インキンの錬金術師
Aナレ:『ど素人がはじめる錬金術』
というかなり怪しげな広告に釣られて、ビジネス街新橋の雑居ビルにある事務所の扉を開いた。
入り口のカウンターには、派手なポップで「キミもホリエモンやプペルになれる!!」というポスターが貼ってある。
いやホリエモンはともかくプペルそのものにはならんだろ。
呼び鈴を鳴らすと、『パフッ!パフッ!』とかいういかにも安っぽい音がして、
サカゼンの吊るし物のような背広に身をまとったデブが現れた。
B「あ、お客さんっすか?」
Aナレ:フケだらけの髪の毛を掻きむしりながら、左手はずっとズボンの中に入れてもぞもぞと動かしている。
来るんじゃ無かった。適当に話は切り上げて帰ろっと。
B「で、どういうご用件ですか、投資ですか?」
A「ああ、投資もいいですね。他にはどんなコースが」
B「例えば投資とか」
A「他には」
B「……投資」
Aナレ:なんだコイツ。無能か?
A「いやそうじゃなくて、投資の他には何があるんすか?」
B「と、投資、息切れ、めまいとか」
A「救心きゅうしんかっ!」
Aナレ:ついイラッとして大きな声を出してしまった。
B「お客さん、警察呼びますよ」
A「いやいや、アンタもしかして投資の事しか知らないの?」
B「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
Aナレ:かってにガキにされてしまった。
A「それじゃ、例えばプペルみたいにお金集めたりとかはないんですか」
B「クラウドハンティングですね」
Aナレ:いやクラウドファンディングだろ! 雲を狩ってどうするんじゃい。
A「ハンティングでもファンディングでもいいんで、それについて教えて下さいよ」
B「ああ、それはですねえ。プペルみたいな有名なジブリアニメをですね」
A「は? プペルはジブリじゃないっしょ!」
B「え? プペルの動く城とか言いません?」
A「聞いたことないぞ」
B「崖の上のプペルでしたっけ」
Aナレ:ダメだこりゃ。
A「もしかして、アニメはともかく、アンタは投資のことについても何も知らないとか」
B「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
Aナレ:またかよっ!
B「まあまあ、ここはひとつ、お客様のご要望をうかがうアンケートでも記入していただけませんか」
Aナレ:最初から出さんかいっ!
その男は、ズボンの股間から筆記用具を出し、オレに渡そうとした。
掻いてただろ、絶対それで掻いてただろ。
A「いや、それは間に合ってます。自分のペン使うんで」
B「そうですか」
A「アンタそれで股間を掻いてたでしょ」
B「そうなんですよ、この反対側の丸い所が丁度気持ちよくて…… じゃないだろ、掻いてませんよ、無礼な!」
Aナレ:これがほんとのインキン無礼ってか。言ってる場合じゃないし
A「エーっと住所と、緊急連絡先は携帯でいいっすね、年収と貯金額?」
B「あ、だいたいでいいですよ、個人情報でもありますし」
A「銀行口座と暗証番号?? 書けるわけないッショ」
Aナレ:オレは慌てて手を止めた。
B「(・д・)チッ……いやそれは悪徳業者に引っ掛からないためのトラップみたいなもんで」
A「それにしては(・д・)チッとか聞こえたんですけど。えーっとよくやるゲームとよくみる動画? こんなの関係あるんっすか?」
B「ああ、お客様の性格を分析するために大変重要です」
A「好きなAV女優とオ〇ニーの回数!? 書けるかい、こんなもん!!」
B「ちなみにワタシは◯原亜衣ちゃんですが」
Aナレ:キモっ 自分の事はおいといて、なんか人から聞くとキモっ
B「えーっとそれではあなたに合う投資は…… FXですね」
Aナレ:S〇Xじゃないんかい、だいたいこの人FXが何だかぜったい分かってないだろ。
A「あの、アンタFXって何だか分かってるんすか?」
B「失礼な、外国為替ですよ」
Aナレ:なんだ知ってんのか。
A「じゃあ為替って何ですか?」
B「え…… 買わせること、とか? なんちゃってww」
Aナレ:もういいよ!
A「分かりました、もう帰ります」
B「あ、もうお帰りですか(ラッキー)」
Aナレ:いまラッキーとか言わなかったか、言っただろ!
B「ではコンサルタント料本日は十万円になります」
A「いやいやいや! まだなにも教えてもらってないけど、座っただけでぼったくりバーかよ!」
B「じゃあ千円で」
Aナレ:極端に値引かれると思わず払ってしまいそうになる。
A「アンタさあ、もしかして会社でも潰れて、脱サラで、それこそホリエモンにでも触発されて昨日今日始めたんじゃないだろうな!」
B「ギクッ、君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
A「そうなんかいっ! インキンがインチキやってたんかいっ」
B「お客さんよく分かりましたね、もしかしてとーし(透視)能力?」
A「だれでも分かるよっ!」
〈了〉