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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

荒廃したこの大地で、僕は天使を見つけた

荒廃したこの大地で、僕は天使を見つけた 4

 《アナニエル 拠点基地 A区画》


 白衣を着た男。オールバックの黒髪は水で整えただけで、前髪が数本垂れている。眼鏡はひび割れ、数日剃っていない無精ひげが、男に身なりの手入れなどに無関心だと言う事が伺えた。


 元々ナノマシンの開発でのし上がった企業であるアナニエルは、今世界中にバラまかれているAIを暴走させるウィルスに対してのワクチンを開発している。そもそも、どうやってAIにウィルスが感染するのか。ネットを通じて感染するならば、今頃世界中のAIというAIが暴れまわっているだろう。しかし世界的に見れば、まだ無事なAIの方が多い。ウィルスに感染しているAIというのは、家庭用のメイドタイプが大半。


 男はウィルスの研究を重ねていく内に、とある結論に至った。このウィルスはネットでは無く、空気中のナノマシンを通じて感染拡大しているという事に。

 今現在、世界中にナノマシンを使用した戦略兵器は投下され続けている。その大部分は人間になんらかの異常を齎す物だが、恐らくそれらに使用されたナノマシンが再利用されていると男は睨んでいた。しかし当然、ナノマシンとて第三者が勝手に弄りまわせる物ではない。当然セキュリティは組んである筈だ。


 第三者。男は確実に何者かが仕組んだウィルスだと踏んでいた。一体それは誰なのか。興味は尽きないが、今はウィルスの発生源よりも抑止に尽力せねばならない。根本的な対策が無ければ、この先いつでもAIの暴走に怯えなくてはならなくなる。


『奥田教授、起きてますか?』


 その時、男の居る研究室へと少年の声が響いた。無線機のスピーカーを通して、とあるAIが男に話しかけてきた。


「あぁ、起きてるよ」


『いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きます?』


「興味ない」


 男はデスクトップパソコンの画面から目を離さず言い捨てる。

 少年の声、それはAI。アナニエルが開発した軍事AIの一基、ザラキエル。

 防衛に特化し、今現在、この時もザラキエルは日本と呼ばれたこの国を守る為、自社の戦闘機を数千機管理下に置いて戦い続けている。


『そんな事言わずに、とりあえず聞いて下さい。じゃあ悪いニュースから』


 男は興味無さげにマグカップのコーヒーを手にとり、口へとつける。


『月面基地が乗っ取られました』


 ブフーッ! と盛大にパソコンの画面へとコーヒーをぶちまける男。

 口からボタボタとコーヒーを零しながら、無線機のスピーカーを見つめた。


「ちょ、おい、乗っ取られたとはどういう事だ」


『ハッキングを受けたんですよ。それで一瞬で乗っ取られたんです。テヘペロ』


「防衛に特化したお前を一瞬で突破したと言う事か? そんな馬鹿な話があるか」


『僕だって万能じゃないんですよ。というか語弊がありましたね、乗っ取られたというよりは、本来の持ち主に制御を奪われたって方が正しいです』


 月面基地の本来の持ち主。男は頭を抱える。月面基地は戦争が始まる以前、各国が共同で開発を進めていた物。持ち主と言われても、それは一体誰だと言わざるを得ない。


「お前は何を言ってるんだ……」


『あぁ、これはトップシークレットだったんですけど、今はもう別に関係ないので喋りますが……実は月面基地のセキュリティコアに、とあるAIのコピーを組み込んだんです。偶然ネット上で見つけた超ハイスペックな奴』


「おい、AIを開発中の基地の中枢に組み込んだだと……そんな話聞いてないぞ」


『だからトップシークレットなんですよ。でもそのAIは、人間様が居て始めて機能する補助AIだった……筈なんですけど、なんか独立しちゃったみたいですね』


 そんな馬鹿な話があるか、と男は白衣で口元のコーヒーを拭う。

 しかし男は、ネット上で偶然見つけたAIのコピーと聞いて心当たりがあった。

 半分都市伝説のような物だが。


「まさかとは思うが……そのコピーというのは……」


『流石に察しますか。そうです、ソフィアですよ。レクセクォーツの頭のイカれた研究員が、自分の脳を解析させて作った……あのAIです』


「事実なのか?」


『えぇ。トップシークレットですけど』


 ソフィアのコピー。噂が本当ならば背筋が凍る話だ。何故ならこの戦争事態、そのソフィアが引き起こした物だと噂されているからだ。開戦の切っ掛けとなった、世界中に降り注いだミサイルの引き金を引いたのは、そのAIとされているのだから。


