テンプレート異世界転生が、コンプライアンス的にOutになった時……
ジャンルは『ヒューマン・ドラマ』にしています。
天気予報は全国的に「傘はいらない」、確かにそう言っていた。なのに、彼の歩いている遊歩道は、天上の神が手にした水瓶の中身をひっくり返してしまったかのような豪雨だ。
切る機会を失い、伸びまくった髪は、彼の視界を狭めるように顔にはりつき、いつ洗濯したのかもわからない、しわくちゃの茶色の服は、行動を制限するかのように肌に吸い付く。
一流の大学に入り、彼女ができたまでは良かったが……その後、100社以上の就職面接に失敗した彼は、彼女にも振られ、意気消沈しながらこの場所を歩いている。
そんな豪雨の中、1人の会社員が、手に持ったリクルートカバンを、無意味と分かっていながらも頭上にかざし、彼の隣を走り抜けて行った。当然、彼を気に止めることは無い。
ごく一般的な彼の人生は、一体、どこで狂ってしまったのか。……そんなの、誰にもわからない。
定まらない思考回路の中、濡鼠でとぼとぼと歩いていた彼は、ある場所で、ふと、立ち止まった。……それは、小さな一軒の電気量販店だった。
その電気量販店は、遊歩道を通る人を狙って、ガラス越しにテレビを陳列し、客を呼び込む努力をしていた。そして、そのテレビ画面からは、今流行りの『異世界転生系』のアニメが映し出されていた。
あまりアニメに興味の無い彼でも、『異世界転生系』の内容はそれなりに知っていた。
……それが、まずかった……。
しばしの間、引き込まれるように『異世界転生系』のアニメを見ていた彼は、突如、身体を車の行き交う道路の方に向け、ふらふらと歩き出した。
……かと思うと、縁石の前でに立ち止まり、自身の右手側をじっと見つめる。まるで、何かを待っているかのように。
数分後、その何かは、ヘッドライトで彼を強く照らしながらやってきた。彼はそれを確認すると、まるで今生の別れのように道路に足を踏み出した。
……大型トラックの前に……。
「……と、今言った冒頭の部分、全部書き直して下さいね」
担当編集の『土暮白代』(28歳・女性・彼女募集中)は、そう言うとともに、手にしている原稿用紙を、原作者で女流小説家でもある『ダイヤモンド・ダス娘』(26歳・独身)の背中めがけ、放り投げる。
仕事机に向かって執筆中であったダス娘は、顔を上げ、白代の方を振り返ると、「本気で?」と言った顔を見せながら、こう言った。
「また、そんな無理難題いうー」
……おしまい。
いや、本当はですね、書き直しになった冒頭部分をめぐって、ゆり百合な展開になるはずだったんですがね……書けませんでした。実力不足。
―――おしまい