12,頑張る、頑張る。
パチパチと爆ぜる焚火の前で、遅めの昼食を取る。
初日に渡された黒パンだ。
「――だから、最低限のものは購入する方が良いかと思います。次の街に行ったら、少し買い物をしましょう」
「最低限のものって何があれば良いですか?」
ハーツは、ん、と少し首を傾け、視線を上にあげて、指を折りながら必要なものを挙げていった。
「そうですね。さっきお見せした火をおこす点火具、ケットも無いと夜は冷えますよ。ナイフも必要ですね」
「わかりました」
今度はファウリも素直に頷いた。
「ティアナグ=ノールについたら、真っ先に必ず街を探してください。死んだら夢も叶いませんよ」
「わ……わかりました……」
「街の近くにも森はあります。街の近くの森なら比較的安全かと。森には獣は勿論、魔物も出ます。危険な場所もたくさんあります。正直街で暮らしてほしいとは思っていますが、どうしてもというなら、せめて街の近くになさってください。心配です」
「ぅ。わかりました……」
「――今日は宿に泊まりますが、明日は野宿ですよ」
「わかり――野宿! 楽しみです!!」
ぱぁっと笑みを浮かべるファウリに、ハーツは微笑まし気に笑みを深めた。
***
少し遅い出発になったが、馬車は順調にガタゴト進み、夜も更けて来たころ、ようやく次の街へと着いた。
鉄格子の嵌った部屋は、前回よりも質素な部屋だ。
身体を拭く間、ハーツは部屋の外に出て、食事をもって戻って来る。
そして、前回同様、またテーブルを寄せ合って、食事を取った。
「食事が終ったら、ナイフの使い方をお教えしましょう。とりあえず、昼間枝を一本持って来たので、まずはこれを切る練習で」
ハーツが荷物の方を指さすのを目で追って、少し心配そうにファウリは眉を下げた。
「私がナイフを使っても、ハーツさん、叱られませんか? 一応名目上、私は罪人です。ハーツさんは護送の騎士でしょう?」
「本来は駄目ですけれどね。でも、例えばファウリさんが受け取ったナイフで俺を襲ってきたとしても、何かできると思います? 伊達に騎士はやっていません」
ふふん、と少しおどけるようにハーツが胸を張る。
ファウリはつられて噴き出した。
「ふふふっ、そうですね! 多分持たされても何も出来ないと思います」
「だから、心配はいりません。それよりも私はナイフも使えないファウリさんが野暮らしする方がよほどの恐怖です」
「そ……そんなにですか?」
「そんなにです。だから頑張って練習をしてください」
「が……頑張ります!」
***
食事のトレイを下げた後、ハーツは持っていた荷物からケットを取り出し、格子越しにファウリ側の床に敷いた。
その上に座るように促すと、鞄から顔を覗かせていた木の枝と、使い込んだナイフを取り出し、これまた格子越しにファウリに差し出す。
言われるがままに、少し遠慮がちにケットの上に座ったファウリは、枝とナイフを受け取って、緊張気味だ。
「枝はまだ置いておいて良いですよ。まずはナイフの握り方からです」
「握り方? 普通に持つのでは無いんですね」
ナイフのグリップをぎゅっと握っていたファウリは、まじまじとナイフに視線を落とした。
「はい。まず、掌を上に向けて、人差し指と親指の付け根で挟みます。そう。で、小指と薬指と中指の三本で握って下さい。――うん、そうです。親指と人差し指は軽く添える程度ですね」
「ぁ。意外と安定するんですね。三本だけでなんて落としてしまうかと思いました」
へぇぇ、っとファウリが面白そうに、三本の指でグリップを握ったり開いたりと感覚を確かめる。
「はい。じゃ、やってみましょうか。こっちの枝を持って、そう。で、ナイフを当てて――はい、ストップ」
「え?」
しゃがんだ格好で、力を入れようと肘を引いた格好で枝にナイフを当てたファウリは、そのままの姿勢でハーツを見上げた。
「勢いあまってすぱーんっと切っちゃうと、足まで切っちゃいますよ? 切るのは足の横でした方が良いです」
「足……。ひぇっ」
言われてみて気づいたらしい。きょとんとしていたファウリは、慌てて枝を足の外側に持っていった。
「そうそう。で、親指をこう添えて…そうです、で、枝を持つ手の親指もこう添えて……」
「こ、こうですか? ぅっ。なんか怖い……」
「大丈夫大丈夫。そのままぐっと親指に力を入れて」
「んーーっ、こう……」
ぐっと力を入れると、ナイフが枝を削ぐように食い込んでいく。
「そうそう、その調子です」
「はいっ! あ、これ、ハーツさんのケットに木くずが付いてしまいます」
「大丈夫ですよ。叩けば取れます。はい、続けて」
「はいっ」
かなり不器用な手つきだが、何とか枝を斜めにそぎ落とすことが出来た。
「出来ました!」
「はい、そんな感じです。ファウリさんのナイフも買わないとですね。明日は予定をずらして街で少し買い物をしましょう。とりあえず、ナイフの使い方、食べられる木の実の見分け方、この辺は最低でもマスターしないと、野暮らしは厳しいかと」
「が……頑張ります!」
ぐ、と両手の拳を握り、ふんす、っと気合を入れてみせるファウリは、最早聖女の面影はない。
「食べられる木の実やキノコ、どのくらい知識がありますか?」
「ある程度の食べられる木の実は頭に入っています。スグリや野苺、山葡萄にヤマモモ、クコにサンザシ、グミにアケビ・・・・・・。ただ、実物を見たことがありません。キノコは、ヒラタケとかシメジとか……?」
「とりあえず、木の実やきのこや野草は、一見美味しそうに見えても毒のあるものが多いんです。食べられるものによく似ているけれど毒だった、なんてことも少なくありません。明日の野宿の時に、其方もお教えしますね。ナイフの使い方もその時にお教えします。やることがたくさんありますが大丈夫ですか?」
「頑張ります!」
「明日も焚火はファウリさんにやって頂きますよ?」
「頑張ります!」
頑張る、頑張る、頑張るだ。
楽しそうに、頑張るファウリ。
ティアナグ=ノールまでは、順当にいけば後四日。野暮らしが出来るスキルを身に着けるには、あまりに少ない時間だが、なんだかんだとやり遂げてしまうかもしれない。
気づけばすっかり絆されている自分に、ハーツは小さく苦笑した。
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ちょっと遅くなりました、お待たせしてごめんなさい!
んで……。
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(どんどんぱふぱふー☆)
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皆様のお陰です!
次は~~、ごめんなさい!早ければ明日朝8時、遅くても明日中には更新します><;
何とか朝8時、間に合うように頑張りまーっす!
※誤字と言葉が足りないところがあったのでちょっと修正しました><;




