4話 1月4日 異世界召喚
「使徒様――使徒様――」
女性の声が聞こえる。
暖かな陽光、鳥のさえずり、薄く木々の香りがする。
座っている椅子から皮膚へ伝わる、ひんやりとした感触が心地良い。
身体はいつも通りだるいが、気分は良い。良く寝たからだろうか。
こんなに睡眠をとったのは久しぶりな気がする。
規則的な機械音、病室、”異世界に行け”と言った神を名乗る浅黒い肌のマッチョマン。
なんだか突飛な夢を見た気がする。
夢にしては明瞭に思い出すことができるのだが。
「大丈夫ですか――使徒様――」
やはり近くで女性の声がする。
暖かさ、鳥の声、匂い。
感覚を刺激している情報はどれも屋外のものだ。僕は外に居たような、居なかったような。
はて、僕はどこで眠っているのだろうか。
薄く瞼を開ける。
日の光が眩しくて、目に痛いほどだ。
しかし不快感はない。
少しずつ光に目を慣らしていく。
伸び放題だった長い前髪が、この時ばかりは少し有難い。
長い時間をかけて瞼を開け、うつむいた顔を上げると、
「ああ、良かった。気が付かれたのですね」
と目の前の女性が、ほっとした様子で言う。
彼女の後ろにもう二人ほど人影があるのも見える。
凛とした雰囲気の男性と、柔らかい雰囲気の女性だ。
こちらを見守るように立っていて、三人とも修道服のようなものを着ている。
目の前にいる彼女は僕の肩を優しくゆすっていたようだ、着ている高校の制服に女性の手が置かれている。
視界が安定してくると、僕はうわあと間抜けな声を出して、座ったままビクッと跳ねてしまった。
びっくりする状況で、びっくりするほど近い距離に、びっくりするほどの美人がいたのだ。
我ながら余りにも情けないと思うが、吃驚の三乗なのだ。許してほしい。
僕は一体誰に向かってあやまっているのか……
過剰に反応したせいで、彼女も驚いてしまったようだ。肩から手を離してぱちぱちと瞼を開閉している。
こちらが寝惚けて阿呆のようにぽかんと口を開けていたせいか、野放図な髪とよれた制服のせいか、彼女に、ふふ。と笑われてしまった。
こちらを馬鹿にするようなニュアンスは全く感じられない笑顔だったが、僕は何だかものすごく恥ずかしくなってしまって、慌てて口を”へ”の字に閉じる。いや、僕にはもっと恥ずべき箇所が無数にあるのだが……
「あ、失礼致しました。笑ってしまって――私はこの度、使徒様の”案内人”を務めさせて頂くことになりました、アイシャ・アリと申します。よろしくお願い致します」
と彼女は流麗な礼と共に挨拶をした。
事務的な内容の挨拶なのに親しみが沸いてくるのが実に不思議だ。
ハスキーさの混じった聞いていて心地よい声。笑みをたたえた顔は、目鼻立ちがくっきりしていてまれに見る美人だ。
年齢は僕と同じくらいだろうか。少女のような面影があるが、日本人にはない立体的な顔のつくりをしているためか分かりづらい。
修道服を一分の隙なく着こなしている。
木々の隙間から差し込む陽光に照らされて、キャラメルのような色の肌と、白を基調とした修道服とのコントラストが鮮やかに映え、素直に美しいと感じてしまう。
自分と同じ人間だとはとても思えない。
挨拶の所作と外見があいまって、完璧なひとに見えてしまう、とても目を合わせられない。
自分の醜さが際立ってしまうようで、思わず隠れる所が無いか探してしまった。
――今座っている、石でできた大きな椅子の後ろはどうだろう。
彼女は不思議そうな顔をしてしまった。当然だろう。
突然、挨拶した相手が座っている椅子を調べ始めたのだから。
度々の醜態を、本当に許してほしい。とあてもなく懺悔する。
