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61話 予兆
此処は空気が薄く感じる。
頑張り屋で不器用な父は、悲痛な表情を浮かべている。
優しく不安に弱い母は、悲痛な表情を浮かべている。
狭い空間に満ちる静寂は、秒針の音を明瞭にしている。
暖かな影の中から、冷たい光が射す部屋を見ている。
此処は居心地が悪い。
此処は息苦しい。
だから本棚の間で籠る。
知識が延々と並んでいる此処は、
表情の穏やかな先生がいる此処は、
人間の繋がりを否定しているような此処は、
息苦しさを感じない。
広い空間に満ちる静寂は、秒針の音を明瞭にしている。
暖かな光の中から、冷たい影が射す図書を見ている。
できる限り、
赦される限り、
此処に居たい。
だが、秒針を進めるのは自分ではない。
此処は空気が薄く感じる。
少しでも良くなればと、
懸命になるが、
小さな身体では、どうにもならない。
無力な身体では、どうすることもできない。
此処は空気が薄く感じる。
「へーくん」
妹が手を振っている。