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7話 ずぶ濡れの男
ずぶ濡れの男が立っている。
ずぶ濡れの男がこちらを視ている。
汚れたレインコートは男のシルエットを曖昧にし、
目深にかぶったフードはその表情を隠しているが、
悲しみを込めた瞳だけは、
射竦めるような視線だけは、
明瞭に感じ取ることができる。
男はこちらに一歩踏み出す。
思わず逃げ出そうとするも身体は動かず、
背を向けることも、
瞼を閉じることもできない。
男が一歩一歩近づく度に、
恐怖で身体が凍りつく。
ごめんなさい、
ごめんなさい。
嫌だ。
やがて男はこちらの目前に立つ。
水で濡れた顔が視界を埋める。
男の開いた口内から唾が飛び、
「――――」と、
そう言った。