僕は返礼することもなく、失礼な態度を取っていたことに気付いた。
もう本当に手遅れだと思うが挨拶を返す決意をする。
気をつけ、礼をして、言うぞ。
「さ、佐々木竝人です、こちらこそしるれいいました」
全体的に挙動不審だし、どもったうえに、舌が上手く回らなかった。
――誰かスコップを持ってきてくれ。穴を掘って入るから、そのあと土をかけて埋めてほしい。
アリさんは僕の全身全霊の挨拶――もとい寝起きの戯言を聞いて吹き出してしまった。体をくの字に曲げて必死に堪えているが、堤防が決壊したかのように笑いが漏れている。
アリさんの後ろにいる二人も苦笑している。
嗚呼、父さん、母さん、見知らぬ土地で恥辱に塗れ悶死する、愚かな息子をどうかお許しください。
僕の懺悔はどうやら父母に向けられていたようだった。
僕の狼狽した様子を見てアイシャ・アリさんは、
「こちらの世界に来られたたばかりの使徒様は、皆様混乱していらっしゃいますから、気にすることはありませんよ。
馬車で街に向かいますから。移動しながら詳しくお話ししますね」
と、そう言った。
一頭引きで木造りの馬車だ、全体的に使用感のある車体と幌が見える。
幌にはでかでかと紋章が描かれている。
僕たち四人はのろのろとした動きで馬車に乗り込んだ。
――のろのろしていたのは主に僕のせいなのだが。
二、二で向かい合うように座る。四人が座ったらすし詰めになってしまった。
僕の隣に座ったのがアリさんの後ろに立っていた男性で本当に良かった。
危なかった、肩や膝がぶつかる距離に彼女がいたら、緊張できっと泣き出してしまったのではないだろうか。
馬車に乗り込むと、
「遅ればせながら自己紹介をさせて頂きます。エルザ・マイです。以後、お見知り置きを」
柔らかい雰囲気の女性が、澄んだ声でそう挨拶をする。
僕やアリさんより少し年上だろうか、なんだかすごく賢そうな方だ。
陶器のような白い肌。
微笑みをたたえた、整った顔立ちをしておられる。
もちろん目は合わせられない。
「初めましてヘイト様、バースィルです。お会いできて光栄に思います」
隣に座る凛とした雰囲気の男性が、そう挨拶をしてくれる。
渋く、低い声が心地よい。
アラブ系と言うのだろうか。アリさんよりもさらに濃い肌の色をしていて、黒髪は短く整えられている。
他の二人よりもさらに年上だ。三十代後半くらいだろうか。
声と相まってダンディだ。同じ男としてちょっと憧れてしまう。
こちらも微笑みをたたえているからか、壁を感じることはない。
「あ、はい。ヘイトです。お世話になります」
なんとかそう返して、ふと――
三人はどう見たって日本人では無いのに、言葉が通じるようだ。
今更ながらそんなことに気付く。
僕は外国語が話せない。
日本語で会話するのさえ精一杯なのだ。――いやそれは別の意味でだが。
言葉だけでは無い、そもそも本当に”異世界”とやらに来ているのか?
不思議の国のアリスのように、僕は穴に落っこちたのだろうか。
分からないことが多すぎる。状況に全くついて行けていない。魂を家に置き忘れてしまったか。
「あの、言葉……」
僕がなんとかそう言うと。
ああ。とエルザ・マイさんが何か察したように、
「それを含めて、移動しながらお話しさせていただきますね」
と言って。馬車の御者に合図を出した。
間もなく馬車がゆっくりと進み始める。
幌の間からゆっくりと森林の景色が流れているのが見える。
「ええと……まず……主のお言葉をお聞きになったことはありますか?」
アリさんはそう切り出した。
酒……?
呪……?
