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ヘイト・アーマー ~Hate Armor~  作者: 山田擦過傷
10月 リヴィングデッドを殺すには
141/189

134話 全ては在りし日の――

 


 ばしゃ――と、


 泥を蹴って踏み込み、斧を振り降ろす。切っ先は精緻(せいち)な甲冑を(かす)め、ぬかるんだ土に食い込んだ。


 飛び散った黒色の飛沫(ひまつ)が、白い外装を汚す。果敢(かかん)に振るう木こりの斧と魔剣が白い鎧を(とら)えることはない。


 吸血鬼の纏う白い甲冑は、雨と泥を浴びてますます美しく見えるようだった。(ヘルム)にあしらわれた天秤(てんびん)のような装飾からは、何の感情も読み取れない。


 夜に浮かび上がるような白い鎧は、両手に持った戦棍(メイス)で僕の斧をいなすと、呪いの鎧に前蹴りを打ち込む。


 (くる)(まぎ)れに振った魔剣はただ夜闇をかき混ぜた。


 追撃のメイスが頭に振り下ろされた。雨音が金属音にかき消される。意識が飛ぶのを(こら)え、斧を振り上げると、片腕に当たった。


 白い鎧の手から離れた得物(えもの)は放物線を描いて、黒い森の、木々の隙間に消えていった。

 一切の動揺を見せずに、吸血鬼は、残ったもう一本のメイスをこめかみに振り下ろす。


 視界が回り、


 ばしゃ――と、


 仰向(あおむ)けに転がった。ぬかるんだ地面は、身体に絡んできて、僕を飲み込もうとしているかのように感じる。恐怖から離れようと必死に後ずさると、背中が太い幹に当たって行き止まる。


「すまない、ヘイト君」

 無様(ぶざま)な姿を(わら)うでもなく、囁くような低音で言うと、吸血鬼は空いた手で銃把(グリップ)を握った。


「なん……で」


「神伐の悪魔はね、僕の息子を(よみがえ)らせるとこう言ったんだ。『また、息子と、妻と、同じ時を過ごしたいのなら、私の望みを叶えろ』と」


「死者の、蘇生(そせい)


 こちらを向く天秤のような装飾からは、何の感情も読み取れないが、酷く悲痛な声で、

「取り戻したいんだ。マルセル、ロザリアと、笑い合ったあの日々を。例え世界を、滅ぼすことになったとしても」


 白い鎧はこちらへ歩み寄る。


「僕は君を殺さなきゃいけない」


 言葉からは感情が消え、冷たい覚悟が宿っていた。


 吸血鬼――


「全ては()りし日の平穏のために」


 白い馬(ドラクル)は、僕に銃口を向ける。


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