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第5話「筆頭継嗣は見た」


 ……なんなんだこの女は!?


 王都からやってきた公爵家のデカい女は率直に言って異常だった。

 朝から町に魔物が出たというのに、怯えるどころから加勢を申し出てくるわ、自前の巨大な武器を軽々と担いで見せるわ。


 そして今、デカ女は、俺の目の前で、兄上たちの仇である影熊シャドウベアの剛腕を軽々と受け流している。手にした巨大武器――アホみたいに幅広な刀身の、大剣と称してもなお足りないくらいの巨剣――を片手で自在に操っている。


 王都の“ゴリラ令嬢”もとい“金剛令嬢”について、噂だけは耳にしたことがあった。


 曰く、近衛騎士団長に一対一で完勝した。

 曰く、王宮に忍び込んだ暗殺者集団を全て捕縛した。

 曰く、国王陛下より下賜された聖剣を受け取ったその場でへし折った。


 真偽は定かではないが令嬢にまつわる噂としては規格外なものばかりだった。


 “金剛令嬢”を目の前にして思う。

 噂は全て真実なのではないか、と。


 辺境伯領屈指の腕を持つ兄上たちを殺した影熊の猛烈な攻勢を余裕で捌いているのだから。父上が仇の片割れを任せるのも頷ける。俺では仇を討つどころか、返り討ちが精々だろう。


 デカ女――いや、“金剛令嬢”は手にした巨剣の重さを一切感じさせない華麗なステップで影熊を翻弄していた。ディアナ様は長身でスラリとした体型ではあったが、筋骨隆々というわけでは全くなかった。一体どこに巨剣を軽々と振り回す膂力が備わっているというのか。


「グルアアァァッ!!」


 一向に攻撃の当たらない影熊が業を煮やして突っ込んできた。

 ディアナ様の真剣な横顔の、口元に笑みが浮かんだように見えた。それも一瞬のことだ。膝がしなやかに沈みこむ。飛び出した。あおい瞳がギラリと煌めき、残光を引いた。ディアナ様の長い金髪がなびく。



 金と碧の光の帯は黒い影と交錯した――


 

 ディアナ様は足を滑らせて着地。直後、胴を真っ二つにされた影熊が地面に落下した。その一連の動作があまりにも美しかった。こんなにも心を揺さぶられたことはなかった。この感情はなんだろうか。


 剣に付着した血を斬り払ったディアナ様は俺の方を見て、にこりと微笑んだ。


「アレク様、お怪我はありませんか?」


 あるわけがない。俺は後ろで見ていただけだ。


「はい、大丈夫です」


 ほんの少し前までの俺ならきっと反発して何か文句のような台詞を吐いていたに違いない。


「お見事でし――」


 でした、という直前。

 ディアナ様の背後に潜んでいた闇狼ダークウルフの姿を、俺は視界の端に捉えていた。

 

 ディアナ様に声を掛けても迎撃が間に合うかどうかわからない。

 俺は懐から丸い球を取り出し、自作の投石器スリングショットで打ち出した。球は闇狼の鼻に直撃し、弾けた球の中身を吸い込んだ魔物はのたうちまわった。


 事態に気付き振り返ったディアナ様が止めをさしてくれた。

 今のは危なかった。

 なんとか当たってくれてよかった。

 近づいてきたディアナ様は不思議そうに首を傾げた。


「アレク様、今のは?」

「香辛料を詰めたボールです。殺傷力はありませんが、狼の魔物は鼻が良いですから、効果覿面なのです」

「その腕についた器械? それで球を放ったのですか?」

「あ、はい。自作の……」


 答えながらディアナ様の顔を見上げると、女神のように神々しく、慈愛に溢れた微笑みを湛えていた。


「アレク様、なかなかおやりになりますわね」


 俺はこの時、もっと強くなろうと思った。ディアナ様の隣に立つのにふさわしい男になろうと決意を固めたのだった。


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