しゅー
主、だろうか。僕は宗教の勧誘をされているのだろうか。
彼女たちの着ている修道服はやっぱりそう言う……
予想外の質問に固まってしまった僕を見かねて、アリさんが慌てて言い直す。
「じゃ、無くて……目覚める前に神様とお話ししたご記憶はありますか?」
そう言い換えて貰って、やっと言わんとしていることを理解する。
あの病室のような場所で会った、彼のことを言っているのだ。
「ああ、異世界とかなんとか、案内人がどうとか」
彼のことは信用できそうだったが、意識がはっきりしてくると理解できない部分が多くあったことに思い至る。
「はい。ヘイト様は神の使徒としてこの世界へといらっしゃいました――」
アリさんは説明を始めた。
月に一度ほど神からの天啓があり、僕たちのいた世界から、この世界に使徒が召喚されること。
召喚された使徒達は一年間この世界で暮らし、そのあと元の世界に帰ること。
そしてやはりというか、彼女たちは聖職者らしい。
この世界にきた使徒が右往左往しないように説明する役割が案内人。
エルザさんや他の修道女が案内人を担当することが多いが、今回はアイシャさんが担当すること。
彼女が案内人をするのは今回が初めてなことも聞いた。
天啓と言っていたから超常的な何かで決めているのかと思ったが、比較的手が空いている修道士や修道女が案内人を担当するらしい。思いのほか事務的だ。
次に元の世界との違い――
こちらの世界には、呪いがかかっているという。
黒い森。そう呼ばれる森林地帯があること。
黒い森は異常な速度でその範囲を拡大していくらしい。
瞬きをしたら苗木が大木になっていたとか。
木こりが昼休みにうたた寝をしていた間に、伐採した分が戻っていたとか。
信じられない話だ。
だから伐採し続けなければ、あっという間に手が付けられなくなってしまうらしい。
だがそれだけならば問題は少ないらしい。
木を切ればいい話だと。
そこから明るく溌剌としていたアリさんの口調が変わった。
出来るだけ淡々と話そうとしている。つらい記憶を思い出しながら、それを表情に出さないように。
彼女が言うには、
この世界にかかった呪いの本質は、そこでは無いらいしい――
魔物――
黒い森は魔物を生み出すのだと――
生み出された魔物は人より遥かに強大で――
人を――
人を殺めてしまうのだと――
要約するに、
黒い森を採らんとする人々を、魔物が喰らっていく。そうして抵抗力のなくなった街を、黒い森が呑み込んでいく。
そしてまた、範囲を広げた森が魔物を吐き出す。
そうして地図から消えてしまった街も少なくないのだという。
細菌が繁殖し、世界に膿が広がっていく。
そんな想像をしてしまう。
そんな終わらない防衛戦を、この世界は、この国は、この街は、
伝説に語られるような昔から続けているのだと。
だが、人もやられてばかりでは無い。
聖職者たちの祈りの力、秘跡。
悪魔と契約し、その力を借りる魔法。
そんな魔物と戦うための力があるらしい。
そして――
神の遣い――
この世界に来る際、使徒たちは神から人智を超えた力、才能を授けられるという。
異邦の言葉が分かるのもそのおかげらしい。
僕たちはその才能で魔物と戦うために連れてこられたのですね。と言うと。
とんでもありません。と言われてしまった。
違うのか、なんだか拍子抜けしてしまう。
「使徒様方は神の遣い。私たちのために戦わせるなんておこがましいお願いはできません。
皆さまはただこの世界にいてくれるだけで尊いのです。
ただ、まあ。
魔物との戦いに力を貸してくれる使徒様もいらっしゃいますし。
知恵を授けて、私たちの生活を支えてくださる方もいます。
ですが、それは使徒様それぞれで、この一年間をお好きに過ごしていただいて構いません。
教会を頼っていただけるのなら、慎ましいながら生活は保証いたします。
もちろん、私どもの少し仕事を手伝っていただけるならありがたいのですが」
そう続ける。
それを最後に話はひと段落したようだ。
いつの間にか森を抜け、幌の間から見える景色は農村のものになっている。
ここで疑問を口にしてみる。
「ちょっと待ってください。あの……本当にここは別の世界なんですか?いや……アリさんを疑っているわけでは……ないんですけども」
なにが疑っているわけではないだ。発言が矛盾している。自分の馬鹿さ加減にうんざりする。
アイシャで構いません。とアリさんは前置きして、
「当然の疑問です、ではちょっと見ていてください」
そう言って両手を、ボールを持つように構える。
ここが異世界だと証明する何かがあるのだろうか。何をするのか気になって、視線を彼女の両手に留める。
アリさんがすうっと息を吸い目をつむる。そして、
「――我が信仰を、命を照らす灯に」
そう呟いた。
…………ん?
