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魔術戦核 改  作者: 桜澤 那水咲
2/2

地獄

「ミズハ、そろそろ撤退よ。」


ふと自分の名前を呼ばれ、ミズハは獣の死体から飛び降り、血が滴る刀をしまった。


「なにボーッとしてるの?大丈夫?」


「いや、少し疲れただけです。問題ありません。」


先輩は奇妙そうにミズハを見るが、それ以上は何も言わなかった。

ミズハの住む天王帝国では、日々獣の出現に備え、人々を守るために戦っている。


「今回の作戦でも、死者が出ましたね。」


「仕方ないさ、今回は村が襲われたんだからな。」


死体処理をしている兵士が残念そうに死体を運んでいる。

いくら魔法が使えるからといっても所詮は人間だ、他の種族より劣っているのは仕方ないことだ。


「酷い匂いだな。ミズハ」


「アルファ、無事だったのね。」


「大丈夫なのか?浮かない顔をしているが」


人間と獣、血の匂いが酷すぎるのだ。

いかにも戦場という匂いだ。


「別に、いつも通りよ。」


「お前も相変わらずの性格だな。」


アルファ・フェナザードはミズハの任務のパートナーであり、天王帝国の総隊長を務めているライ隊長の息子でもある。


このまま二人で帰ろうとしていると、背後から声をかけられた。


「そこの二人、少しいいかい?」


声をかけて来たのは、少し年配の男だった。

だが、おかしいことに兵士では無く、国民らしき服装をしていた。


「こんな所に一般市民の方がどうされましたか。ここは立ち入り禁止のはずですが?」


アルファが眉間に皺を寄せて、男に聞き返す。


「今回、襲撃された村の者だ。警報が鳴って避難したんだが、人混みのせいで妻と娘とはぐれちまったんだ。いくら探しても見当たらないんだ。」



「避難した村人の名簿は確認しましたか?」


「それが、何回確認しても名前が無いんだ!二人とも」


名簿に載っていないなら、すでに死んでいる可能性が高いだろう。


「お願いだ、探してくれないか、お願いだ!」


男は必死に頭を下げて二人にお願いする。

だが命令外の行動は違反になる。

この現実を一言で表すなら地獄だろう。


「私が行きましょう。」


「ミズハ!」


名乗りを上げたのはミズハだった。アルファは、まさかという顔でミズハを見るが、すでに意思が決まっている顔をしていた。


「正気か、命令違反だぞ。」


「もう決めたから、いい子のボーイはここに居ていいよ。」


「誰がボーイだ!」


止めるアルファを無視して、ミズハは早速何処かに行こうとする。


「本当に、本当にいいのか!」


男は顔をあげると、希望を取り戻した眼差しをしていた。


「はい。ですが、どうな状態でも、貴方に娘さんと奥さんを受け入れてあげられる覚悟はますか?」


ミズハはまるで試すように残酷なことを言った。

だが、その瞳はまるで男に何かを求めるようだった。

それを聞いた男は怒るかと思ったが、静かに目を瞑って答えた。



「…ああ、ちゃんとお帰りって言うよ。どんな状態でも。」



男は切ない笑顔を作って、涙を浮かべていた。

その言葉を聞いたミズハは、少し驚いたように目を見開き、頷いた。


「分かりました。では探しに行ってきます。」


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