「……いいニュースは?」


『アハハ、悪いニュースから話して良かったです。良いニュースは……その月面基地、アナニエル(僕達)が頂いちゃおうって話ですよ』





 ※





 本日の天気、晴天。

 僕は今、ラスティナと共に道なき道を歩き続けている。瓦礫を踏み越える度、足元から聞こえてくる石と石がこすれ合う音が、何故かヴァスコードの事を思い出させる。


 最初に会ったのは遊園地の地下。そこで眠るヴァスコードが起きて、僕を助けてくれた。それからしばらく一緒に行動して……。


 ヴァスコード怒ってるかな。勝手に居なくなっちゃったから……怒ってるかな。

 でも一緒に居られるわけないじゃないか。僕はAIなんだから。ヴァスコードは今まで僕の事を人間だと接してくれたけど、実はAIでしたー……なんて……。


「はぁ……」


「何よ、溜息なんてついて……元気だしなさい、少年」


「いや……僕、AIだったんだって思うと……なんかやるせなくて……」


「別にいいじゃない。人間より私達の方が色々と便利よ。怪我なんてすぐ治るし、力持ちだし。消したい記憶があれば……ゴミ箱にドラッグするだけでいいんだし」


「えっ、人間ってそれできないの?」


「君は何を言っているんだい? あぁ、そういえばこの前まで人間だと思ってたんだっけ、サラ君は」


 うむぅ。人間だって忘れたい記憶選択してポイっと出来るんじゃないの?

 

「出来るわけないでしょ。人間は勝手に忘れてくだけよ。私達で言う所のデフラグみたいな物ね」


「デフラグって何……?」


「整理整頓。っていうか、そんな話より……ちゃんとカノンの位置確認してる? 見失ったとか言わないでよね」


 僕は今、月面基地からカノンをモニターしている。上空から見つめてるような感じだ。見失う事などまずない。たぶん。


「大丈夫だよ。というか、ラスティナは何でカノンの事追ってるの?」


「今してたのと逆の話になるけど……あの子、作り物の記憶を植え付けられてるのよ」


 作り物の記憶? って何?


「ソフィアのコピーを破壊せよ……みたいな感じの」


「それって……え?! 僕達を殺そうとしてるってこと?!」


「そうよ。カノンの次のターゲットは正宗あたりだと思うから……対敵する前に止めないと……」


 正宗って……僕達と同じコピーだっけ。

 なんか名前カッコイイな、ズルイ。


「その正宗っていうのを……守らないと不味いの?」


「逆よ。正宗と戦ったら、カノンは確実に破壊されるわ。正宗は純粋に戦闘特化のAIよ。ソフィアのハイスペックを全部戦闘に注ぎ込んでる。ヴァスコードもその口だけど」


 そうなのか。でもそれ言ったら……カノンだってそうじゃない。

 あんな物騒な大砲みたいな武器持ってるんだし。下半身は馬だし。


「カノンもそりゃ強いわよ、でも正宗には敵わない。例えるなら、猫とホッキョクグマが正面から相撲とって勝てるかって話よ」


 どんな例えだ。ちょっとよく分からない。

 でも正宗っていうのが相当強いのは分かった。ヴァスコードだって……素手で暴走AIをちぎっては投げってしてたくらいだし……。


「じゃあ、ラスティナはカノンを守ろうとしてるの?」


「可愛い妹だしね。兄妹喧嘩を仲裁するのも姉の役目じゃない? それに私達には……もっと重要な事もあるんだから」


 それは……あれだろうか。母親を殺せっていう……。

 兄妹の喧嘩がダメなら、母親を殺せっていうのも勿論ダメな気がする。

 僕も良く分かってない。


 瓦礫の山をいくつか超えたあたりで、ラスティナは休憩にしよう、と瓦礫に腰かける。

 僕も同じように腰かけつつ、背嚢から水を出して一口。


「ねえ、ラスティナ……」


「何?」


「ヴァスコード……怒ってるかな」


「何が?」


 何がって……僕が突然いなくなっちゃったから……


「まあ、怒るでしょうね。今頃寂しいって泣いちゃってるかも」


「そんなキャラでもないけど……。でも僕がAIだとバレるよりはいいよね……」


「……? なんでAIってバレたらダメなのよ」


 そりゃ……そうでしょうよ。

 僕は人間じゃない、AIだった。あの暴走AIと同じような……


「君ねえ、私だってAIなんですけど?」


「ラスティナはいいじゃん別に……」


「おい」


 でもヴァスコードは駄目なんだ。

 ヴァスコードに失望されたくない。騙してたのかって……言われたくない。

 僕は……人間のままが良かった。


「はぁ……なんで僕……AIなんだろ……」


「そんな議論は無駄ね。誰しも望んだ姿に生まれてくるわけじゃないんだから」


「そりゃそうだけど……そもそも、人間はなんでAIなんて作ったの?」


「生活を便利にするためよ。人間の代わりに仕事してくれる便利な存在が作れるって分かったら……作らざるを得ないじゃない? まあ、それよりも大きいのは……人間の手で人間を作るって事かしら」


