表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

23,国境門

「もう、宜しいですか?」


 ぐずぐずと泣きながら、馬車が見えなくなるまで見送ったファウリに、横に控えていたティアナグ=ノールの騎士が、気づかわし気に声を掛けた。


 ごし、っと袖で涙を拭い、ファウリは何とか笑みを浮かべる。

 いつまでも、泣いてばかりはいられない。


「――はい、もう、気が済みました。有難うございます」


 ファウリがペコリと頭を下げると、騎士はこちらへ、とファウリを促し歩き出した。


 ファウリがいる場所は、一般の入国者とは異なり、脇道に逸れた場所にある『引き渡しの門』だ。

 当然罪人の受け渡しに使われる門の為、ティアナグ=ノールの騎士も、ファウリが国外追放を受けた罪人であると認識している。


 連れていかれた詰め所で手荷物は検査するからと持っていかれ、受付にいた騎士が、ハーツから手渡された書類を確認するのを眺めて待つ。


「――虚偽罪?」


 書類を確認していた騎士が顔を上げ、まじまじとファウリを眺めた。


「虚偽罪なんですね。私」


 まぁ、偽聖女ということらしいから、そうなるのかと、ファウリは目を真っ赤に腫らしたまま、ふむふむと頷いた。


「――国を欺いたとありますが」


「欺いたわけではないのですが」


「報告書には、身分を偽ったとあります」


「偽ったのではなく、能力があると思いこまれて親元を引き離されたのですが、能力が無かったので追放されました」


 聖女だったことを告げても良いのか迷ったが、あえて身分をというあたり、報告書には記載されていないのだろう。ここで迂闊に聖女でしたといって面倒なことになるよりも、報告書に便乗し、言葉を濁すことにした。


「……それはまた。お気の毒に」


 ポン。騎士が書類に印を押す。

 別の騎士に書類が渡され、入れ替わりのように検査を終えた荷物が戻ってきた。

 違法性があるものが見つかれば、そのまま没収となり、牢獄へ一直線だが、ファウリはそもそも必要最低限の持ち物しかない。問題なく通過した。


「特に問題は無さそうですね。リュクシェ=ペレの護送騎士からも、問題行動無しと報告がありました。リュクシェ=ペレへの入国は禁止されますが、それ以外は自由になさって結構ですよ」


「有難うございます」


 ファウリがペコリと頭を下げると、別の騎士が近づいてきた。


「それでは出口までご案内します。どうぞ」


 ファウリはペコリと受付の騎士に頭を下げると、鞄を斜めにかけて、案内の騎士の後に続いた。


***


 ティアナグ=ノールと、リュクシェ=ペレの国境にある街、レピドクローサは、両国を跨る街だ。

 元々レピドクローサ、というのは、古代大陸語で『国境門』を意味する。

 両国とも、国境に聳える門から次の街までは距離がある。

 今でこそ友好国となっているが、数百年前まで、リュクシェ=ペレとティアナグ=ノールは度々戦争を起こしていた。


 街に被害を及ぼさないようにしたいのはどちらも同じで、両国の間には深い森が横たわっている。その為、国境門から街までは、丸一日有するほどに距離があった。


 それを不便に思った商人達が、国境門の周りに屋台を立て、商売を始めたのが切っ掛けらしい。

 今では門を隔てた両国の門から続く街道の脇に家が立ち並び、宿屋ができ、店ができ、ちょっとした街になっている。今でこそレピドクローサという名で浸透しているが、本来街ではなかった街、それがレピドクローサだった。


 国境門の中に作られた詰め所を出ると、騎士が街道の先を指さした。


「次の街へ向かうなら、街道を真っすぐ進むと、乗合馬車が出ています。それを使えば次の村までいけるので、そこで馬車を乗り換えて下さい。明日にはカロイの街に着きます」


「わかりました。有難うございます」


 ファウリはペコリと頭を下げると、言われた通り、乗合馬車の停留所へと向かった。

 幸いパンも水も、まだたっぷりある。今は、レピドクローサから離れたかった。

 ここにいると、ハーツを思い出してしまう。焦がれてしまう。足が止まってしまいそうだった。


 乗合馬車は、すぐに見つかった。

 幌のついた馬車に、何人も人が乗っている。


「すみません。馬車に乗りたいんですが」


「ああ、六ピアニールだよ」


 ファウリが五ルース銅貨と一ピアニール銅貨を一枚ずつ、貰った袋から取り出して御者に差し出すと、御者が顎をしゃくった。先に乗り込んだ男に倣い、ファウリも手すりに手を掛けて馬車へと乗り込む。

 

 大勢人がいるのに、話せない。

 あんなに沢山会話を交わしてきたのに、まるで旅立つ前に戻ったようだった。

 ハーツが居たらと浮かぶ考えを、頭を振って振り払う。


 今は、考えない。思い出すと、泣いてしまいそうだから。

ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!


体調が戻ってないので、ちょっと更新がマッタリになります;

とりあえず、次の更新、明日の朝には行けるかな? 頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