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1.無能の聖女

「其方が聖女ではないとの報告があったが、誠か?」


「……はい?」


 朝っぱらから神官に呼び出され、着の身着のまま馬車に詰め込まれ、謁見の間に通されて、ずらりとお偉いさんが並ぶ中、国王陛下からこう問われた。

 ちらっと視線を流すと、ずらっと並ぶお偉いさんの中に、枢機卿の姿がある。

 一月ほど前に、先代の枢機卿から代替わりをしたばかりの大司教だ。

 枢機卿は眉を寄せ、険しい顔で目を閉じている。

 助けは期待できないらしい。


 意味が分からず、ファウリはこてん、と首を傾ける。

 別にファウリの自己申告で聖女になったわけじゃない。

 誠かと問われても困る。

 寧ろ枢機卿がそこにいるのだから、そちらに聞いて頂きたい。


「そなたは聖女としての力は何か発現したか?」


「……していないと思います」


 少し考え、そう答えた。

 何もないわけではないが、それが何かの役に立ったのか、と問われれば否だ。

 少なくとも、物語に描かれる聖女のような、瞬時に傷を癒したり未来を予言したり植物をぽんぽん生やしたり聖なる力を武器に付与したり魔物を一瞬で塵にするような力は無いのは確かだ。


「そなたが神殿に連れて来られたのは、何歳であったか」


「三歳だったと聞いています」


「幾つになった」


「十六です」


 何故、ファウリが聖女と言われるようになったのか。

 それは、ファウリが三歳の時まで遡る。

 この国では、三歳になると神殿や教会で洗礼を受ける。

 女神の水晶球に触れ、女神様のご加護を頂くのが習わしだ。

 因みにご加護といっても何かスキルが得られるわけではなく、単なる儀式的なものだ。

 洗礼の儀を迎えると、僅かだが祝い金が支給される。

 だから、貧しくても皆洗礼を受ける。


 ファウリもまた、両親に連れられて、村の小さな教会で洗礼を受けた。

 が、ファウリが水晶球に触れた途端、水晶球がものすごく光ったのだそうだ。

 因みに今でも女神の水晶球に触ると、目が開けられないくらい、ぺかーっと光る。

 何故かは分からない。

 他の人が触れても、水晶は水晶だ。何も起こらない。

 他の水晶に触れても光らない。

 神殿に置かれた女神の水晶だけが光る。


 分かるのは、普通は光ったりする代物じゃない、ということだ。

 突然の珍事に村は大騒ぎになり、すぐに大きな町から神官がやってきて、女神の水晶球を光らせた娘、ということで、この娘は聖女だろう、となったらしい。


 ファウリはあれよあれよという間に親元から離されて、馬車に詰め込まれ、王都にある大神殿へと連れて来られ、以降十三年間、ずっと神殿の奥で、ひっそりと生きてきた。


 聖女だと皆言うけれど、どの辺が聖女なのかは不明。

 聖なる力どころか、普通の魔法すら使えない。

 そもそも魔力は貴族しか持たない。平民のファウリにあるわけがない。

 祈ったところで何が変わったかもわからない。多分何も変わってないんじゃないだろうか。


 ただ女神の水晶球が光るというだけ。

 それ以外は、何もない、ただの平民の娘だ。


 自分で聖女だと言ったことはないし、何気に皆が聖女様と呼ぶから、聖女様が固有名詞みたいになっていただけなのだが。


 国王陛下が眉を寄せる。


「そなたが女神の水晶球に触れると、水晶が光る。だが、それ以外に、何か聖女の力が使えるわけではない。魔力もない。何か力を感じたこともない。相違ないか?」


「はい」


 その通りなので頷くと、王様がますます苦い顔になり、ふぅ、と俯いて目を閉じた。


「……素直に認めるのは良い心がけだが、聖女としての力が発現しないそなたを、これ以上聖女と認めることはできぬ。民の期待を裏切り、平民の身でありながら、民の血税で私腹を肥やし、国を欺いた罪は重い。本来であれば極刑に処するところだが、女神の水晶が光るというのは事実であると報告を受けている。因ってそなたは聖女の身分剥奪、国外追放とする。連れていけ」


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