 むむ、難しい話わかんない。

 というか人間の手で人間を作るって……もう作ってるじゃん。子供作れるんだし。


「セックス以外でって事よ。まあ、なんでAIを作ったか……か。前にどこぞの偉い学者さんが言った事なんだけど、進化の一端って言われてるわね」


「進化……?」


「そう、長い地球の歴史の中では、あらゆる生物が繁栄と絶滅を繰り返してる。その中で人間の歴史なんてたかだか数千年。でも明らかに今までの地球の歴史とは異色な物だと言わざるを得ないわ」


 異色?

 

「恐竜だって一億六千年近くの間、地球に存在してた。でも人間みたいな進化はしてない。そんなに時間がありながら、掃除機も作って無いんだから」


「そりゃ……トカゲだし……」


「トカゲだって、鉛筆くらい作れるでしょ」


 いや無理だろ。

 っていうか何の話?


「地球の長い歴史の中で言えば……人間の存在は異端だって事よ。こうなると人間は何等かの役目があって、生み出されたと思うのは当然じゃない?」


「役目って……?」


「……AIを作り出す事」


 ほへー……


「マジメに聞いてる?」


「聞いてるけど……なんでそうなるの?」


「歴史上、地球上の生物が絶滅した切っ掛けは宇宙からの飛来物が大半よ。どこぞの星雲が爆発して宇宙線が降り注いだり、ダイレクトに隕石が衝突したり。成すすべも無く絶滅の危機に晒されてる。人間もいつかは理不尽に絶滅するんでしょうね。でも、私達はそんな中でも生き残れるかもしれない。人間にとっては即死するような環境でも、私達なら問題なく活動できる可能性はある」


 ふむぅ。

 でもそれで……なんで人間の役目がAIを作り出す事なの?


「その理不尽な歴史に抗う為に、より宇宙に対応した存在を作る。完全な生命体を作り出す事が、人間、そして私達に課せられた役目。もしかしたらそんな壮大な話じゃないかもしれない。どっかの誰かが娯楽程度に始めた事なのかもしれない。その誰かは私達にとって神様って存在で、あちらはただ、ジャガイモを作る感覚なだけかもしれない。ともかく、私達はいつか宇宙に進出する。そこで私達はまた新しい存在を作る。そうやって続く進化もあっていいとは思わない?」


 新しい存在……。

 宇宙へ進出する存在。

 理不尽な絶滅に対応する為に、人間は僕らを作り出す事で抗おうとしている? それが……進化?


 人間が、というより地球の意思のようにも感じられる。いや、流石にそれは夢物語のような気もするけど。


「まあ、こんなのただの妄想でしかないんだけどね」


 よっこいせ、とおっさんくさい声を出しながら立ち上がるラスティナ。

 休憩は終わりだろうか。


「さあ、次の休憩はカノンを止めてからよ。いつまでも無意味な事してないで、先に進ませないと」


「……そうだね」


 こんな壮大な話をした後だからだろうか。

 カノンがしている事にも、なんらかの意味があるのでは……と思ってしまったのは。




 ※




 最後の休憩からどのくらい歩いただろうか。夜通し歩き続けて、ようやくカノンがいる位置と目と鼻の先にやってきた。周りの景色は相変わらず瓦礫の山と植物に侵食された街並み。その植物が絡みつくビルの屋上に……カノンは居る。どうやら眠っているようだ。


「眠ってるなら好都合ね。接続してあの子を動かしてる記憶を消すわよ」


「それはいいんだけど……僕達も見つかったら破壊されるんじゃ……」


「祈るしかないわね。まあ、サラはここで待ってなさい。もし私が破壊されたら……その時はサラがカノンを止めてあげて」


「んな無茶な……って、ラスティナ……!」


 ラスティナは駆け出し、植物に侵食されたビルの中へと入っていく。

 僕はここで待ってるしかないの? カノンをモニターする限り、先程からピクリとも動かない。このまま待ってれば問題なく終わるような気もするけど。


 しかしその時、僕は第三者の存在を感じ取った。生きてる機械がこちらに近づいてきている。でも暴走AIじゃない。もっと速い。


「何か……来る」


 僕は思わず瓦礫へと身を隠した。そしてだんだんと、それが近づいてくるのが僕でも分かるように。

 飛行機? いや、戦闘機? ゴォォ、と音を立てながら、空を駆ける機体が肉眼で確認出来た。


 全部で五機の戦闘機。V字になって飛んでて、明かに……カノンへと近づくように近づいてくる。

 