何も起こっていないように見える。
何か変化しているのだろうか。
もしや馬鹿には見えない何かが起こっている?
まずい。知ったかぶりをするべきだろうか。
それとも正直に私は愚か者ですと懺悔するべきだろうか。
彼女らは聖職者だし……
そんな益体もないことを考える。
所在がなくなってしまったので、とりあえずアリさんの顔色を窺おうと両手に向けていた視線を上げる。
肌の色で分かりづらいが、アリさんの顔が紅潮している。耳まで真っ赤だ。
きっとなにか失敗してしまって、恥ずかしがっているのだ。
分かる。その気持ちはよく分かる。穴があったら土葬して欲しいよね。
僕は奇妙な同調をしてしまう。彼女にとっては迷惑だろうが。
どうしよう、といった感じで。アイシャさんはバースィルさんの方へ目線で助けを求めた。
仕方ないなあ、と言いたげな表情でバースィルさんが助け舟を出す。
彼はポーチから小振りなナイフを取り出し、
「ヘイト様、アイシャは治癒の秘跡を得手としているのです。少々お待ちください」
そう言って、自らの指先をちょっとだけ切る。
ぷつ。と傷口から血の雫が浮く。
アイシャ、と言いながら彼女の方へ切った手を差し出す。
アイシャさんは何かを察したように傷口に両手をかざし、
先程と同じように、すうっと息を吸って目をつむる。そして――
「――我が信仰を、この者を癒す力に」
そう呟くと。
傷が――みるみるうちに治って行く。傷が治る過程を倍速で見ているようだ。
おお、と声が漏れてしまう。
小さな傷はあっという間になくなってしまった。
奇跡、いや秘跡と言っていたか。なるほど、これは元の世界では起こりえない。
「どうでしょうか。他の”秘跡”もお見せいたしましょうか?」
アイシャさんはそう聞いてくる。成功したことにほっとしているようだ。
「いえ、大丈夫です」
治るとはいえ、自傷行為を伴うようなパフォーマンスをもう一度やってもらうのは申し訳ないので、遠慮しておく。
秘跡と呼ばれた不思議な力を見せることは、彼女たち案内人が使徒たちに信用してしまうための鉄板なのだろう。
――じゃあ、ここは、僕がいるこの世界は、本当に異世界?
「ヘイト様、間もなくティリヤ――私たちの住む街に着くようです」
静かに成り行きを見ながら、時折馬車の外を見ていたエルザさんがそう言った。
街を囲む高い壁、壁から頭を出している高い石造りの塔のような建物が見える。
いつの間にか目的地付近まで来ていたようだ。
いやしかしエルザさんの口をはさむタイミングや声色が完璧だった、僕とは比べ物にならない程のコミュニケーション能力を感じる。
門には街に入る長い列が出来ている。検問だろうか。
アイシャさんたち以外でのこの世界の人々。
中世を描いたブリューゲルの絵画に出てくるような人々が並んでいる。
家畜を連れていたり、馬車だったり、大きな荷物を抱えている、老若男女。
僕たちの乗る馬車が近づくと、気づいた人たちから道を開けてくれる。
幌の紋章に気づいたのか、優先して入れてくれるようだ。
ゆっくりと進むと。
止まれ。と甲冑を着た男が威圧的な声をかける。
門番だろうか。こういった声は怒られているようで苦手だ、つい委縮してしまう。
御者が馬を止め、バースィルさんが馬車を降りた。
すると、
「神父様方でしたか、失礼いたしました。どうぞ」
男は先程とはガラッと違う穏やかな口調で言った。
「いつもありがとうございます。良い一日を」
笑顔で言うとバースィルさんは馬車に戻り、また馬車がゆっくりと進みだす。
顔パスだ。
神父様と呼ばれていた。隣に座るバースィルさんは偉い方なのだろうか。
