛の騎士が付き添うため、実質自由が許されるのは、自分の部屋の中だけになる。


 部屋を出ると、いつものように扉の脇で胸に手を当て騎士の礼を取っていた護衛騎士が、小さく首を傾けた。


「もうお支度は宜しいのですか? お荷物は……それだけ?」


 初めてまともに話しかけられた。ちょっと嬉しい。


「はい。お世話になりました。それと、空き瓶を頂きたいのですが、どちらに行けば宜しいでしょうか」


「空き瓶、で御座いますか? ……食堂に行けばあるかとは思いますが。お持ちしましょうか?」


「いいえ。自分で、貰いに行きたいです。食堂まで、案内をして頂けますか?」


「畏まりました。ご案内いたします」


 護衛の騎士は、トン、と胸に手を当て、いつものように頭を下げた。


ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!

見に来て頂けて嬉しいですw


次は明日、朝8時くらい。投稿予定です!

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