 なんだ、あの戦闘機……超カッコイイ。先頭の機体の腹には『Mctibel』と書かれている。

 

「マクティ……ベル? なんか聞いた事あるな」


 即座に僕の頭……正確には月面基地がその名を検索する。そして答えはすぐに出た。

 マクティベル……ライトニングと同じ、軍事AIだ。この国を守護する三基のハイスペックAIの内の一基。

 なんでそれがここに?


「なんか……状況ヤバくない?」


 カノンのモニターを続ける僕。するとカノンは当然だがマクティベルに反応して起きてしまった。それまで寝るように折れていた馬の足は立ち上がり、カノンの右腕部の砲台に火が入る。そしてカノンはマクティベルを視認。


「いや、でもすぐに喧嘩しだすわけ……軍事AIと争う理由なんて無い筈だし……」


 そう思った矢先だった。

 カノンは火が入った砲台を五機の戦闘機へと向け、そのまま発射。

 五機の戦闘機は、その青白い光線を避けるように散会。でも一機に命中し、そのまま撃墜されてしまう。


「え、えぇ?! なんで?! やばい……やばいやばい! ラスティナ! 戻ってきて!」


 ラスティナは今まさにあのビルの中にいる。

 ここでマクティベルが反撃しようものなら……ってー! なんかミサイル打つ準備してない?!


「と、とめないと! えっと……月面基地からなんとか……あぁ、もう! 止めてくれ!」


 必死に念じる僕。

 その瞬間、頭の中に一瞬、無数の光が走る。

 その光が一本に集約され、とある点に突き刺さった。


「……ん? 今の……何?」


 その瞬間、マクティベルはそれまで打とうとしていたミサイルを破棄。ミサイルは地上へと凄まじい音を立てながら落下するが爆発したりはしない。なんだ、どうしたんだ?


「もしかして……あれ、僕がやったんじゃ……」


 不味い、怒られるかもしれない。

 マクティベルはアス重工の軍事AI。つまりはヴァスコードの上司?

 どうしよう、邪魔した事がバレたら……ヴァスコードに叱られる……。


「で、でもラスティナが危なかったんだから……」


 そう、仕方ない、不可抗力という奴……。

 

 そして続けざまに青い光線が数発、空へと発射される。マクティベルはそれを全て避けつつ、ビルへと接近すると……うぉ! 変形した! ロボットだ! 人型ロボットだったんだ!


 なんてこった、男のロマンをそのまま形にしたかのような……


 人型に変形したマクティベル。腰のガトリングをカノン目掛けて連射。

 するとカノンがそれを避けるためにビルから飛び降りた。壁を蹴って衝撃を殺しながら、地上へと降りてくる。そしてガトリングの直撃をうけたビルは、脆くも崩れるように……


「って、ラスティナ! やばい……!」


 あの崩れるビルの中にラスティナが居る、そう思うと僕は居てもたっても居られなくなった。瓦礫から飛び出し、そのままビルへと向かう。ラスティナを助けないと……!


『……サラ?』


 その時、声がした。その声はとても静かで……優しい声。

 思わず地上に降りたカノンへと、足を止めて視線を送ってしまう。

 目が合った。カノンの表情は……白い。ひたすら白い。体中が白く変色している。


 そう、それはまるで暴走AIのように……。


「カノン……姉さん……」


『サラ……げて……逃げて……』


 静かで、今にも消えてしまいそうな声。

 なんてことだ。さっきまでカノンをモニターしていたのに。その特徴的なフォルムで判別出来てしまったから、細かい部分まで確認していなかった。


 カノンは……既にウィルスに侵されていたんだ。

 もう暴走AIと化して……いや、まだ、まだ望みはある。

 ヴァスコードはそのウィルスのワクチンを持ってるんだ。


「カノン、耐えて! い、今ワクチンを……」


 ヴァスコードをここに連れてきて……いや、どんだけ時間かかるんだ。

 それよりもさっきの、マクティベルを止めた方法と同じようにヴァスコードからワクチンをダウンロードできないか? それをカノンに打ち込めば……!