「お疲れでしょうが、もう少しで教会に着きますのでそれまでどうかお待ち下さい」
こちらを気遣ってかバースィルさんがそう声をかけてくれる。
情報量が多すぎて、疲れを感じる暇などなかったのだが。
偉い人にそうへりくだられてしまうと、なんだか恐縮してしまう。
僕は縮みあがってばっかりだ。
僕たちは壁の中へと進む。
街の様子は――
やっぱり中世の欧州のようだ、壁に沿った部分は木材建築が多く見受けられる。
中心部に向かうほど石材を基本とした、大型の建物が増えていくような印象だ。
そして人が多い――
門の行列とは桁違いだ。
様々な服装、色々な肌の色、老若男女。
まさに千差万別。
商人の呼び込み、修道士の説教、町人の笑い声――
吟遊詩人の歌声、楽器の音色――
馬車の走行音、雑踏――
どこかからか響く鐘の音。
細い路地が走る迷宮のような街に、人の息吹がこだましている。
この世界には魔物がいるらしいが、街からは穏やかな雰囲気を感じる。
「鐘の音が聞こえましたか?そちらの方に教会がございます」
キョロキョロする僕に、アイシャさんが声をかけてくれる。
「今日はお祭りか何かやっているんですか?」
街を満たす音と人々の活気からそう聞くと、
「いいえ、毎日こんな感じですよ。良い街でしょう?」
アイシャさんはそう答えてくれる。
「はい、とても」
僕は本心からそう答える。
時代も文化も異なる風景につい心を奪われてしまう。
ここまで元いた場所と異なると、別の世界に来たのだと実感してしまう。
好奇心が刺激される、後でゆっくり見て回ってみたい。
街の景観を眺めているうちに目的地に着いたようだ。
馬車がゆっくりと停車する。
教会と聞いていたが。
大きい、巨大な建物だ。
大きな礼拝堂、中央に伸びる塔、その頂上にはこれまた大きな鐘が付いている。
ここまでは一般的な教会のイメージだが、ここは広大な敷地に他の施設も併設されているようだ。
そのすべてが石造り。
上は見上げるように高く、横は左右に見渡すように広くて、首が忙しい。
マンモス校、という単語が頭をよぎる。教会には俗っぽい例えだろうか。
再びキョロキョロしているとエルザさんが、
「ここは使徒様方の言う病院もございますし、他にも孤児院、ワインの醸造所、霊廟、巡礼者のための簡易的な宿泊所なども併設されております。ですからこのように大きな建物なのです。我々聖職者には清貧であれとの教えがあるのですが、このような威容を放っていてはどうにも権威的でいけませんね」
と説明してくれる。説明の分かりやすさもそうだが、本当に気が付く人だ。
中に入り長い廊下を歩く。天井が高い。
街の建物とは違いガラスがふんだんに使われている。
陽光が良く入るように配置された窓が、建物の中を明るく照らしている。
飾り気はないが、絵画や骨董品なんかを飾れば王様か何かが住む豪邸に早変わりするだろう。
窓から見える中庭では、数人のシスターが洗濯をしているのが見える。
「こちらです、どうぞ」
バースィルさんが扉を開けてくれて、僕たち四人は部屋の中に入った。
会議室というか。椅子が数脚と長机がひとつ、廊下と同じで飾り気はないが、窓から射す陽光と、置かれた一輪挿しが部屋の雰囲気を柔らかくしてくれている。
もしかしたら取調室や実験室のような場所に連れていかれるのでは、と一抹の不安があったが、そんなことはなさそうだ。
椅子も机も簡素だが、しっかりとした作りでチープさはない。
この教会全体が質実剛健といった感じで好印象を持つ。
どうぞお座りください。と着席を促され、椅子のひとつに腰かけた。
「さて――」
一同が着席したのを確認して、バースィルさんが話し始めた。