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17,盗賊

 早めに馬車へと乗り込んだ二人は、ガタゴトとティアナグ=ノールを目指す。

 ちなみに、ハーツの指先への口づけに対するファウリの反応は、照れるでも驚くでもなく、いつも通りのにこにこで「よろしくお願いします!」との事だった。


 よくよく考えれば、ファウリは聖女だ。

 滅多に神殿から出ないファウリに目通りが叶うのは要人ばかり。

 挨拶に指先への口づけはセオリーだ。


 つまり、ファウリにとって指先への口づけ程度はただの挨拶感覚なのだろう。

 ちょっぴり頬を赤らめるのを期待したハーツだが、怒られたり気持ち悪がられるよりはマシと気持ちを切り替える。

 調子に乗ってはいけない。お世辞にもモテるタイプではないのだ。


「野暮らしをするなら、洗濯のやり方や料理なんかも覚えた方が良いですね。ティアナグ=ノールについたら、街に洗濯場があると思います。洗濯場はどこですかって、その辺の人に聞けば、知っていたら教えてくれると思いますよ。洗濯場は平民女性の社交場です。ご婦人方と親しくなれれば、色々と教えてくれるでしょう」


「洗濯場……。そういうのがあるんですね」


 馬車の中で、ハーツは思いつく限り、野暮らしに必要になりそうなことをアドバイスした。

 いってハーツも『一応』貴族の子息だ。平民の暮らしに詳しいわけではない。

 騎士という立場があるから、野宿などの経験もそこそこあるから知っているに過ぎない。

 貴族子息といえど、ハーツの家は男爵家で、ハーツはそこの三男坊だ。

 家は兄が継ぐし、持てても一代限りの騎士爵か、平民落ちするかの二択なのだが。


 ティアナグ=ノールに近づくにつれ、山道が増えてきた。

 道も大分荒れている。窓のすぐ外が崖になっていることもあり、ファウリは怯えて縮こまっていた。


「王都から大分離れましたからね。そろそろ危険な地域になります。この先盗賊が出たり、魔物が出たりするかもしれません」


「大丈夫でしょうか……」


「ファウリ様の事は、命にかえてもお守りするので」


「かえないでください。ハーツさんが危なくなるのも嫌です」


「では、ファウリ様の事は必ず守ります。自分も怪我をしないように頑張ります」


「お願いします」


 ペコリと頭を下げるファウリに、ハーツが可笑しそうに笑う。


「とりあえず、何かあったら、馬車の椅子から降りて身を屈めていてください。決して馬車の外には出ないように。一応、護身の為、ナイフだけは持っていてください」


「わ、わかりました」


 ぷるぷると振るえて、慌てて鞄からナイフを取り出すファウリに、脅かしすぎたかと苦笑する。


 だが、話しておいて良かったと思うのは、次の野宿ポイントになる場所に、後小一時間程で着くといった頃だった。


***


「旦那ァッ! 囲まれやしたぁッ!!」


 普段無口な御者が叫んだのは、岩がごつごつとせり出した谷を進んでいる時だった。


 馬が嘶き、ぐんっと馬車の速度が上がる。

 ゴツゴツとした岩に車輪を取られ、馬車の中はまるで暴れ馬に乗ったように、とても座っていられない。


 悲鳴をあげそうになったファウリの口をハーツが抑えた。

 座席からずり落ちて必死に座席にしがみ付くファウリを、ハーツが覆いかぶさるように守る。


「出来るだけ開けた場所まで頼む!!」


「わかりやしたぁッ!!」


 馬車のすぐ傍を、幾つも馬の蹄の音が響く。

 卑下したような嗤い声、がらの悪い雄叫び、煽るような声、声、声。

 時々馬上から馬車を蹴り飛ばしているのだろうか。

 ガンっと大きな音と共に馬車が傾ぐ。


「叫んでは駄目ですよ。女性がいると気づかれれば、やつらはあなたに狙いを定めます。良いですか? 馬車が止まって俺が外に出たら、すぐに扉を閉めて閂をかけて下さい。馬車の取っ手の脇にある棒を取っ手に差し込むように突っ込むんです。出来ますね?」


「はいっ!」


 紙のように青ざめながらも、ファウリは気丈に答え、そろりと閂へ手を伸ばした。


 甲高い馬の嘶きと共に、馬車がガタンと止まる。

 同時に上がる複数の男の鬨の声。ガタガタと馬車が揺れる。


 あげそうになる悲鳴を、片手で口を押えて堪えしっかり閂を手に取った。

 コクリ、とファウリが頷くのと同時、ガチャっと勢いよく扉が開いた。

 ハーツが飛び出しざまに剣を抜き、袈裟切りに剣を一閃させると、正面にいた男を蹴り飛ばし、馬車の外に躍り出る。


 ファウリはとびかかるようにして扉の取っ手を掴むと、後ろにひっくり返るようにして急いで扉をしめた。


 言われた通り、震える手で閂だと言われた木の棒を馬車の取っ手の間に押し込む。


「おらぁッ!」「うらぁッ!!」


 乱暴な声を上げながら、馬車が何度も激しく蹴り飛ばされる。

 剣の打ち合う音、断末魔の叫び。

 何度も蹴られる大きな音。激しく揺れる馬車、馬の嘶き。

 恐怖でパニックになる。呼吸が上手く出来ない。歯がガチガチと音を立てる。

 掴んだナイフも、上手く握れない。

 全身がぶるぶると震える。

 必死に耳を押さえ、目を瞑り、恐怖に耐える。


 嫌。怖い。やめて、やめて、やめて。ハーツさん、ハーツさん、ハーツさん――――


 誰か。


 誰か 助けて――――!!



 ファウリの頭の中で、何かが白く弾けた気がした。




ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!

PV数、3000を超えましたーっ☆

沢山の方が見て下さって、感謝感謝です! 嬉しい~~~っw


昨日、後2本でティアナグ=ノールとお伝えしたのですが…。

ちょ…無理ぽ…;伸びそうです…(土下座)


今日はちょっと頑張りたいところ。

お昼にもう一本、上げようと思います!


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