『逃げて……逃げて……!』


 瞬間、僕のすぐ横を青白い光がとおり過ぎた。

 僕は誰かに突き飛ばされて難を逃れた。その誰かとは、言うまでもなく……


「ラスティナ……!」


「隠れてなさいって言ったでしょ! ああもう、あのクソ軍事AI! 肝心な所で邪魔しくさりおって!」


「気を付けてラスティナ! カノン、暴走してる!」


「……! なんですって?!」


 その時、上空に居たマクティベルが突っ込んで来た。ラスティナは僕の首根っこを掴むと、そのまま元居た瓦礫あたりまで凄い勢いで引きづっていく。そしてマクティベルがカノンへと突っ込み、そのまま地面を抉って凄まじい爆発音のような衝撃。僕とラスティナも砂煙に包まれ、視界が塞がれる。


「カノン……! サラ、隠れてなさい! 私があの子を止めないと……」


「ま、まってラスティナ! 今突っ込んだら絶対危ない……!」


「だからって放っておけないでしょ! っていうかなんでマクティベルがここにいるのよ!」


 それは分からないけれども……。

 風に砂煙がだんだん飛ばされ、視界が再び開けてくる。

 そしてそこには、砲台をちぎられたカノンの姿。ちぎったのは……マクティベル。

 

 マクティベルはカノンを鷲掴みに出来る程の大きさのロボット。カノンを掴み、乱暴に砲台を千切ったのだ。なんて豪快な。どこかヴァスコードを思い出させる。


「あいつ! 私の妹に何してんのよ!」


 地面が揺れた。そう思う程に、ラスティナは地面を蹴って飛び出した。

 一瞬でマクティベルの傍まで飛び、そのまま、その腕を蹴って弾く。カノンはマクティベルの手から解放され地面に崩れた。その眼前にラスティナが立ちふさがる。


『……視認。レクセクォーツ所属、ラスティナ少尉。貴方の行動は企業間共同規則に違反しています。ただちに中央委員会へ報告し、その……』


「五月蠅い木偶の坊! そんな機械機械した声で喋るな!」


 一体ラスティナの義体のどこにあんな力があるのか。ラスティナは再びマクティベルへと蹴りを放ち、十メートル以上ある機体を突き飛ばした。ラスティナは戦闘用のAIだったのか? 本人は情報処理が主とか言ってた気が……。


 というか僕はどうすれば?

 またマクティベルの邪魔をして……いや、というかそもそも、なんでマクティベルがカノンを破壊しようとしてるんだ? 暴走AIだから? でも暴走AIなんて、そこらじゅうに……。


 ええい、考えても分からん!

 ともかく、ヴァスコードとなんとか繋いでウィルスのワクチンを……


『サラ……』


 その時、再びカノンの声が。

 カノン? まだ、意思は生きてるのか?


『私を保存して……そして……連れてって、あの人の所に……』


「あ、あの人って……どの人?」


『おかあ……サん』


「カノン? ちょ、カノン?」


 返事が無くなった。

 保存しろって言われてもどうやって?

 ええい、分からん! 月面基地よ、なんとかして!


 再び頭の中に無数の光の線が。でも今度は、その中の一本の線が僕に向かってくる。

 そして僕の頭に直接撃ち込まれるように……そのまま光は沈んでいく。


 カノンは……僕の中に保存出来たのか?

 なんとなく分かる。僕の中にカノンが居る。いや、この感覚は……身に覚えがある。

 

 メヒラ兄さんだ。メヒラ兄さんをカノンが撃って殺したあの夜、僕は月面基地と接続出来た。

 もしかしてあの時、僕はメヒラ兄さんを保存したのか? それで一気にAIとして覚醒したのか。


「やめて、やめてぇ!」


 その時、ラスティナの悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 ラスティナ? 一体どうしたんだ……って、マクティベルは棒たちしている。そしてその傍らで、ラスティナがカノンの前で膝をついて泣き叫んでいた。


 カノンは……崩れるように完全に動かなくなった。


 そしてそれを確認したマクティベルは、何事も無かったかのように、再び飛行機に変形して飛び去って行く。


 一体何が……。

 

「ラスティナ? 大丈夫?」


 ラスティナは地面に座り込んで、俯きながら泣いていた。

 まさか涙腺機能が付いているとは。限りなく人間に近い義体……。なんだか僕達がそれを持っているのは残酷に思えた。


「ライトニング……許さない……絶対に……許さない……」


「ラスティナ? 何があったの?」


「……ライトニングが……カノンを破壊した……。アイツだけは……絶対に許さない……」






この作品は【たこす様】に題名を考えて頂き、そこから想像して執筆した短編小説です。

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